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来て欲しくないが着て欲しい

帰宅。

「お帰り。あれあんた映画見に行ったんじゃないのかい? 」

五階さんに無料のチケットをあげたのは大家さんだと判明。

余計なことしてくれたな。俺が追い込まれたじゃないか。

しかし完全な善意ならばこれはただの八つ当たり。

それだと俺はどうしようもない人間に。だから文句を言うつもりはない。


「映画って? 」

とぼけてみる。どうせ後で分かることではあるが今はいい。

せっかく有野さんと仲良く帰ってるんだから察して欲しいな。

「あれ…… 勘違いかね。まあいいや」

納得いかない様子の大家さんは早く飛ぶように促す。


「ファール! 」

私道を跳び越すことができずに尻餅をつく。

無理だってのにいつまでやらせる気だよ? せっかくのいい雰囲気が台無し。

俺はアスリートじゃないんだって。部活だって入ってないし。

スカート保存委員会などと言うおかしなサークルさ。


「何のお話ですか? 」

有野さんが反応。もちろん映画の話は知らない。

「いや勘違いさ。ははは…… じゃあね」

どうやら大家さんもようやく察したらしい。

俺だって内心焦っている。すっぽかした訳だからな。


まずい。すっかり忘れていた。一緒に映画に行く約束したんだったよな。

どおりで何か引っ掻かるなと思ったんだよ。

怒ってるよなきっと? どうしよう?


だが五階さんが部屋に押しかけて文句を言うことはなかった。

これは一体どう言うことだろう?

今回だけはさすがにすべて知っていたとは思えない。

まさかお嬢様の本気の怒りを買ったのか? 

そうするとこの辺りを歩けなくなるのでは?


有野さんと別れてずっと五階さんのことばかり考える。

俺が悪い。叱責されるのは当然のこと。

今日で一体何人の人間を傷つけてしまったのか?

すべては俺の甘さが招いたもの。反省はしてるがどうにもならないこともある。

こうして五階さんを待ってはいるが正直今日が早く終わってくれないかと。

ずっと待ち続ける苦しみは相当なもの。だから諦めて気にせず待つことに。

ただ失うものが大き過ぎる。そのプレッシャーも半端ない。


夜。いつものようにゴールデンタイムに突入。

ドンドン

ドンドン

もはや確認する必要もない。有野さんの登場だ。

当たり前のように何も穿いてない。素っ裸で乱入してくる。

これが夜の有野さんだ。迫力が半端ない。そのエネルギーがどこから来るのか?

俺は間違ってる。有野さんだって間違ってる。

俺たちは間違った世界にいる。ここは現実じゃない。

見てはいけないものを見ている。


狂乱とも言うべき有野さんが踊り狂う。

「あの有野さん…… 」

その迫力に圧倒され言葉も出ない。

分かってはいたことだ。だからこそ鍵を開けっ放しにした。

本来だったら閉ざされているはずだが開けてそのまま。

そして招き入れた。それなのに俺は圧倒され怖気づいてしまう。

何て言うか想像を遥かに超えた世界でまるで夢を見ているよう。


「どうしたの一ノ瀬君? 」

喋りも動きも顔つきも有野さんその人だ。

そしていつも通りの素っ裸。

ありのままの有野さんを前に言葉など出ようもない。

「いえ…… 寒くありませんか? 」

直接的には言えない。だから気づいてもらう。

裸ですよ。素っ裸ですよ。そんな裸を晒していいんですか?

そんな風に伝わるといいが無理だろうな。

もうこの人はダメだ。イカれてるとまでは言わないがどこかおかしい。


「ふふふ…… きれい? 」

「はい。肝心なところはよく見えませんが恐らくきれいかと。

いつも有野さんはきれいなんですけどね。それも信じられないくらい」

ははは…… 情けないな俺。恐怖か欲望かは不明だがつい大げさに褒めてしまう。

そうすれば有野さんは余計に調子に乗ると言うのに。

この状況で歯止めが利かなくなったらどうする?

有野さんがコントロールを失えば俺では止められないんだぞ。

とにかく恥ずかしくてよく見えないということにしてる。

察してもらいたいけど知られた時のショックな姿は見たくない。


「もう一ノ瀬君ったら正直なんだから」

満足している模様。それは大変喜ばしいこと。

問題はここから。どうすればいいだろうか?

当たり前のことを指摘しても流されるのがオチ。でも放っておく訳にも行かない。

ああ悩ましい。俺は果たしてこんなことを望んでいるのか?

ただ一緒に出掛けたり手を繋いだりしたかっただけな気がする。

毎日のように覗いてる奴が言うセリフではないが。


「あの…… 下着を穿かれてはいかがでしょう? 」

提案を一つ。想定外なことなのか困惑した表情。

有野さんの為に思い切ってショッピングモールで下着を買っておいた。

お気に入りのピンクなら有野さんだって文句ないだろう。

それから白と黒も。合わせ三枚ほど買ってみた。


堂々とランジェリーショップに入ったはいいが居心地は最悪。

まるで監視されているよう。

まさか俺が高校生だからって下着を万引きするとでも思ってるのか?

間違いなくマークされていたに違いない。

店員さんからは白い目で他の客からは遠巻きにされ会計では疑いの目で見られた。

それでもこれも有野さんの為。だから勇気を振り絞って買った。

だから穿いて欲しい。これは俺からのささやかなプレゼント。受け取ってくれ。

俺の努力を無駄にしないで欲しい。


ああ俺の思い通りになってくれないか。彼女を俺色に染めたい。

何てね。ただ裸でいられると何かとやり辛いからな。

さあ穿くんだ! もう子供じゃないだろう和葉……

違った有野さんだった。なぜここで妹の和葉が思い浮かぶんだ?


「うっとうしいから嫌! 」

我がままな彼女はこちらの気持ちも知らずに拒否する。

「困ります! 」

「どうして? 嬉しいくせに! おかしいよアキラ」

何てことを言うんだ? そんなはず…… あるのか?

俺は耐えられるのか? 有野さんのすべてを見て耐えられる?


俺にはまだ切り札がある。

そう見えないのだ。有野さんの大事な部分は隠れてしまっている。

今日は白いモヤ。それが胸と下腹部辺りに充満して視界を奪う。

本来だったら目を擦ってどうにかしようとしていただろう。

しかしこの状況ではありがたいとさえ思えるから不思議だ。

慣れてしまえばこれはこれで悪くない。ギリギリ見えてない状況。


                   続く

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