嘘だ!
ドンドンドンドン!
どんなに言い訳をしても音は消えない。何なら大きくなっていくばかり。
仕方なく音のする方に。
「はーい一ノ瀬君。元気してた? 」
音は非常口からだった。お隣さんとは庭で繋がっている。
人どころか猫や犬も通り抜けないから非常口から非常口以外に使いようがない。
そんな風に狭苦しいからお隣との境界もあってないようなもの。
本来なら非常口から外に行けるはずなのに二つある非常口はただ隣へと。
それでもないよりはマシ。
大掃除をした時に母さんが開放してそのまま。
気づいたのは飯を食ってる時。しっかり閉めるように言われたがそのまま。
仕方なく開けると全裸の有野さんが入って来る。
いや夢だ。妄想だ。願望だ。こんなことあり得ない。そうだろう?
そもそもなぜ裸で? 全裸で訪問する奴がいるんだ?
非常識にもほどがある。どう言う神経してるんだ?
そもそも常識と言うものはないのか?
狂っているとしか思えない。本当にどうかしてるよ有野さん。
あまりにも破廉恥でどうしようもない。
俺は一体何を目撃してるんだろう?
有野さんは気にすることもなく勝手に動き回る。
まるでステージが変更されたから来たのだと言わんばかりの自然体。
家主である俺の方が間違っているかのように。
もはや不法侵入だがそれはまあ我慢しよう。
一番の問題は大事なところがまったく見えないことだ。
目をこすろうと瞬きを繰り返そうと何をしてもぼんやりとしか見えない。
これでは裸の意味がない。何のサプライズにもならない。
ただ欲求不満になるだけ。嬉しいはずないじゃないか。
「どうしたんですか有野さん? そんな格好でこんな真夜中に」
注意する。それが常識。どう考えてもイカレてるのは有野さんの方だろう。
我が愛しの有野さんがあられもない姿で迫る。
もう目のやり場に困るし自分を抑えられない。
「さあ楽しもうよ一ノ瀬君」
うわ…… どうなってるんだ? 有野さんがおかしい。
前から少々変な部分はあったけれどこれほどまでとは正直思ってもみなかった。
「有野さんその前に服を着てください! 」
素っ裸でいると風邪を引く。
クション!
三回続けてくしゃみ。これは本当に風邪引くぞ。
「まさか一ノ瀬君本気なの? 」
そうやってどんどん迫って来る。
俺だって必死に逃げている。後ずさりしてるが有野さんが止まらない。
「本気って? 」
まずい。これ以上は逃げれない。もう壁。どうしよう。
「一ノ瀬君がそれでいいなら私は…… 」
有野さんは何を言ってるんだ? 服を着て欲しいに決まってる……
いや体が求めているのか? そのままでいいと思ってしまってるのか?
そんな馬鹿な。俺は有野さんに服を着てもらいたいんだ。
そのままでは本当に風邪を引くぞ。暖房はつけてない。
節約の意味もあるし第一毛布も布団もコタツもある。
そんな状況ではつけるはずないだろう?
今すぐつけるにしても温かくなるまで十分は掛かる。
風邪引かない為にはすぐに服を着るかコタツに入るか自分の家に戻るかしかない。
ノロノロしていたら本当に風邪を引くぞ。ああ心配だ心配だ。
「ねえ一ノ瀬君。本気なの? ふふふ…… 」
俺を惑わす有野さん。そんな風に迫られたら誰でも耐えられるはずがない。
それでも俺は服を着てもらいたい。できるなら下着だけでもつけて欲しい。
それが俺の偽らざる気持ち。どうしても服を着てもらいたいんだ。
気づいたんだよ。もうこの目では彼女のすべてが見れないと。
常にモヤがかかった状態。湯気や謎の光によって見えなくなってしまっている。
それが思春期症候群なのだろうがそれでも見たい。見たい。見たい。
でも見れない。有野さんはそれが理解できない。
伝えることもできない状況。そもそも言えるはずがないじゃないか。
どうしてそうなったかと言えば有野さんのあられもない姿を見たからで。
原因が彼女にある。とは言えそんなことは口が裂けても言えない。
普通はあり得ないこと。まさか覗いた上でおかしくなったとは誰にも言えない。
言ったら殺される。これは誰にも相談できないこと。隠しに隠して今がある。
医師にだって詳細は避けて抽象的な相談しかしてこなかった。
「本当にいいの? 帰るよ。戻っちゃうよ」
誘惑し続ける有野さん。何度念を押されようと気持ちが変わることなどない。
もちろんいいはずがない。だからってここに来られても困る。
うお! 戻られて堪るか!
感情がコロコロ変わって自分でももうよく分からない。
「分かりました。正直に言うと嫌ですがでも今日のところはお帰り下さい」
まだ心の準備ができてない。今日は早い。俺たちはまだ早い。早過ぎる。
俺たちは高校生なんだぞ? そこまで行っていいはずがない。
常に疑問に思っていたこと。自問自答しても決して正解は見つからなかった。
俺がおかしいのか? それとも有野さんがおかしいのか?
そんなの一目瞭然じゃないか。
裸で迫る有野さんと寝間着で拒絶する俺。
どう考えても俺がおかしい。常識で考えても俺だし狂ってるのだって俺だ。
彼女は間違ってない。感情の動くままに行動している。
女神様。俺の理想の女神様なんだからな。
「ふふふ…… 強がっちゃって。だったらその立ってるのは何? 」
下品極まりない有野さん。不快感さえ拭えない。どうしてそんなことを?
素っ裸な女性が迫ってるこの状況で変化しないのは逆に異常だ。
どんなに紳士に振る舞おうと心はどうにもならない。体ならもっとだ。
「これは緊張と驚きで…… 」
つまらない言い訳をする。
「はいはい。そう言うことにしましょうね」
「有野さん…… 」
「ほら困った顔しないの。今日だってずっと私を見ていたでしょう? 」
そう。こっちから見えるならあちらから見えるのは当然。
見たい見たくないに関わらず見えてしまう。
有野さんの言う通り俺はカーテン越しに見ていた。
それがバレるのが怖い。恥ずかしいのだ。
情けないことに言い訳してしまう。
「もうここは寒いな。体冷えちゃった。
次はきちんと暖房をつけてコタツもお願い」
そう言うと来た道を戻っていた。
ああ有野さん。俺はどうすればいいんだ?
確かに覗いたし夢も見た。でもここまで来られるとは考えもしなかった。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ああせっかくのチャンスを逃してしまった。後悔してももう遅い。
うおおおお!
雄叫びを上げ布団をかぶる。
もう寝よう。今夜のことは忘れよう。
きっと何かの間違いだ。夢か何かだろうさ。
続く




