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お弁当は運動会のメインイベントだ

日下部拓也48、日下部千香44、智勇と由縁8、実7、金藤俊治 48、三隅淳子 38

 我が家の居間です。子供達と今月の予定を話していたときのことです。

「へぇ、運動会があるんだ!応援に行きたいなあ。」という主人です。

「この子達も大きくなったし、そろそろ、来てもいいんじゃない?」

「え?本当か!」

 実は、主人のことを子供達がパパと呼ぶので、なるべく学校行事にでないようにしていたのです。参観日も学芸会も出ていません。しかし、ずいぶん大きくなりました。ウソが言えるようになったはずです。

「ちょっと、聞きます。この人はだあれ?」

「パパでしょ。」と言う由縁ユカリです。

「そうです。先生や友達にはなんていうの。」

「美希叔母さん!」と智勇サトルが答えます。

「一つ聞きます。うっかり、パパと呼んだときは?」

「父親じゃ無いけど家ではパパと呼んでいると言っているでぇ。」と言うミノルです。

「うん、外国に行っているお父さんの代わりだと言っているよ。」という智勇サトルです。

「小さい頃からの習慣だと言っているわ。」という由縁ユカリです。

「ほら、大丈夫よ。まちがって、パパと呼んでも不審に思わないわ。」

「なるほど、そんな言い訳を通しているのか。」

「はじめは、そんなのウソやとか言っていたけど。」

「よし!パパが応援に行ってやろう。」

「わーい!」

「ママ!せっかくだ。ビデオを買おう!お弁当も豪華やつを作ろう。3段重だぞ。」

「パパ、そんなことしてもわいら給食やで。」

「え?本当なのか!どういうことだ。運動会といば、桟敷席で家族でお弁当を食べるのが常識だろう。」

「それがねぇ。今は違うのよ。親と食べれない子供がいるとかわいそうというので、みんな教室で給食よ。」

「そんな情緒のないことをやってられるか!お弁当は運動会のメインイベントだろう!」

「そんなのだれが決めたんや・・」という智勇サトルです。

「僕が決めた。しかし、親子別々の食事なんて、つまらんだろう。」

「だってそう言う決まりでしょう。仕方ないわよ。」という私です。

「しかしなあ・・・。そうだ!キンちゃんだ!電話してみよう。」

 主人は早速、金原主任に電話しました。


「キンちゃん!どういうことなんだ!何で、運動会は親子別々なんだ!説明しろ。」と強気で迫ります。幼なじみなので強気です。

「・・・・・」と金原先生はすまなそうに答えます。

「しかし、なあ・・・」と主人は粘ります。

「・・・・・」と金原先生はコンコンと理由を説明します。

「よおし!わかった。もう、頼まない。しかし、その条件をクリアしたら校長にたのんでくれるな。絶対、やるからな。」ととうとう主人は怒り出してしまいました。

「・・・」と金原先生のため息が聞こえるようです。

 電話が切れました。


「どうだったの。」

「だめだ。ママの言う通りだった。なんということだ。悪平等が蔓延している。ゆとり教育の弊害だ。こんなことが許されてたまるか!」

 なんか高尚なことをのたまっていますが、本心は子供達とお弁当を食べたいたげなのです。それでも、なんとかしようとするが主人です。


「PTAからの要望がないそうだ。まずはここからだな。今のPTA会長はだれだ?」

「そんなことも知らないの。」という私です。

「しかたがないだろう。学校参観も止められていたんだから。」

「それも、そうね。確か、芳川さんだったかしら・・」

「芳川?どっかで聞いたことあるなあ。」と言う主人です。

「また、同級生なの。」

 主人は地元民です。以外と知り合いが多いのです。

「あ!・・今の商店街の副会長が芳川さんじゃなかったか?」

「芳川というと『スーパーヨシカワ』の芳川さん?ここへ来た頃はよく行ってけどね。あそこまだやっているの。」

「ひどいことをいうなあ。まだ、やっているよ。ん?なんかに変わったかな。まあいいや、芳川おじさんがPTA会長ならば話がはやい。ちょっと、行ってくるよ。」

「え!いまから?」と驚く私をよそに主人は奥の部屋に消えました。

 そして、30分後、出てきた主人にびっくり!飲み屋の姉ちゃん風です。黒の網タイツに胸を強調した赤いワンピース、それに太股スリット入り!化粧もいつになく濃いです。

「あんた。そんな格好でどこへ行くの。」

「会長のところ・・・」

「なんで、そんな格好を!」

「おもしろいから・・・じゃ、行ってくるよ。」

「あ!だめ。着替えなさい・・・ああ、行っちゃった。」

 必死で止めようとする私を振り切って、駆け出しました。あーあ・・


 ここは、スーパーヨシカワの事務室です。みんなが唖然として見つめています。それもそのはずです。経理の数名の地味な羽色の事務服を着た事務員しかいないところに、派手な化粧した美人がやってきたのです。

