1-9 Stage??:[ ]
……『佐伯悠月 彼について知りたければ、この場所へ』
悠月は引き寄せられている。
あっちへこっちへ、渦の中へ。
破片は散り散り、離れてく。
時間はゆっくり。
瞳の中に半分が吸い込まれて、
分け合った速度で、残りが流れていく。
目を閉じる。
男の姿。
写真でしか見た事の無い。
『彼』。
病室。
そして母。
二人が同じ一枚に並んでいて。
『RE;REIS』。
[Another]。
リーレイズ。
アナザー。
単語は散り散り、離れてく。
掻き集めるのは、頭の中で。
掻き集めていた。
あの時もそう。
姿を追って、詮索していた。
姉にだって知れない真実を。
開眼。
光る欠片。粒。
もう一度閉じる。
諦め。
否、そうでは無く……
興味の喪失。
自分の事で満たされる頭。
だから、分からずにいる。
見えずにいる。
母しか知れない真実が。
『けれども、お前はここに来た』
悠月が言葉に目を上げると、そこには辺り一面の白い空間が在った。
真ん中には道が一本通っていて、彼はその道の真ん中にぽつりと置かれたベンチに座り込んでいた。目の前に居る少年だか少女だか知れない存在の顔を、悠月はよく見る事が出来なかった。
「誰だ、お前」
「……悠月、君は何故ここに来た?」
――何故ここに来たって?それは僕が聞きたい事だ……
「どうして俺の事連れてきた?」脳内で瞬時に一人称を切り替える。
「……お前は、私があのカミキレでこの世界へと誘った物だと考えているね?」
「直感……お前何ていうか……ぱっと見物事の核心って感じがする」
「感じた事を疑いもしないで吐き出しているという事に気づきはしないかい?」
「いやだって……あれ?確かにそうだ……ここはどこなんだ?現実じゃない事は確かだけど、何か――でもおかしいって気はしないんだな、見る物全てが頭の中にすんなり入ってくる……つか」
「ここがどこだという事、私が誰であるという事はこの際関係ないよ……お前は今、一つの選択をしなければならない」
「は?なに?」
白い髪をした存在は、一歩下がり、道の真ん中に立って両手を広げてみせた。
「行くか戻るか、それだけの選択だ」
「……行先は?戻る場所は」
「行先は決意、そして戻り路も決意だ」
「んで皆分かるように説明してくんないかな」
「君は何かを求めて、知りたい事があったからここに来た。しかし何かをしようとする事だけが決意ではないよ、悠月……それを止めようとする事は、それを止める事で得られぬであろう物を捨てるという決意。こちらが善で、そちらが悪という訳でも無い。決めるのは自分、その影響を受けるのも自分だ」
「やる事もわかってないのにさ……」
ぼやきながらも、悠月は驚くほど軽やかな立ち上がりと共に、足を進めた。
「後悔は無いな?」
「そりゃ今は無いんだろうけど」
白い存在は片方の手を下げ、表情を少しだけ歪めた。悠月はその表情を読み取ろうとしたが、出来なかった。彼の顔に焦点を合わせようと思っても、不思議とできなかったのだ。悠月は眉間を押さえ、道を歩き始めた。白い存在に背を向け、彼はその道に見える一筋の線を辿り始めた。
「多幸ある路である事を望む」
「……それって本心なのか?」
悠月は振り返って彼の名を呼ぼうとした。だが、その名は出てこなかった。
「なあおい」
悠月が振り返った先は、真っ白な光の束だった。彼はそれに呑まれそうになったので、足を崩し、手を地面についた。地面――そんなものは彼が考えた時には既に無かった。