表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI勇者は諦めない  作者: ゼロスキルのAI使い
王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/55

第35話「遅れて届く肯定」

問題は、起きなかったからこそ見えない。



市場での依頼を終えてから、数日が経った。

俺は相変わらず、ギルドで地味な依頼を受け続けていた。


水質調査、魔道具の点検、薬草の鑑定。

どれも、戦わない仕事ばかりだ。


掲示板の前で依頼票を眺めていると、背後から声がかかった。


「君、カイトだね」


振り向くと、ギルドの職員――中年の男性が立っていた。

見覚えがある。保留扱いにした報告を受け取った人だ。


「はい」


「少し、話せるか」


「……はい」


俺は、職員について奥の部屋へ向かった。


部屋には、もう一人、年配の女性がいた。

ギルドの上層部らしい、落ち着いた雰囲気を纏っている。


「初めまして。私はギルドの評価官をしているマリアです」


「カイト・アーレスです」


「座ってください」


促されるまま、椅子に座る。

胸の奥が、少しだけざわついた。


『緊張していますが、敵対的な雰囲気ではありません』


とAIが告げる。


「単刀直入に言います」


マリアが、一枚の書類を差し出した。


「あなたが報告した下町の件ですが……」


「はい」


「先日、小規模な魔力暴走が発生しました」


胸が、きゅっと締まる。


「……どこで」


「下町の、倉庫街です」


「あなたが調査した場所の、すぐ隣でした」


その言葉に、息が詰まる。


「被害は……」


「軽微です」


マリアは、静かに言った。


「倉庫の壁が少し崩れた程度。怪我人はいません」


「……」


「ですが」


マリアは、俺をまっすぐ見た。


「もし、あなたの報告がなければ、私たちは原因を特定できなかったでしょう」


「あなたの調査記録が、すぐに役立ちました」


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


「……そうですか」


「はい」


マリアは、小さく頷いた。


「あのとき、あなたが動いてくれたから、被害が広がらなかった」


「それを、伝えたくて呼びました」


言葉が、出なかった。


保留扱いにされて、何の意味もなかったと思っていた。

だが、違った。


確かに、意味はあったんだ。


「カイトさん」


マリアが、続ける。


「あなたの仕事は、派手じゃない」


「でも、確実です」


「そして、誰も見ていない場所で、問題を防いでいる」


その言葉が、胸に深く落ちた。


「……ありがとうございます」


「いえ」


マリアは、微笑んだ。


「こちらこそ、ありがとう」


部屋を出ると、廊下に先ほどの職員が立っていた。


「カイト」


「はい」


「君の記録は、今後も参考資料として保管される」


「次に何かあれば、必ず君を呼ぶ」


その言葉に、俺は深く頭を下げた。


「……お願いします」


ギルドの外に出ると、王都の空が広がっていた。

相変わらず高いが、もう遠くは感じない。


『感情の安定を確認しました』


「……ああ」


俺は、小さく息を吐いた。


報われなかったわけじゃない。

ただ、遅れて届いただけだ。


逃げなかった意味は、確かにあった。


その夜、宿に戻ると、レオンが待っていた。


「おう、カイト」


「レオンさん」


「聞いたぞ。ギルドに呼ばれたって」


「……はい」


「どうだった」


「感謝されました」


レオンは、にやりと笑った。


「だろうな」


「お前の仕事、ちゃんと見てる奴はいるんだよ」


その言葉に、胸が少しだけ温かくなる。


「……ありがとうございます」


「礼を言うな」


レオンは、肩を叩いてきた。


「お前が頑張ったんだ」


窓の外を見ると、王都の灯りが静かに輝いていた。


誰も見ていないと思っていた。

だが、見ている者は、いた。


逃げなかった選択は、確かに誰かに届いていた。


『あなたの行動は、正しく評価されています』


「……そうだな」


俺は、静かに頷いた。


派手じゃない。すぐには報われない。

それでも、逃げずに続ければ、いつか誰かに届く。


それが、俺のやり方だ。




逃げなかった意味が、遅れて返ってきました。カイトが初めて「逃げなかった意味」を実感する回です。


【次回予告】

「王女との出会い――彼女は、王国で最も美しく、最も孤独な人だった」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