「すみません。芳川のパパいる?」

「・・社長ですか?!今、いませんが、何の用ですか。」と驚く事務員さんです。

「ええ、ちょっと、頼み事がありまして・・」と答える主人です。

 芳川社長がいないので、事務員さんは奥さんを呼びにいきます。

「奥さん!ちょっと・・・女の人が・・」

 そう言う事務員さんに、呼ばれて奥さんが出てきました。

「どなたですか。」

「ちょっと、知り合いで、芳川のパパにはお世話になりまして・・・芳川さんはいませんか。」とにっこり笑っていいます。

「どういうお世話なんですか!」と奥さんは怒り始めました。

「どうといいましても・・」と主人は困惑気味に口ごもります。

 そこへ、芳川さんが帰ってきます。

「ただいま。」

「ちょっと、あんた!」と言う声とともに大根が砕けます。

「アイタ!いきなり何をするんだ。」

「どうしたも、こうしたもないわよ。ホントにいう人は!」

「ん?どうしたんだ。」

 奥さんはもう怒り心頭ですが、芳川さんはなんのことかわかりません。

「こら、おまえ、何をするんだ!」

「まだ、知らない振りする気ね!」

「一体、何があったんだ。どうして、こいつは、怒っているんだ?」

 そう言って事務員さんに聞きます。

「その女のひとですよ。」と事務員さんが主人を指し示します。

「はあ?あんた、だれだ?」と芳川さんは聞きます。

 主人はおかしくしくってたまりません。

「ははは、はははははは」

 ひとしきり笑い転げると、こう言いました。

「申し訳ありません。僕です。日下部拓也です。」

「日下部拓也・・・・たっちゃんか?!」

「ええ、そうです。」

「おまえ、勘違いするな。この人は、酒屋の息子のたっちゃんだよ。」

「え?たっちゃんなの?!」と驚く奥さんです。

「女になったとは聞いていたが・・・すごいな。」と驚く芳川さんです。

「すみません。お騒がせしました。僕が芳川のパパといったもんで・・誤解しちゃたみたいですね。だって、おじさんは薫君のパパでしょ?」

「どアホ!おまえ、そんな言い方したのか!誤解して当然じゃないか。」

「ははは、そのつもりは無かったんですが・・申し訳ありません。」

 ウソです。確信犯に決まっています。

「あれ?確か、製薬会社と言っていが、とうとう、クビになったのか?」

「とんでもない。ちゃんと、スーツ姿で勤めてますよ。これは、女装です。たまに、やるんです。」

「・・・どこが、女装だ! ところで、何の用だ。」

「あっ、そうでした。新瞳小学校PTA会長に話があって来ました。」

「PTA会長?!そりゃ、息子の薫だ!孫が新瞳小学校だかといてPTAまでやる訳が無いだろ!」

「そうでしたか。すみませんでした。えーと、薫君は、斜め前の百円均一ショップでしたね。」

「そもそも、PTA会長に何のようなんだ?」

「運動会ですよ。最近は、昼は家族とは別なんですって?」

「ああ、そうだな。こいつも、せっかく孫に弁当作ったのにと残念がっていたよ。」

「是非とも、それをこわしたくって、PTA会長に相談しにきたんですよ。」

「そうか。いいことだと思うが・・大変だぞ。他の親御さんが納得するようにするのは、いろんな人がいるからなあ。」

「わかっています。ぜひともしたいんです。」とそう言って事務室から出て行きました。

 あの元気さがほしいなと思う芳川さんでした。


 百円均一ショップでもまた騒動を起こしたはた迷惑ヤツです。芳川薫は、PTA会長で主人の2つしたの幼なじみです。商店が一緒に遊んでいた遊び友達でした。

 一悶着のあと、レジのの前で芳川薫は、主人に言いました。

「それは良いことだがなあ。お弁当を持って来れない子供はどうするんだ。」

「給食でいいだろ。どっちか選ばせたらいい。」

「いやいや、文句がでるぞ。第一、かわいそうだろ。」

「ウチで面倒みてもいいぞ。」

「何人分面倒見る気だ。食堂じゃあるまいし・・」

「そんなにいるのか。」

「自営業や共働き家庭では、そもそも見学にすらこないな。食事を作るのが面倒な母親も結構いる。そんな家庭では弁当はまず作らない。」

「なんと言う贅沢だ。僕なんて、作りたくても作らせてもらないのに。」

「ん?それはどういうこだ。」

「ちょっと、独創的な料理なんで、笑われるらしい。僕の弁当は学校へ持って行くのはいやだというんだ。家ではおいしいと食べるくせにな。子供社会は意外と保守的だぞ。」

「なんか問題が違うような気がするが・・・まあ、いい。それより、家族一緒に食べれない子供をどうするかだ。」

「他の親御さんに頼んで回れば何とかなるんじゃないか。」

「全校生徒300人はいるんだぞ。3割として90名もいるぞ。どうする気だ。」

「うーん。お弁当を配るか。」

「お金はどうする自己負担か?そんな金を出すなら給食をしようということになるぞ。」「むずかしいな。」

「だから、やめとけってば!」

「タダで弁当を用意すればいいんだな。絶対、なんとかしてやる。」

「・・・勝手にしろ。但し、もう、そんなはた迷惑格好でくるなよ。」

「さあ、努力する。」

「ど・・努力って?!馬鹿野郎、人の家庭を壊す気か。二度とくるな!」

「ははは、じゃ、また!」


 その日の夜です。いつもは、子供と一緒にアニメを見ている時間なんですが・・。実は主人はアニメオタクです。子供には健全なアニメを見せて、夜こっそり別室でRG15指定の深夜アニメを録画してみています。

