朝から欲求不満
翌日。先生はまた来ますと言って出て行った。
恐らくもう来ることはないだろう。どうやら俺の妄想だと結論づけたようだ。
情けないが事実何もなければ仕方ない話。
どんなに患者を信じようとも確定してしまえばどうすることもできない。
まさか一日だけ我慢?
たまたま別の行動するとも思えない。しかも二日続けてだからな。
俺だってもしかしたらと言う気持ちにもなる。もはや自分が信じられない。
情報が洩れでもしない限りあり得ないこと。
有野さんはそんな器用な人には思えない。来るだけでなく裸にもならなかった。
先生は気にするなと言うがあの醒め方は信用を失ったかな。
そうすると俺は見捨てられたことになる。ああ嫌になるぜ。
これだとそもそも単なる妄想の類に落ち着きそう。
ただそっちの方が精神科医としてはいいのだろうが。
俺はどこかがおかしいのではなくただ裸が見えなくなるだけ。
精神的なことだと思ってたがそもそもが俺の思い込みなら問題解決。
思春期症候群は単なる勘違いとなる。またはもう完治した可能性さえある。
とにかくこれでおかしな現象に悩まされずに済む。
有野さんとの関係もただの隣人関係に戻り付き合うハードルは下がったと言える。
さあ今までの中途半端な関係を終わらせはっきりケリをつけるとしよう。
それが彼女の為でもある。もし振られるようなことがあっても女は他にもいる。
あーあこれではただの女ったらしじゃないか。情けない。
さあ気分を変えて今日も楽しく登校しましょう。
どうせ放っておいてもあっちから来るさ。
「ああ一ノ瀬君。おはよう」
ほらね。対象者はこちらの企みに気づいてないのか笑顔だ。違和感がない。
疑われてることを疑っていない。
「有野さん…… 」
「ほらこっち」
そうやって無理やり引っ張って行かれる。
どう言うことだ? どこへ行くつもり?
「どうしたんですか有野さん? 強引ですよ」
茂みに連れて行き大胆にも朝から交わろうとする?
おいおい昨夜あれだけ大人しかったのにいきなりかよ。
うん? 泣き声がするな。
猫? 白い子猫が二匹。どうやら生まれてさほど経ってないようだ。
かわいいなと眺めてるとすぐに親猫が姿を見せる。
そして威嚇して叫ぶ。
まさか俺たちが悪さをすると思ってるのだろうか?
冗談じゃない。俺は無理やり連れ込まれただけだ。
「ほらシャーされたじゃないですか」
「ごめんなさい」
そう言うとまとわりついた枯れ草を叩き乱れた服を整えてくれる。
最後にキスしてお終い。
どうやら欲求不満らしい。
猫を見に来てお世話することもできずにただキスをするだけだった。
いや本当にそうか? 猫はただの口実では?
「有野さん? 」
「ごめん。さあ行こうか」
いつもの世話好きのお姉さんスタイルに戻っている。
「まずい遅刻だ! 」
いつの間にか始業まで十五分を切っていた。
このまま走ればどうにか間に合うだろうが有野さんは無理そうだな。
もう仕方ないな。手を繋いで引っ張っていく。
「もう痛いって! 優しくしてよ一ノ瀬君」
我がまま姫が文句を言う。だがそんな悠長なことをしてれば遅刻は間違いないし。
有野さんだってまずいことに。それに一人先に行けば薄情な人間だと思われる。
それは嫌だ。有野さんに嫌われたくない。
「放して私はいいから。先に行って! 」
「ダメですって! 」
無理矢理走らせる。別に全力疾走させてない。ジョギング程度。
走っても問題ない程度にスピードを調整する。
「ほら早く! 何をやってるんですか有野さん? 」
「だって早過ぎる。ふふふ…… 」
ダメだ笑っている。笑ったら苦しくなるだろうが?
さあ着いたぞ。だが同時に鐘が鳴る。
俺は三分の遅刻。有野さんは五分。
同時に教室に入らないようにしたので疑われることはなかったが両方とも遅刻に。
あーあ今朝はついてない。いや待てよ。突然のキスはご褒美だよな。
これは相当ついてるぞ。後は女難の相を何とかすれば問題解決。
それからは昼までぼうっと外を眺めて過ごす。
ふう…… ため息一つ吐いて今朝のことを振り返る。
有野さんはやっぱり俺のことを愛している? でもどう受け止めればいい?
ただの朝の挨拶だとしても納得は行かない。
勝手にキスをしておいて覚えてないことはないだろうな。
さあ次はどんな言い訳をしてくれるかな?
覗いてると言う罪悪感からどうしても有野さんときちんと向き合えない。
このまま放っておけば有野さんは間違いなく他の冴えない男に行くだろう。
そうなった時に俺はどう対応すればいい? 情けなく喚くか?
そんな風にぼうっとしていても今日は指されることはなかった。
いつも通り教室での有野さんは容赦なく睨みつけてくる。ああ悪くない。
でもやっぱりかわいくて素直な放課後バージョンの有野さんがいいな。
しつこく感じることもあるが今は待ち遠しい。
どうやら俺たち少しずつ距離が離れて行ってるのかもしれないな。
有野さんと楽しく過ごしたい。ただそれだけだ。
でも俺は悪い人間だから今日も覗くんだろうさ。
それが俺のルーティンだから。どうしようもない。
続く




