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裸間ボッチ  作者: スカート保存委員会
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言い訳不可

現在。運命の日。

「ほらそこ! 」

午後の授業はどうしても眠くなってしまう。

それは皆そうで欠伸したり突っ伏してる者が。

中には気持ちよくいびきをかいてる者まで。


俺は起きてるぞ。何度も短い夢を見て寝ぼけながらも耳だけは傾けている。

大丈夫。俺は真面目だし我慢強い。一人で孤独に生きてる以上これくらい当然。

先生から見放されたらもう逃げ場がなくなってしまう。

友だちだっていない。ただ最近少しずつ改善されて来ていると思う。

ただの思い込みでなければ前よりはうまく行っているはずだ。

ここに転校した頃に比べれば大きな成長。

でもそれだからではないが緩みが生まれる。


「一ノ瀬! 一ノ瀬! 」

寝ぼけて慌てたせいか再び消しゴムを落としてしまう。

「分かりません! 」

「馬鹿者! まだ何も質問してないだろうが! 」

日本史はまだいい。世界史が眠気を誘う呪文。

王朝だって国王だって派閥だって知ったことじゃない。

眠気を催さないようにしろっての。


「それとお前の机の上は数学だろうが。だったらその公式を解いてみろ! 」

無茶苦茶言うな。でもどうせ社会科の先生だから適当でいいさ。

「x+yが頂点の時コサインシータがダウンジングした時の宝の位置の変化。

経度五十度緯度三十五度の範囲以内に移ったと仮定できます。以上」

「たぶん合ってるだろう。よし皆も一ノ瀬の勤勉ぶりを見習うように」

笑いが起きてる間に消しゴムの奪還に走る。


「よしでは続けるぞ…… 」

完全に教科書に目が行ってる隙にお宝ではなく消しゴムを見つける。

「おい邪魔だって…… 」

やはり消しゴムは同じ道をたどるらしい。

二つ隣の列の後方に転がっていた。


有野さん……

きれいな足の間に挟まっている消しゴム。

うわなぜ気づかないんだよ? どうする? 引き返すか?

いや一度決めたことはやり遂げなければならない。

まさかの難易度マックスだがそれでもやり遂げるのが男。

さあまずはスマートを心掛けるとしよう。

ついに危険な賭けに挑む。ああ俺は生きて帰れるだろうか?


まずは態勢を低くして教科書に皆が集中してるか寝てるところで抜き足差し足。

慎重に慎重に一歩一歩。そしてついに目当てのものが目前に。

紳士に対応するのを忘れない。


「では失礼しますね」

絶対聞こえない程度の声量で断りを入れる。

うんまだ気づかれてないな。難解ミッションに挑戦中。

まずは大胆に屈む。ここは中途半端にすると逆に気づかれるからより大胆に。

音が出ても構わない。多少なら掻き消されるはず。

そして屈んですぐにきれいな左足をどかす。


この時自然に足が動いているかのように装う。

彼女も気づかない…… ことはないだろうがあり得ないことだから信じてしまう。

それが一種のマジックでありイリュージョン。


ふうこれで消しゴムを…… うわダメだ。右足で踏みつけやがった。

何て行儀の悪い右足でしょうか。まるでわざとやっているかのよう。

しかし消しゴムだからそこまで感触がない。ちょっとした違和感程度。

仕方なく右足にタックルを掛ける。そうしてようやく消しゴムを回収。

うん。これでミッション完了。後は急いでこの場から逃れるだけ。


だが救出に気が緩んだせいでいつの間にか手が彼女の足に挟まれてしまう。

ここは仕方ない。奥の手で行こう。一斉に引き抜く。

無理に右手を引っ張った反動により有野さんの足に顔が絡んでしまう。

顔を覆いたくなるような大惨事となった。


「きゃああ! 助けて! 」

想定以上の大失敗。もはや言い訳も通用しないレベル。

俺は一体何をやっているんだ? これではただの変態ではないか?

そんなつもりはないと言っても絶対聞いてくれないぞ。俺信用ないし。

そしてついに皆の目に触れる事態へと発展。

ここまで来てしまえばもう言い訳などしようがない。

ただ大人しく様子を見守る。


「一ノ瀬! 一ノ瀬晶! 」

先生に気づかれた時にはもう言い訳が通用しない状況まで追い込まれていた。

うん。もう何も言わない。言っても無駄だって分かっている。

俺はそこまでバカじゃない。嵐が過ぎ去るのを待つ。

風が強くなって顔をくちゃくちゃにしようともじっと堪える。

それが男だろうと勝手に。


「いいからそこから離れんか! 」

未だに有野さんに何かしようとしてるように見えたのだろう。

明らかな誤解だがそれはもうどうしようもないこと。

ただ受け入れるしかない。いくら誤解だと言っても信じるはずがない。

授業中の不謹慎行為。単なる痴漢行為だがなるべくぼやかすようになっている。

それは加害者の為ではなく被害者の為だ。

怖がらされ恥ずかしい思いをした有野さんを保護する意味がある。

すぐに反省の言葉を述べたいが黙っていろだからな嫌になるぜ。


生徒指導室に引っ張られていく。

こんな時に味方になってくれたり気遣ってくれる仲間がいたらなあ。

もちろん無いものねだりするつもりはない。起きたことに目を逸らさず前を向く。

それが有野さんへの償いにもなる。


ああこれかから俺はどうなるんだろう?

まさか恐れていた退学へと進んでしまうのか?

もうダメだ。逃げ切れない。言い訳など不可能。


                  続く

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