第49話「確定と影」
確定する事実は、いつも一部だけだ。
拘束された人物は、王宮内の一室に移された。
装飾のない石壁。
机と椅子が一つずつ。
ここは、問い詰めるための場所ではない。
私は壁際に立ち、距離を保つ。
近衛兵と、同じ任務を受けている護衛が、それぞれ役割の位置に入る。
『対象、行動能力制限中』
確認だけでいい。
捕らえられた男は、俯いたまま動かない。
呼吸は落ち着き始めている。
抵抗する気配はない。
「氏名」
近衛兵が淡々と問いかける。
男は一瞬だけ視線を上げ、すぐに逸らした。
名乗らない。
想定の範囲だ。
刃物が机の上に置かれる。
布を外すと、金属の表面が光を反射した。
「これについて」
反応は、ほとんどない。
だが、指先がわずかに動いた。
『反応一致』
私は、その事実だけを受け取る。
「製作経路は?」
沈黙。
「指示系統は?」
やはり、答えはない。
護衛の一人が、男の袖口を見る。
縫い目の粗さ。
補修の跡。
「現場対応役、で間違いないな」
確認するような声だった。
「ええ」
私は短く返す。
役割は、はっきりしている。
計画を立てる側ではない。
実行するために配置された駒だ。
『組織的関与、確定不可』
数値は出ない。
だが、否定もされない。
王女エリシアは、この場にはいない。
彼女が立ち会う必要はない。
代わりに、近衛兵が一歩前に出る。
「今回の件は、ここまでだ」
その言葉に、男は反応しなかった。
だが、緊張がわずかに緩む。
役割を終えた、という空気。
部屋を出ると、廊下は静かだった。
誰も声を上げない。
「実行犯、という扱いで進む」
近衛兵が告げる。
「異論はありません」
私は頷く。
事実として確定するのは、そこまでだ。
それ以上を決める材料は、まだない。
『背後要因、未特定』
頭の中に残るのは、その一文だけ。
王宮の外に出ると、夕暮れが近づいていた。
空の色が変わり、影が長く伸びる。
護衛任務は、一区切りついた。
だが、終わったわけではない。
捕まえた。
確定した。
それでも、線は途中で途切れている。
私は立ち止まり、王宮を振り返る。
ここで起きた出来事は、表には出ない。
だが、確実に残る。
見えない相手が、まだ動いている。
それだけは、はっきりしていた。
【あとがき】
実行犯は捕らえられ、護衛任務は一つの区切りを迎えます。
しかし、残った影は次の動きを待っているだけです。
次回、報酬と生活の変化が訪れます。




