第21話「揺らぐ自信」
一つの成功が、必ずしも自信にはならない。
王都の朝は、思ったよりも早かった。
窓から差し込む光で目を覚ました瞬間、昨日の出来事が、ゆっくりと胸の奥に戻ってくる。
訓練場での敗北。薬屋での成功。
どちらも、確かに俺の一部だった。
『睡眠時間は十分ですが、精神の覚醒が早すぎます』
とAIが静かに告げる。
「……考えすぎ、か」
俺はそう呟き、身を起こした。
必要とされた。確かに、昨日はそうだった。
だがそれは――"剣を振った俺"ではない。
通りを歩くと、昨日の薬屋の前に人が集まっているのが見えた。
俺の姿に気づいた年配の男が、こちらを向く。
「おお、昨日の」
「おかげで助かったよ。朝になって、あの若いのは歩けるようになった」
その言葉に、胸が少し軽くなる。
「ですが……」
男は、言葉を区切った。
「剣の訓練をしていると聞いた。あれは、相当厳しい世界だろう」
俺は、黙って頷いた。
「正直に言う。昨日の件は、誰にでもできることじゃない。だが、王都では……それだけでは、生き残れん」
責める口調ではなかった。むしろ、忠告に近い。
「はい」
俺は、それだけ答えた。
男は、小さく笑った。
「だからこそだ。剣を捨てるな。君の強さは、重ねてこそ意味を持つ」
その言葉を、俺は胸に刻んだ。
訓練場に向かう途中、昨日の青年――王都育ちの天才とすれ違った。
彼は一瞬、俺を見ると足を止める。
「昨日は、どうも」
と、自然な調子で言った。
「……こちらこそ」
俺が返すと、青年は少し首を傾げた。
「不思議だな。君は、折れていない」
その一言に、言葉が詰まる。
「普通なら、あの差を見せられたら、来なくなる」
俺は、正直に答えた。
「折れてますよ。ただ……戻る場所が、もうないだけです」
青年は、しばらく俺を見つめ、それから小さく息を吐いた。
「そうか」
それだけ言って、彼は歩き出した。
『感情の揺れが大きいですが、思考は安定しています』
とAIが告げる。
「……自信は、ない」
俺は、心の中で答えた。
「でも、やるしかない」
訓練場の門が見える。
昨日よりも、少しだけ足が重い。
それでも、俺は立ち止まらなかった。
剣だけでもない。知識だけでもない。
両方があって、ようやく、ここに立てる。
その事実が、自信を揺らしながらも、俺を前に進ませていた。
強さの形に、迷いが生まれてきました。それでも立ち止まらず、揺れながら進む時間です。
【次回予告】
「小さな依頼が、居場所を作り始める」




