最終目標
思春期症候群の影響で決して見えない有野さんのすべて。
辛くて悔しいが冷静さを保つにはちょうどいい。
ははは…… 大丈夫ですよ有野さん。俺は見えてません。
そんなあられもない姿を見る訳には行かない。
あなたの決意も覚悟も尊敬に値します。ですが俺はそんなの求めてない。
俺が求めてるのは純粋な愛のカタチ。
これも一種の形とも言えるだろうが俺は嫌だな。
ふふふ…… 何て贅沢なんだろう俺ってば。それで誰が傷つくと言うんだ?
想いをぶつけるのはいいとしても受け入れたっていいだろう?
すべてを解放する。そうすれば有野さんだって喜ぶだろう。
しかしこの思春期症候群がそうはさせない。冷静さを失わない。
俺はこんな関係を望んでいない。それは彼女だってそうなはずだ。
今夜も始まる。
もはや避けることのできない闇夜の邂逅。
自分でも嬉しいのか嬉しくないのか分からない。ただ恥ずかしい。
どうなってしまうのかと言う恐怖もある。
本音を言ってしまえば見たいが会いたくないだ。
有野さんを観察するのは趣味と言うか日課みたいなもの。
でも俺の部屋にやって来るのは違う気がする。
もしもの時の逃げ場がない気がしてどうしても落ち着かない。
要するに主導権を奪われたくない。俺の思い通りにできないのは嫌。
もし来ても大人しく言うことを聞くなら何の問題もない。
だがそんな有野さんは有野さんじゃない。
矛盾してるように思えるがそんなもの。
「ねえ一ノ瀬君も脱いじゃえば? 」
命令にはいつだって従うつもりだ。それが俺の存在意義。
でも脱げばいくら見えなくても止まらなくなるだろう。
それほど危険な状況。それを彼女が望んでいるから不思議。
俺は望まず有野さんが望む展開。
一方の想いだけが突出していては関係がこじれて行くばかり。
お互いが惹かれ合いもう非公式に付き合ってさえいるのにそれでも受け入れ難い。
「はっきり言いますね。俺は有野さんにそんな格好でいて欲しくない」
ああ…… 言ってしまった。何で俺ってバカなんだろう?
見えなくたって充分堪能できるのに格好をつけてしまう。
まあそれが男と言うもの。このまま一気に行くのもそれもまた男だろうが。
情けないとこんな風に彼女を傷つけてしまう。
傷つけない為に受け入れるべきなのにそれができない。
「あーあ一ノ瀬君ってつまらない。もう帰る! 」
頑なに拒否したことで有野さんは気分を害したらしい。
うんこれでいいんだよ。これ以上は俺が堪えられない。どうしようもなくなる。
引き返すのもまた勇気だ。
「じゃあね。今度は断らないでね。とっておきがあるから断れないか」
そう言うと戻って行く。
ふう…… 危ない危ない。まったくどう言う神経してるんだろう?
まだ正式には俺たち付き合ってない。そんな関係になれるはずないだろう?
少しは考えてくれよ。俺だって辛いんだ。
俺の思春期症候群の症状が治まり有野さんの多重人格が治ることが最終目標。
共にすぐ治まるようなものではないがそれでもゴールに向かって歩んで行きたい。
それが本来の俺たちの関係だと思う。こんな無理矢理こじ開けるものじゃない。
ふう…… どっと疲れが出る。それにしてもとっておきって何だろう?
気になるがどうせ考えても無駄。次のお楽しみと行きましょうか。
さあ眠るとしよう。おやすみなさい。
翌日。夜遅く。
今日は結局のところ五階さんに会わせる顔がなく逃げてしまった。
せっかく作ってくれたであろうお弁当も無駄に。
あーあこれは本格的に嫌われたかな? 次に会うのが怖いよ。
いつものように有野さんが騒ぎ出す。
ダンスを終えるとすぐにガチャガチャと開けるように催促。
今の有野さんは優しくもなければ睨みつけてもいない。
ただ強引だからちょっと遠慮したくなる。
「ねえ開けてよ。意地悪しないで開けてよ! 開けてよ! 」
ドアをロックしている。もう来て欲しくない。
思春期症候群を発症してどんなことがあっても見えない。
だから仮にどんな過ちがあったとしても問題ないはずだ。
でも辛い。狂い踊る有野さんを見ていたくない。
五階さんとのこともあって沈みがちなところにいつもの有野さん。
招待したくない夜もある。自分勝手だとは思うがこれも防御策。
昨夜の一言が気になる。何かするつもりなのは間違いない。
さあ今日は我慢してくださいね。
俺だって我慢するんだから有野さんも大人しくしていて欲しい。
ドンドン叩けばプレッシャーにやられて開けてしまうだろう。
ここは切り替える。
もう一つの花園に手を掛けることに。
五階さん。一体どんな感じだろう? まったく想像がつかない。
でも思い立ったら行動するのみ。有野さんに飽きたのではない。
単純に違う味も楽しみたいのが男と言うものだろう。
さあ拝見しましょうか。
前回は姿を見せなかった。だからすぐに諦めた気がする。
でも今日は出会える予感。大体この時間にはいるよな。
もう寝てる時間だろう。それが普通さ。
ああ…… 俺は一体何をしてるんだろう?
いつもお世話になって相談だって乗ってもらってる恩人とも言うべき五階さん。
そんな彼女を覗こうとしている。どうかしてるぜ。
これは正しくない。嫌がる彼女に無理やり迫るのはよくない。
了承を得なければ…… だが当然そんな時間的余裕はない。
それに昨日約束をすっぽかした。確実に忘れてくれるまで会い辛い。
ここは様子見の為にも新たな世界を切り開く。
有野さんとの生命線であるカーテンを閉じ反対側に回り込み準備万端。
さあ今日はどうかな? もちろん俺は五階さんを信じているよ。
五階さんは素敵な人。そんな彼女を覗くのか?
葛藤すること十分。ついに五階さんが姿を見せる。
続く




