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裸間ボッチ  作者: スカート保存委員会
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鴨志田先生

月末のとある日。

今日は秘密裏にお医者様と相談することになっている。

先週は眼科に行ってみたがどこも問題ありませんねと言われ帰ってきた。

今日は改めて精神科へ。まあどうせ何も分からないだろうな。

奇病と言うより放っておいても大した問題じゃないことから研究が遅れている。

そう勝手に推測。

今日はその手の権威だと噂のドクターに会う。


「はい。担当の鴨志田です。症状をお聞かせ願いますか」

「その…… 」

「恥ずかしいですか? しかし患者様第一。どうぞお聞かせください。

お話していただかないとこちらとしてもどう対処すればいいか」

「実は…… 目がおかしいんです」

「お間違えのようですね。眼科にどうぞ」

すぐに突き離そうとする困った先生。

この分野の権威だと聞いたから時間を掛けてやって来たのに。

どう説明したらいい? 俺見捨てられるのか?


「そうではなく目が見えないんです。どうか話を聞いて下さい! 」

症状を訴える。でもこれが思いのほか大変。うまく伝わることはない。

「はあ近眼で? 」

「違うんです! 精神的だと言われました」

眼科医に言われただけではその確証はないが言われた通りに来院した。

「ほうそれは実に面白そうだ」

どうやら興味を持ってくれたらしい。助かった。これで一安心。

もはや医者に縋るしかない。


「それですべて見てもらって最終的にここに回された。それでいいんだね? 」

具体的に話すように促す。しかし俺にはどうしても言えない事情がある。

それは恥ずかしさもあるし名誉を守るためでもある。

だからつい黙ってしまう。沈黙は金と言うしね。


「言えないかい? 無理しなくていい。だったら次の機会に…… 」

鴨志田先生は笑顔を絶やさない。

「ははは…… 悪い。来年から海の見える田舎へ。だから来月から準備に。

君は新しい先生の元で適切に治療してもらった方がいい。そうだろう? 」

噂を聞きつけて今日やって来たのにいきなり別れの挨拶。

少々おかしな先生。精神科とはそんないい加減なところなのか?

最後まで面倒を見るのが医者だろう?


「ちなみに何が見えると? どうせ遠くへ行くのだし思いきって吐き出すといい」

鴨志田先生は引継ぎがスムーズに行えるようにと手を尽くしている。

それもすべて患者の為。

またどうせ一から話すのにここでさらけ出せとは俺のことが分かってない。

できる限り詳細は避けて一般論で語りたいのだが許してくれなそう。


「その…… 裸が見えないんです! 」

ついに秘密を口にしてしまった。もう止まらないぞ。

仕事だし職務上知り得た情報は口外しないはず。

守秘義務に違反するからな。でもやっぱり相当言い辛い。


仮にこれが治らなくたって問題ない。本来だったら大した病気じゃない。

でも今の俺には深刻な問題だ。

やはり先生には言えない。言えば恥ずかしさで死んでしまいそう。

なるべくなら話したくない。こんなおかしなこと誰にも相談できやしない。

俺の心の問題だとしてもただの目の問題だとしても言えるはずがないんだ。


うおおおお!

今すぐにでも叫びたい気分だ。

でもここで叫べば厄介な患者。あるいは要注意人物としてマークされる。

警察や国の機関の介入を受けるかもしれない。

怖くて恥ずかしくて情けなくて俺が俺でなくなりそう。

告白するにしたって相当な心の準備が必要。

今すぐここでカミングアウトするなんてできない。


「ほら落ち着いて。一度深呼吸しなさい。それで何で裸が見たいんだい? 」

親身になってくれる。医者だから当然だろうが初めてのことだからな。

「いえ…… 見たいのではなく見えてしまう…… 」

この期に及んで自分を悪く言えない。プライドが邪魔をしてしまう。

これでは先に進めないと分かっていながらそれでも曖昧にする。

「見たくないのに見えてしまうかい? 何だかおかしな状況だね。

そもそもどうしてそうなったんだい? 」

訳の分からない戯言にも丁寧に対応。それだけで救われた気分。

絶対に誰にも理解されない症状。それを分からせるには骨が折れる。


「あれはたまたま…… 隣の家の着替えを覗いていた時でした…… 」

ついに口にしてしまう。これは決して褒められたことではない。

ある意味犯罪だ。だから心の内に秘めたのについ誘導されてしまう。

「俺…… 俺は…… 」

「はい。落ち着きましょう。ゆっくり続けてください」

「覗くと…… 」

当時を振り返る。と言っても今月起きたおかしな体験だ。


「よしそこまででいいよ。よく話してくれましたね。

新しい先生に恥ずかしがらずにきちんと説明するように」

こうして鴨志田先生との最後の挨拶を終える。

鴨志田先生は海の見える田舎に引っ越すそう。

本当に残念だな。先生ならきっと俺の症状を改善しただろう。

相談するのが遅かった。ここに来るのが遅すぎた。


さあ一週間後の予約を取って大人しく戻るとしよう。

その時は鴨志田先生はいない。これだけ信頼の置ける人はいないだろう。

この症状に悩まされるようになったのは間違いなく今月から。

それまでは目がちょっとだけおかしいんだと思っていた。

でも原因が目ではないのは何となく分かっていた。

自分の目だからそれくらいは当然。

ただ思った以上に複雑な症状だったから発見が遅れた。


              続く

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