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AI勇者は諦めない  作者: ゼロスキルのAI使い
王都編

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53/55

第53話「迎え」


変化は、知らせより先に足取りに現れる。



自宅の鍵を受け取ったあとも、すぐにそこへ向かうことはしなかった。


王都での用事は、まだ残っている。

巡回の確認、引き継ぎ、形式的な報告。

生活が変わると分かっていても、仕事は仕事だ。


ただ、その日の動きは、どこか違っていた。


歩く速度が少し遅い。

周囲を見る回数が増えている。

王都の街並みが、初めて訪れた場所のように感じられた。


呼び止められたのは、昼を過ぎた頃だった。


「少し、よろしいですか」


近衛兵の一人が、控えめに声をかけてくる。

いつもより距離が近い。


「何でしょう」


「連絡事項です。

あなた宛てに」


一瞬、仕事絡みかと思った。

だが、続いた言葉は違った。


「すでに、馬車は出ています」


私は立ち止まった。


「……馬車?」


「ええ。

王女の指示です」


それ以上の説明はなかった。

だが、内容は察せられる。


『対象、移動中』


短い表示。

行き先は、王都。


私は一度だけ、深く息を吐いた。

胸の奥で、何かが静かに動く。


「到着は、いつ頃に」


「日暮れ前には」


近衛兵は、事務的に答えた。

だが、その表情は柔らかい。


「自宅の方には、すでに手配が済んでいます。

あなたが先に入る必要はありません」


つまり、私が知らないところで、準備は進んでいた。


仕事を終え、街を歩く。

夕方の光が、石畳を橙色に染めている。


今までなら、この時間帯は落ち着かなかった。

何かが起きるかもしれない、という意識が離れなかった。


今日は違う。


『現在、緊急性の高い危険要因なし』


数字を確認し、私はそれを閉じる。


危険がないから、ではない。

考えが、そこに向いていない。


馬車の音が、遠くで聞こえた気がした。

振り返っても、姿は見えない。


それでも、足は自然と前に出る。


自分でも驚くほど、軽い。

昔の感覚に、少しだけ近い。


絶望の中にいた頃、迎えを待つことはなかった。

待つ余裕がなかった。


今は違う。


何かが、こちらへ向かってきている。

それを、拒む理由はない。


私は歩き続ける。

まだ、会ってはいない。


だが、変化はもう始まっていた。





【あとがき】

今回は、迎えが動き出した段階までを描きました。

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