妖怪の山 その1
宿題のあと片づけをしてたら遅れてしまいました
(注意)
この物語に出てくる妖怪は僕の知ってる知識の範囲で書かれてる場合があり、実際のものとは異なる場合があります。ご了承ください。
「佐助さん、迎えって来るんですか?」
「そろそろじゃねぇか?」
僕、太一と大家さんとお鈴ちゃんと佐助さんは夏休みを利用し妖怪の山へ行くことになりました。
歩きで十分な距離と言ってましたが迎えが来るというならありがたく連れて行ってもらおうということになりました。
「そういえば佐助、お前電話使ってたよな。妖怪たちが住んでるのって山って言ってなかったか?」
大家さんが気になっていたことを佐助さんに聞いてくれた。たしかに山の中で電話などつながるのだろうか?
「聞きたいか?ホントに聞きたいか?」
「なんだよ、その言い方。いったい何してるんだ、妖怪は」
「そんなこと話してるうちに迎えが来たぞ」
遠くに車が見えた。あれに妖怪が乗っているのか。
もはや何にも驚かなそうだけどどんな妖怪が乗ってるんだ。
「よー、佐助。久しぶりだなー」
「藤村じゃねぇか。運転できるようになったんだ?」
「つい18年前。ちなみに新車よー」
運転していたのは女の子だった。僕よりも身長が小さく、見た感じ中学生にしか見えないんだけどな・・・。
でも、拍子抜けしてしたな。もしかして、僕が想像してたあんな妖怪とかこんな妖怪っていないの?
「とりあえずみんな乗っちゃってー。荷物は後ろに積んどきなー」
「この娘は何の妖怪だ?」
「たしか輪入道だったか?」
「イエース」
輪入道って、あのでっかい車輪が燃えてて真ん中におっさんの顔があるやつ!?
「おい、そこの少年。しつれいなこと考えたなー。妖怪というのはな、結局は人間の空想でしかないんだ。昔の人々が創りあげたものでも、時代が経てば姿かたちは変わっていく。妖怪というのはそういうものなんだ。今の妖怪はほとんど今の人間と容姿は変わらない。ただちょっと人間よりも何かが優れている程度の人間に似た生物なのさー」
心を読まれた。じゃあ、僕の考えていた妖怪は空想の産物だというわけか。
「いや、ちょっと違う。昔までは太一が思っているような姿をした妖怪もいたんだ。妖怪は世間からの見られ方によって人間から見える姿が変わっていくんだ。だから、恐ろしい存在として見られた昔は異形の化物、存在として信じられなくなった現在は人間と変わらないこんな姿に見えるんだ。本当は昔も今も人間が見てる姿とは違うんだがな」
「えっ、じゃあ本当の佐助さんは河童の姿として有名な皿をつけた緑色の体の生物でも、今見てる人間としての姿でも無いんですか?」
「あ~、ややこしくなるんだが、要するに『お前がそう思うんならそうなんだろうな』ってことだよ。シンプルにな。あっ、でも俺らからすれば妖怪の判別なんてどうってことねぇんだよな」
思ってたよりもずいぶんと難しい存在なんだな、妖怪って。
「あのさ、いまさら思いついたんだけど藤村さんって言ったっけ?あんたが運転してるのって輪入道の輪と車の車輪を掛けてるの?」
大家さんが唐突に藤村さんに聞いた。
「・・・・そうよ」
妖怪って案外単純な存在なのかもな・・・。
そんなこんなで着きました、妖怪の山。
さすが、徒歩20分の場所。話を少しするだけで着くほど早い。
「おぉ、涼しいなぁ。山の中は」
「久しぶりに戻ってきたな」
人が住む場所とは何か違う、昔の雰囲気が残った場所だ。
村くらいの規模はあるものの、そのなかに現代の建物らしきものは無い。
ここの人たちは全員妖怪なのかな?
