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AI勇者は諦めない  作者: ゼロスキルのAI使い
王都編

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32/55

第32話「積み重ねた記録」

【前書き】

見つけた問題を、誰かに伝えるために。



調査を続けて三日が経った。

下町の石畳を歩く足取りは、もう迷わない。


協力者の男――名前はレオンというらしい――が、今日も路地の角で待っていた。


「来たか」


「はい」


俺は頷き、昨夜まとめた記録を取り出した。

紙の束が、わずかに重い。


レオンがそれを受け取り、目を通す。

数秒の沈黙。


「……よく、ここまで」


「AIの助けがあります」


『現在までの調査箇所、十三地点。魔力漏出の原因は、放置された古い魔道具群の連鎖反応です』


とAIが静かに告げる。


「連鎖……?」


レオンが眉を上げた。


「一つだけじゃない、ってことか」


「はい」


俺は、紙の一部を指差す。


「倉庫街の魔道具。下町の井戸。市場の裏の排水路」


「どれも単体では問題にならない。だけど、それが繋がって……」


「悪化する、ってことか」


レオンは、小さく息を吐いた。


「厄介だな」


『正確には、時間経過により影響範囲が拡大します』


「……放置すれば、もっと広がる」


俺はそう言いながら、紙を見つめた。


記録は、もう十分に積み上がっている。

原因も、影響範囲も、対処法も、全て書いてある。


「これなら」


レオンが、俺を見た。


「ギルドに、持っていけるか?」


「……はい」


俺は頷いた。


ただし、まだ不安はある。

この記録が、本当に信じてもらえるのか。


『客観データとして、十分です』


AIがそう告げるが、胸の奥の緊張は消えない。


「じゃあ、今日中に行くか」


レオンがそう言って、歩き出す。


俺も、その後を追った。


ギルドへ向かう道すがら、街の景色が少しだけ違って見えた。

通りを歩く人々。古い建物。石畳の隙間から伸びる雑草。


どれも、今まで気にしたことのない風景だ。

だが、今は違う。


この街の"足元"を、俺は知っている。


ギルドの扉を開くと、いつもの喧騒が迎えてきた。

掲示板の前には冒険者たちが群がり、受付には依頼者が並んでいる。


「報告は、あっちだ」


レオンが、奥の窓口を指差す。


『報告窓口です。調査記録を提出してください』


俺は、深く息を吸った。

そして、窓口へ向かう。


職員が顔を上げた。


「報告ですか?」


「はい」


俺は、記録の束を差し出す。


「下町での自主調査です」


職員が、一瞬だけ眉を動かした。


「……自主?」


「はい。魔力漏出の原因と、対処法をまとめました」


職員は、記録を受け取り、ぱらぱらとめくる。

その目が、わずかに見開かれた。


「これは……」


「問題は、複数の地点に分散しています」


俺は、落ち着いて言った。


「放置すれば、影響範囲が広がります」


職員は、しばらく記録を見つめ、それから顔を上げた。


「少し、待ってください」


そう言って、奥へ引っ込む。


『評価が行われています』


とAIが告げる。


「……信じてもらえるかな」


「信じてもらう、じゃない」


レオンが、隣で言った。


「見てもらうんだ」


その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。


数分後、職員が戻ってきた。


「……カイトさん、ですね」


「はい」


「この記録、正式に受理します」


胸が、わずかに跳ねた。


「追加調査依頼として、ギルドから依頼を出します」


「報酬も、出ます」


その言葉に、俺は小さく頷いた。


「……ありがとうございます」


「いえ」


職員は、少しだけ表情を緩めた。


「こういう仕事、誰もやりたがらないんです」


「でも、必要なんです」


その言葉が、胸に染みた。


ギルドを出ると、王都の空が広がっていた。

相変わらず高いが、もう冷たくは感じない。


「やったな」


レオンが、肩を叩いてきた。


「……はい」


俺は、小さく笑った。


記録は、積み上がった。

そして、初めて、誰かに届いた。


派手じゃない。だが、確かに前に進んでいる。


『現在の状況、良好です』


「……ああ」


俺は、静かに頷いた。


これが、俺のやり方だ。

逃げずに見て、記録して、伝える。


それだけで、誰かの役に立てる。



記録が、初めて"声"を持った回でした。地味でも、確実に前進しています。


【次回予告】

「報告という選択――後回しにされた問題ほど、声を上げるのが難しい」

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