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AI勇者は諦めない  作者: ゼロスキルのAI使い
王都編

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45/55

第45話「護衛という日常」

護衛は、特別な出来事が起きない日ほど神経を使う。



王宮の朝は、相変わらず静かだった。


石畳を踏む音、遠くで開く扉の気配、巡回兵の足取り。

どれも昨日と大きく変わらない。

だが、完全に同じというわけでもない。


私は立ち止まり、視察予定の回廊を目でなぞった。

左右の柱、天井の高さ、曲がり角までの距離。

護衛として配置されるには、悪くない場所だ。


『成功確率、前回比で1.8%低下』


脳裏に浮かんだ数値を、私はそのまま受け取る。

理由を尋ねることはしない。

必要なのは判断材料であって、説明ではない。


「配置、少し詰めます」


そう告げると、近くにいた近衛兵が小さく頷いた。

理由を聞かれなかったことに、違和感はない。

最近は、それで通る。


王女エリシアは、数歩先を歩いている。

背筋を伸ばし、視線は前へ。

護衛対象としてではなく、ここでは「この場にいる人間」として振る舞っている。


視察が始まってから三週目。

護衛任務は、特別な出来事ではなくなりつつあった。


それが良い兆候なのかどうかは、分からない。


回廊を抜け、中庭へ向かう。

光の入り方、風の流れ。

前回と比べ、庭師の配置が一人増えている。


『要因:非戦闘員増加。視界遮断率、微増』


私は一歩、立ち位置をずらした。

それだけだ。


エリシアが足を止める。


「今日は、こちらを通る予定でしたか?」


「ええ。ただ、少しだけ」


言葉を選ぶ。

必要以上のことは言わない。


「……分かりました」


彼女は理由を聞かなかった。

それも、最近では珍しくない。


中庭を抜ける頃、違和感は消えないままだった。

だが、何かが起きる気配もない。


『現時点での直接的脅威、検出なし』


それでも私は、警戒を解かない。

何も起きない時間が続くほど、後で帳尻が合わされることを知っている。


視察は予定通り進み、王宮内へ戻る。

護衛チームとの合流も、滞りなく行われた。


「問題なし、か」


誰かが小さく呟いた。

その言葉に、私は首を横に振らなかった。


問題がない、という判断を下す材料が、まだ揃っていない。


任務終了後、控室で簡単な報告を行う。

数値、配置、変更点。

感想は含めない。


近衛兵の一人が、こちらを見る。


「最近、判断が早いな」


「……慣れただけです」


それ以上の会話は続かなかった。


王宮を出る頃には、日が傾き始めていた。

宿へ戻る道すがら、私は今日の動きを頭の中でなぞる。


変わったことは、少ない。

だが、少なすぎるのも不自然だ。


『次回視察時、注意項目を二件追加』


「分かった」


声に出して答える必要はない。

それでも、私は小さく息を吐いた。


護衛任務は続く。

日常のように、静かに。


何も起きない一日が、積み重なっていく。


それが、今は一番危険だと分かっていながら。





少しずつ「日常」になっていく護衛任務。

しかし、何も起きない時間こそが違和感を育てていきます。

次回、視察ルートに小さな変化が生まれます。

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