「うぅ・・・」
お鈴ちゃんの元気がなく、顔色も悪い。
「大丈夫、お鈴ちゃん!?もしかして車酔いしたの!?」
「うぅ・・・、すみません。ご迷惑をおかけして・・・」
お鈴ちゃんは車に酔いやすい体質だったらしい。ここまで何もしゃべってないと思ったらまさか酔ってるなんて・・・。
「とんでもない!そんなことより大丈夫なの?」
「おい、太一。鈴をこっちに運んで寝かせてくれ」
そう言って佐助さんは何かを取りに行きに走って行ってしまった。
「にゃ~ん、心配するにゃ。薬を取りにいっただけにゃん」
いきなり後ろから声を掛けられたもんなので思わず飛び退いてしまった。
見てみるとゴスロリファッションで、よく見るとふさっとしている髪の中に猫耳が生えていた。
「すまにゃいすまにゃい。気づかれずに近づくのに慣れちゃっててにゃ」
そしてにゃはははと笑う。
「もしかして猫の妖怪ですか?」
「正解にゃ。種類的には化け猫にゃ。あたしの名前はにゃにゃせにゃ。今後ともよろしくにゃ」
「にゃにゃせ、さん?」
「あ、七瀬にゃ」
普通に発音できるんだ。
「七瀬さん、薬ってなんですか?」
「どんな病気にでも効く万能な河童の秘伝の薬。佐助の家は結構いい薬屋でね」
「佐助さんとはお知り合いなんですか?」
「幼馴染みたいなもんよ。小学校とか中学校とかで一緒だった腐れ縁ってやつ?」
人間から見たらずいぶん長い付き合いなんだろうな、多分。
「おう、七瀬。久しぶりだな」
「佐助久しぶりー」
佐助さんがツボを抱えて戻ってきた。
「よし、鈴。ちょっと我慢してろよ」
そういって思いっきりツボをひっくり返して中身を全部お鈴ちゃんにぶっかけた。
これがさっき言ってた例の薬なのか?なんか薬というよりまんま水みたい。
「きゃああ!!ちょっと佐助さん!急に何するんですか!・・・あれ?元気になってる」
お鈴ちゃんががばっと体を起こした。
どうやらもう治ったらしい。すごいな、河童の薬って。
「これからどうするの?泊まっていくの?それとも日帰りー?」
「俺は一日泊まるつもりだ。で、こいつらは日帰り。帰りも頼むな」
「りょうかーい」
ここからは別行動になった。佐助さんは自分の家へ帰り、僕らは自由に遊ぶことにした。藤村さんと七瀬さんは僕らについてきてくれることになった。
「じゃあ、どうするかなぁ。来たはいいが何も考えていなかったし」
「村でも紹介するかにゃ?」
「紹介するほどのものなんてないけどねー」
「それなら俺に任せな!」
空から声がしたので上を見上げると人が降ってきた。
そしてきれいに頭から落ちた。いくらなんでも大丈夫かな。
「俺は涼太ってんだ!よく来てくれたな!人間でも大歓迎だ!ゆっくりしていきな!」
「は、はい」
「涼太はね、烏天狗なんだよー。しかもこの村の警官みたいなこともやってるんだよー」
「というわけで困ったことが合ったら何でも言いなさ~い。俺がパパッと解決してやんよ!」
背中には黒い翼が生えており、服装も七瀬さんたちのような人の着る現代の服ではなく
なんて勢い任せの人だ・・・。こんな人が警官で大丈夫なのかな。
「お~い、村長が帰ってきたぞ~!」
村の妖怪の一人がみんなを呼びかけていた。
「村長が帰ってきたのか!みんなもちょうどいいから会ってきたらどうだ?」
「村長ってどんな人なんですか?」
「そりゃ強くてみんなからの人望も厚い。そして優しい。まさにリーダーって存在だな!」
「やっぱ村長も妖怪なんですか?」
「あぁ、しかも最強なんだぜ!」
「どんな妖怪なんですか?」
「それはな・・・」
涼太さんがいったん間を置いて答えた。
「鬼なんだ」