第47話「再発」
備えがある時ほど、事態は静かに起こる。
朝の王宮は、静かすぎた。
人の動きはある。
巡回も、護衛の配置も、昨日より整っている。
それでも、空気が張りつめているのが分かる。
私は視察ルートの始点で、足を止めた。
『異常値、前回比で上昇』
数字だけが浮かぶ。
予想の範囲内だが、無視できるほど低くはない。
「予定通り行きます」
そう告げると、護衛チームが短く応じた。
近衛兵も、同時に動く。
王女エリシアは、私の横を通り過ぎる。
「今日は、長くなりそうですか?」
「状況次第です」
それ以上は言わない。
彼女も、深くは聞かなかった。
回廊を進み、中庭へ出る。
風は弱い。
旗の音も、ほとんどしない。
その瞬間だった。
『高確率事象、発生』
思考より先に、身体が動いた。
「伏せて!」
声を張り上げると同時に、私はエリシアの前に出る。
金属音が、石に弾かれる。
遠くで、誰かが叫んだ。
矢ではない。
投擲された、小型の刃物。
狙いは一つ。
位置も、角度も、迷いがない。
護衛チームが即座に展開する。
近衛兵が盾を構え、視界を塞ぐ。
「右、回廊!」
短い声が飛ぶ。
私は一瞬だけ、床に落ちた刃を見る。
同じだ。
前回と、ほぼ同じ手口。
『行動パターン、一致率74%』
「追わない」
即座に判断する。
今は、守る。
混乱は、長くは続かなかった。
数十秒で、王女は安全圏に移される。
負傷者はいない。
被害は、床に残った傷だけだ。
「……また、か」
誰かが低く呟いた。
私は刃物を回収し、布で包む。
重さ、形状、加工の癖。
覚えがある。
『次回行動予測、範囲縮小』
「場所が絞れるな」
独り言のように漏れた言葉に、近衛兵が頷く。
「同感だ」
控室に戻った後、簡易的な確認が行われた。
目撃情報、音、影。
誰も感情を口にしない。
必要なのは、事実だけだ。
エリシアは、椅子に腰掛けたまま、黙っている。
手元のカップに、指が触れている。
「問題ありませんか?」
私がそう聞くと、彼女は一度だけ顔を上げた。
「ええ。あなたの判断は、正しかった」
評価の言葉だが、重さはない。
今は、それでいい。
『次回、行動間隔短縮の可能性』
私は小さく息を吐く。
再発した。
それは、悪い知らせでもあり、進展でもある。
見えない相手が、少しだけ姿を現した。
護衛任務は、次の段階に入った。
まだ、終わりは見えない。
【あとがき】
二度目の未遂は、偶然ではありません。
次回、追う側にわずかな輪郭が見え始めます。




