第48話「包囲」
動きが揃う時、言葉は減っていく。
王宮内の巡回が、いつもより早い周期で回っている。
誰かが号令をかけたわけではない。
だが、足音の間隔と、立ち止まる位置が揃っていた。
私は、前日の未遂現場をもう一度通る。
床の傷は補修され、痕跡は消えている。
だが、距離と角度は頭の中に残っていた。
『行動予測範囲、三地点に収束』
選択肢が減った、という事実だけを受け取る。
それで十分だ。
「ここを基準にします」
私は低く告げ、回廊の一角を示した。
庭に面し、外部と内部の境界が曖昧な場所。
護衛チームの一人が、短く息を吸う。
「逃げ道は?」
「一つだけ残す。塞ぎすぎない」
近衛兵が頷き、配置を伝達していく。
誰も余計な言葉を挟まない。
『包囲成功確率、68%』
数字は高すぎず、低すぎない。
実行するには、ちょうどいい。
視察は予定通り始まった。
王女エリシアも、歩調を変えずに進む。
彼女の背後には、私と、同じ任務を受けている護衛が並ぶ。
視線が一度だけ交わり、合図もなく位置が微調整された。
問題の回廊に入った瞬間、空気が変わる。
『発生』
私は声を張らない。
「今」
それだけで、動きは揃った。
正面の近衛兵が距離を詰め、側面が塞がれる。
背後に残した通路へ、影が走る。
「止まれ」
警告は一度だけ。
相手は躊躇せず、逃走を選んだ。
短い追走。
足音が重なり、誰かの肩がぶつかる。
「右、押さえろ!」
護衛の声が飛び、同時に影が体勢を崩す。
近衛兵が一気に組み付き、床に押さえ込んだ。
抵抗はあった。
だが、複数の手が確実に動きを封じる。
「拘束、確認!」
「怪我人は?」
「なし!」
簡潔なやり取りだけが続く。
私は一歩距離を取り、捕らえられた人物を見る。
荒い呼吸。
手袋の縫製。
刃物を投げた側の癖。
『一致率、82%』
同一人物。
そこまでは、想定内だ。
王女は少し離れた位置で立ち止まり、周囲を見渡している。
護衛の一人が自然に彼女の前に立つ。
「ここは離脱します」
私がそう言うと、誰も異論を出さなかった。
連行が始まり、回廊に残る人影が減っていく。
静けさが戻るが、緊張は解けない。
「……終わった、とは言えないな」
護衛の一人が、確認するように言った。
「ええ」
私は短く答える。
捕まえたのは、実行役だ。
役割を果たした駒に過ぎない。
『背後要因、未解析』
数字が示す通りだ。
派手さはない。
だが、それでいいとは思っていない。
ただ、必要な工程を一つ進めただけだ。
護衛任務は、次の段階に入った。
それだけは、はっきりしている。
【あとがき】
捕縛は達成しましたが、全体像には届いていません。
次回、確定する事実と、残る違和感が整理されます。