「あれ?パパは・・」

「わからん。わいらの部屋にに閉じこもって、パソコンしとるでぇ。」と言う由縁ユカリです。

「また、アニメじゃかな。」と言う智勇サトルです。

「また、隠れてみとるんかいな。」

「ばか、言いなさい。きっと、仕事よ。」という私です。そう言う私も信用していませんが・・そのようにしとかないと親の面目がたちません。


 さて、夜も更け、子供の寝る時間です。

由縁ユカリ智勇サトルミノル、そろそろ寝たら?」

「はあい・・」

 そう言って、3人が子供部屋に向かいました。素直ないい子です。しかし、ドアがあきません。

「あれ?ママ、カギが掛かっているよ。」

「あら、本当ね。どうしたのかしら・・仕事かしら。」と一応仕事と強調しておきます。

「ありえるけど。パパのことだから、きっと・・」と言う由縁ユカリです。

 子供から完全に信用を失っている主人です。ちょっと、問題です。しかし、もう遅いですし明日のことを考えるとこれ以上子供部屋を占有されると困ります。

「パパねぇ。ホントにもう。パパ、開けてよ。子供を寝かさないと。」

 反応がありません。

「パパ!」

 そのときです。不意にドア空き主人が出てきました。

「千香!名案があるぞ。これなら絶対だ。」

「なんなの。お仕事の話?」

「いや、運動会のお弁当の件だ。」

「え・・・・やっぱり、仕事で悩んでたのじゃないのね。」

「何のことだ?」

 これだから・・もう、つなぐ言葉がありません。

「まだ、懲りずに・・で、それで、どんな名案なの。」

「あのなあ。実は・・・・」

「えーーえ!」と驚く子供達です。

「そんなことできるの!」と驚く私です。

「しかし、なあ・・そんなの無理やで。」と言う由縁ユカリです。

「やるんだ!子供とのたのしいお弁当のために・・この楽しさを知らずに育っては絶対いけない。運動会は只、参加することに意義があるわけではない。これは親子の愛情を認識する大事な時間なんだ。これは情緒教育に必然なんだ。」

「わかったわ。もう良いから・・パパ、ひとりでがんばってよ。私は知らないから・・」

「そんなことを言うなよ。手伝ってよ。」と主人は泣きを入れはじめした。

「知らないわよ。」

「おまえらは・・手伝うよな。・・手伝ってくれるよな。」と主人は子供達に向かって言いました。

 子供達は迷っているようです。

「わいは、てつだうでぇ。」とひとり裏切り者が出ました。

「おっ!さすがは、ミノルだ良い子だ。」

「私も!」

「僕も・・それで何をするの。」

「おまえ達のやることはなあ・・・」

「えーえ。」

「手伝うと言っただろ。パパもやるから・・」

「ママも手伝うから、やりなさい。」

 うーん。つくづく、私って、主人に甘いなあ。翌日から主人と子供達の商店街行脚が始まりました。そして・・・・


 学校の職員室です。出勤に使うスーツ姿の主人と金藤俊治先生が会議室で話をしています。いつものように化粧美人です。主人と会議室に入るのを見た同僚の三隅淳子先生は、にやにやして、金原先生にガッツポーズをしてエールを送っています。

 机の上には、書類の束があります。それを広げながら、主人は言いました。

「どうだ!キンちゃん。校長に談判してくれるよな。」

「おまえ、普通の格好も出来るんだな。はじめから、その格好でくれば、変な誤解を受けなかったのだが・・」

「今は、そんなこと関係ないだろう。これを読んでくれ。これならば、ほしい子供には全員弁当を届けることができるぞ。」

「ん?・・・・すごい!こんな手があったか。PTAからの要望書あるか?」

「当たり前だ。PTA会長の印もあるぞ。」

「これって・・会長の独断じゃないのか。あの短時間で、保護者会ができるとは思えないけどな。」

「そこは、熱意、籠絡ろうらく、脅し、あらゆる手を使ったからな。」

籠絡ろうらく?脅し?! おまえ何をしてんだ。」

「ははは・・冗談に決まっているじゃないか。」

「しかし、いまから、間に合うかな。」

「そこを何とかしろよ。いまさら、引っ込みがつかない。」

「わかったよ。」

「そうか!・・・だったら、この手は使う必要ないなあ。」

 そう言って、主人は携帯電話の画面を閉じます。金原先生は冷や汗を流して言いました。

「おまえ、何をする気だったんだ。」

「うーん。昔のネタをな。心配するな。大丈夫だよ。ちゃんと、削除して置くから・・」

「・・・恐ろしいヤツ。」

 何よりもこんなことに賭ける情熱がすごいです。こうして、とうとう、運動会のお弁当を実現していまいました。


さて、どうしたのでしょうか?


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