監視二日目 今夜は日暮先生と秘密に迫る
監視二日目。
まさか二日続けて有野さんの行動を監視するなんて思いもしなかった。
でもできるなら今日も五階さんと楽しく監視生活を送りたかった。
それが俺の願望。別に日暮先生が悪いとかじゃない。
でもどうも乗り気がしないんだよな。
この先生有野さんの裸に興味があるだけな気がする。
見た目から推測しては悪いがこれが精神科医でなくただの通行人ならどうか?
そう見れば残念だが怪しさは隠しようがない。
いくら俺のことを心配してだとしてもそれでも万が一があるからな。
張り切り方もそう。あえて休みの日にだから疑ってしまう。
まさかうまくいけばお持ち帰りできると思ってないか?
若干…… いや凄く不安。
「ではさっそく一ノ瀬さんの言う奇跡を見せてもらいましょうか」
オブラートに包んだような言い方は決して嫌いではない。
でも余計に嫌らしく感じるのはなぜだろう?
「先生。俺を信じてくれるんですね? 」
「当たり前じゃないですか。何であろうと信じようと思います。
普通はあり得ませんがこの近さなら確かにお相手の姿がはっきり見えそうだ」
張り切ってくれるのはありがたいが何だかおかしな人を招待した気がするな。
とにかくようやく真実が白日の下にさらされる。それまでは慎重に行動しよう。
「あの…… それは? 」
「はい。念のためです。ははは…… お恥ずかしい」
用意がいい。双眼鏡を持参。
これでバッチリ見れるぞ…… でも本当に見せていいのか迷う。
「おっとどうやら動きがあったようですね」
ついに有野さんが脱ぎ始めたか?
ああなぜ他の男に見せないといけないんだ。
自分の症状を信じてもらおうと何てものを犠牲にしようとしてるのだろう。
有野さんごめんなさい。俺は最後まで信じてるよ。
でも限界があるよな? さあすぐにそのかわいらしい胸を見せてくれ。
どうせ俺にはまったく見えないのだから。
「お婆さんだ。お婆さんの姿が見える。もう一人…… 」
どうやら大家さんが来訪してるらしい。
もちろん双眼鏡なしでもまったく問題ない。
毎日見ている荘厳な景色。
「はい。彼女が同級生の…… 」
ダメだ。いくら相手が主治医で信頼関係があっても個人情報。
勝手にバラしてはいけない。無闇に教えては大変なことになる。
何と言っても今はオフで医者ではなく一人の人間として興味本位で来たのだから。
できるだけ伏せた形が望ましい。それが俺が有野さんを守る唯一の方法。
「コーヒー入りましたよ」
動きがないのでここは一旦ブレーク。俺としても夕食後のくつろぎタイムだ。
と言ってもインスタントだから味の違い分かる奴には酷。先生はその点鈍感そう。
医者では毎日のように飲んでそうなイメージだが紅茶党だった気もする。
そもそも二択でさえないしな。
「頂きます」
今のところお婆さんと女性の二人が何かを話し合ってると。
それはそうだろうよ。来客があって何で全裸で踊り狂わないと行けないんだ。
そんな光景見たくない。地獄絵図じゃないか。
特に大家さんはご遠慮願いたい。ただ彼女を守る意味ではいいかもしれないが。
やっぱりあの日は俺の頭がどうかしていたか夢を見ていたかのどちらかだろう。
いくら裸好きの裸族でもいきなり人の家に来るはずない。
家では裸族の人も極一部にはいるだろうさ。それは認めるし。
そこだけは見間違いではない。だが人様のところに出張してくるのはおかしい。
デリバリーのお姉さんでもあるまいし。
「先生どうでしょう? 」
「はい。薄いかな。ただ今の季節にはちょうどいいかと」
そう言って呑気に一口つける。
「だから違いますって! そっちじゃない! 彼女の方ですよ」
何のためにここまで来たんだ? おかしいだろうその呑気な感じ。
コーヒーなど苦いか苦くないかの二択だろう。
香りがどうとかはその後の細かい話でしかない。
そう俺は違いの分からない男さ。
「はい。大変かわいらしい方ですね。素敵な人で驚きました」
褒めてくれるのは嬉しい。だがそれだと狙っているように思える。
この先生はどう言うつもりだ? やはりお持ち帰りする気か?
油断ならないお茶目な日暮先生。何がかわいいだよ。
二人で監視すること一時間。
ただカーテンから覗く男二人組の悪だくみ。
客観的に見ればとんでもなく怪しくてアブノーマルな奴ら。
最低だと思われるだろう。実際最低だしな。
しかしこれが思春期症候群の改善と原因解明に繋がるなら犠牲は払うべきだろう。
これこそがコラレタルダメージ。
あるいは来られたら困るダメージ大きいだ。
依然としてクラスメイトの部屋を覗き見してるだけだが。
動きはなくただ大家さんと有野さんが楽しそうにお喋りしているだけ。
気づいてるのか気づいてないのかこちらをチラチラ見ている気も。
それから三十分が経過し大家さんが姿を消す。
ようやく本番。さあ有野さんの本性が見える時だ。
昨夜はなぜか動きがなかった。だが二日続けては我慢できないだろう。
さあ裸になるんだ。さあ目の前で正体を現せ!
そう念じるも有野さんはお風呂へ。
一時間後に姿を見せる。
しかしいつものタンクトップにショートパンツで寒いのか上一枚羽織っている。
軟弱だな。それでも正当な裸族か? まったく情けない。
期待が失望に変わる瞬間。
こちらに一度微笑みかけてからベッドイン。
どうやらもう寝るらしい。
予習は? 復讐は? 夜のダンスは? おかしな動画は?
おかしい。何一つせずに寝てしまう。
あり得ない。絶対にあり得ない! こんなことあり得て堪るか!
先生と見合わせる。
「どうやら今夜は何もないようですね」
先生は諦める。
「うわちょっと待って! 」
何ごともなく夜は更けていく。
まさか俺は嘘つきだと思われてる?
夢や妄想の類だと思ってるのか? 嘘だろう?
「さあ我々も寝ましょうか」
どうやら今夜はこれでお終い。
おかしな現象はこうして成りを潜めたかと思われたが……
それは用意周到に張り巡らせた作戦でありもはや蟻地獄。
もう抜けだせはしない。
続く




