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AI勇者は諦めない  作者: ゼロスキルのAI使い
王都編

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42/55

第42話「繰り返しの中で」

繰り返しは、安心ではなく、麻痺を招く。


護衛任務は、二週間目に入った。


朝、王宮の門前に集合する。

リーダーが点呼を取る。配置を告げる。

俺は後方。それは変わらない。


「今日は謁見の間だ」


リーダーの声を聞きながら、俺は周囲を見渡した。


護衛たちの顔ぶれは、もう覚えた。

誰がどこに立つか、誰が先に動くか。

パターンは決まっている。


王女エリシアが姿を現す。

俺たちは歩き始める。


『本日の予定。午前、謁見。午後、書類決裁。夕刻、庭園散策』


王女の日課も、だいたい把握できた。

曜日によって行動が変わる。火曜は謁見が多い。


謁見の間に到着する。


護衛は扉の外で待機。

中から、かすかに声が聞こえる。

内容は分からない。


俺は壁際に立ち、周囲を観察した。


廊下を行き交う使用人。

窓から差し込む光。

魔道具の配置。


全て、昨日と同じだった。


『過去二週間の観測記録と比較。警備配置、人員動線、魔力反応、いずれも有意な変化なし』


変化がない。


暗殺未遂から二週間。

何も起きていない。

何も変わっていない。


隣の護衛が、小さくあくびをした。


「眠いな」


小声で呟く。


「最近、平和すぎて気が緩む」


俺は何も答えなかった。


平和。

確かに、そう見える。


だが、暗殺者は捕まっていない。

逃げたまま、どこかにいる。


その事実は、変わっていないはずだ。


『暗殺者の逮捕に関する公式発表なし。捜査状況は非公開』


公式発表がないだけで、裏では動いているのかもしれない。

あるいは、動いていないのかもしれない。


俺には、分からない。


謁見が終わり、王女が出てくる。


「昼食を」


短い言葉だった。


俺たちは移動する。

食堂への道のりも、もう覚えた。


午後、書類決裁の護衛。


王女は執務室にこもる。

護衛は廊下で待機する。


時間が、静かに過ぎていく。


『執務室周辺の魔力反応、安定。異常なし』


異常がない。

それが、二週間続いている。


夕刻、庭園散策。


季節外れの花が、今日も咲いていた。

魔法で維持された、人工的な春。


王女は、花を眺めながら歩く。

護衛は、距離を保って付き従う。


「きれいですね」


王女が、誰にともなく呟いた。


俺たちは、答えない。

護衛の仕事は、見ることだ。話すことではない。


庭園を一周して、王宮に戻る。


「今日は以上だ」


リーダーが告げる。


護衛たちが散っていく。

俺も、王宮を後にした。


宿への道すがら、考えていた。


二週間。

同じことの繰り返し。


護衛の仕事は、作業になりつつあった。

朝起きて、集合して、立って、見て、帰る。


周囲の護衛たちは、完全に日常に戻っていた。

暗殺未遂のことを話す者は、もういない。


俺も、慣れ始めている。


それが、正しいのかどうか。


『「正しさ」の定義が不明確。判断材料不足』


そうだ。俺には判断材料がない。


暗殺者の正体。

襲撃の目的。

五年前との関連。


何一つ、分かっていない。


分からないまま、日々が過ぎていく。


宿に着くと、便箋がまだ机の上にあった。


リリアへの返事。

まだ、書けていない。


二週間も経ってしまった。

これ以上放置するわけにはいかない。


机に向かい、ペンを取る。


『カイトより


元気にしています。

危ないことはしていません。


仕事は順調です。

毎日、同じことの繰り返しですが、

それが一番だと思います。


そちらは元気ですか。


また手紙を書きます。


カイト』


短い手紙だった。


危ないことはしていない。

嘘ではない。今は、本当に何も起きていない。


十日前のことは、書かなかった。

書いても、心配をかけるだけだ。


封をして、明日投函することにした。


窓の外を見ると、王都の灯りが揺れている。


二週間前、あの灯りの下で暗殺者が動いた。

今夜も、どこかで何かが動いているのかもしれない。


俺には、見えない。


『観測範囲外の事象について、情報なし』


分かっている。


俺にできることは、見える範囲を見続けることだけだ。


明日も、同じ時間に王宮へ行く。

同じように後方に立ち、同じように見続ける。


繰り返しの中で、何かが見えるかもしれない。

見えないかもしれない。


それでも、やることは変わらない。


逃げずに、見続ける。


それだけだ。






【あとがき】

護衛任務が完全に日常化した第42話。カイトはリリアへの返事をようやく書きましたが、十日前のことは伝えられないまま。次回、その静かな日常に、ほんの小さな変化が訪れます。

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