第43話「ひとつだけ違う」
日常の中に、ひとつだけ違うものがある。
護衛任務は、三週間目に入った。
朝、王宮の門前に集合する。
リーダーが点呼を取る。配置を告げる。
俺は後方。それは変わらない。
「今日は午前中に来客対応、午後は執務室だ」
いつもと同じ流れだった。
王女エリシアが姿を現す。
俺たちは歩き始める。
『本日の予定は過去データと一致。特異点なし』
変化がない。
それが続いている。
来客対応の護衛に就く。
謁見の間の外、俺は壁際に立った。
廊下を行き交う使用人。
窓から差し込む光の角度。
魔道具の配置。
全て、昨日と同じ。
一昨日と同じ。
二週間前と同じ。
『過去三週間の観測記録と比較。人員配置、動線パターン、魔力反応、いずれも安定』
何も変わっていない。
来客が到着する。
中年の男性。商人風の服装。
護衛が二人ついている。
『来客の身元は別部署で確認済み。本護衛の管轄外』
俺には関係ない。
見ているだけだ。
来客が謁見の間に入る。
扉が閉まる。
静かな廊下。
他の護衛たちは、黙って立っている。
時間が過ぎていく。
俺は、ふと廊下の奥を見た。
使用人が一人、歩いていく。
『使用人の服装、識別番号を確認。第三区画所属、清掃担当』
特に異常はない。
だが、俺はその使用人を目で追った。
理由は分からない。
ただ、何か引っかかった。
使用人は廊下の角を曲がり、見えなくなった。
『対象はルート通りに移動。過去の動線データと照合……一致』
一致している。
異常はない。
なのに、引っかかりが消えない。
『違和感の原因を特定できず。追加情報が必要』
追加情報。
何を見ればいい。
謁見が終わり、来客が去る。
王女が扉から出てくる。
「昼食を」
短い言葉。
俺たちは移動する。
昼食後、執務室の護衛に就く。
廊下で待機しながら、俺は考えていた。
さっきの使用人。
何が引っかかったのか。
『先ほどの使用人について、記録を照合』
服装は正規のもの。
動線も正規のルート。
歩く速度、姿勢、全て通常範囲内。
『有意な差分は検出されず』
差分がない。
なのに、俺は何かを感じた。
気のせいか。
『「気のせい」の定義は曖昧。客観的判断材料なし』
分かっている。
夕方、護衛任務が終わる。
「明日も同じ時間だ」
リーダーの言葉を聞き、俺は王宮を後にした。
宿への道を歩きながら、まだ考えていた。
あの使用人。
服装は正しかった。
動線も正しかった。
全て、正しかった。
だが。
『照合データとの差分を再検索中』
歩いていると、ふと思い出した。
靴。
あの使用人の靴だ。
『使用人の靴に関するデータ。王宮使用人は支給品を着用。黒の革靴、型番統一』
支給品の靴。
それは知っている。
だが、さっきの使用人の靴は……
『視覚データを再構築中。解像度の限界により、詳細な特定は不可能』
見えていたはずなのに、思い出せない。
靴の色は黒だった。それは確かだ。
だが、型が同じだったかどうか。
分からない。
『記憶データの精度不足。結論は保留』
結論は保留。
また、保留だ。
宿に着く。
机に座り、考える。
靴が違ったのか。
同じだったのか。
明日、確認すればいい。
同じ時間帯に、同じ場所を通る使用人がいれば。
『明日の観測対象として登録』
俺は、窓の外を見た。
王都の灯りが揺れている。
三週間、何も起きていない。
暗殺者は捕まっていない。
警備は変わっていない。
そして今日、俺は使用人の靴が気になった。
それだけだ。
『関連性は不明。判断材料不足』
分かっている。
ただの気のせいかもしれない。
でも、明日、確認する。
それだけだ。
【あとがき】
護衛任務の中で、カイトは小さな違和感を覚えました。使用人の靴——それが何を意味するのかは、まだ分かりません。次回、その違和感が少しずつ積み上がっていきます。




