二人でホテルに 目撃者の証言
再び消しゴムを落としてしまう。
「おい一ノ瀬! 何をやってる! 」
「すいません! 消しゴムを落としまして」
きちんと正直に言う。そうすれば先生だって文句言わないさ。
「馬鹿者! 早く取ってこい! 」
文句は言わないが叱られた。くだらないことで時間を取るなということらしい。
もうすぐ期末だからな先生にしろ生徒にしろ真剣だ。
「はいこれ」
ようやく気づいた佐藤さんが拾ってくれた。
そこで鐘となりお説教されずに済んだ。
これはついてる? 大吉? 中吉? それとも大凶?
「ねえ何で無視するんだよ? 」
友だちだと思ってたのに酷い。俺が佐藤さんに何かしたのか?
思い当たることはいくらでもあるけれど。それでも言ってくれないと分からない。
話しかけても気がつかない振り。睨まれはしないので不快にまでならないが。
それでもクラスで相手してくれる数少ない友だち。無視はないよ。
今回だって騒ぎが起きなければ無視を決め込んでいたはずだ。
放課後に残るように言われる。
まあ今日ぐらい有野さんと帰らなくてもいいよね。
無言で最後まで睨む有野さんがようやく出て行きどうにか二人きりになる。
本当は別に三人でもいいとなぜか妥協する佐藤さんだったがそれでは俺が困る。
もし有野さんを怒らせることになったらどうなることか。
優しい有野さんからは考えられない鋭く突き刺さる視線。
俺が一体何をしたって言うんだ?
これがいつものことだと分かってなければ落ち込んでいただろうな。
それくらい有野さんは人格が変わる。
有野さんのことだからどうせ教室の外で聞き耳を立てているんだろうな。
だからなるべく静かに聞こえないように話す。
「ごめんね一ノ瀬君。でも嫌だった…… 不潔なあなたを見たくなかったの! 」
何を言ってるんだろう? 今日はついてないのかな? 嫌なことでもあったか?
あっても俺に八つ当たりしないで欲しい。有野さんでもあるまいし。
嫌でも不潔はないだろう? 毎日風呂に入ってるし髪だってシャンプー使ってる。
「嫌と言われましても心当たりがまったくないんですが」
不潔は見た目だからいいとして俺は佐藤さん…… ナンバーフォーに何かした?
「シラを切るの? 」
うわ…… 追及が始まったぞ。俺は耐えられるのか?
すぐに洗いざらい吐きそう。おっとこう言うところが不潔なのかな?
フケも臭いもないと思うんだけど。
「ははは…… どうしたの? よかったら相談に乗るよ」
つい余計なことを言ってしまう。黙ってしまったではないか。
「ねえどうしたの? 俺を避ける理由を聞かせてよ」
「先日会ったでしょう? 」
ようやく話してくれる気になったらしい。
「先日って? 」
覚えている。確かあのコーヒーショップの話だよな。もしかして気にしてる?
「忘れたとは言わせないよ」
まずい。このことはできれば内密にしてもらいたいのに。
「そうそう。偶然だよね。運命を感じたな」
大げさに言う。そうすればごまかせるかなと。でも真剣な表情を崩さない。
困ったな。まさか有野さんの件か?
でもあれは俺がストーカーってことで片付いたよな。
今更蒸し返すようなことでもない。堂々としていれば勘違いに気づくさ。
「あの後一ノ瀬君…… 」
そこで止められても。下手に頷けないんですが。
あの後の話はとても言えたものじゃない。
でも手を繋いで寝たぐらいで結局何かがあった訳ではない。
ああ…… どうして俺って情けないんだろう?
有野さんが受け入れてくれたのに眠っちまうんだからさ。
つくづく運の悪い男さ。千載一遇の大チャンスを逃した。
そこは男としてどうかと思うし大いに反省してるところ。
ただ俺たちの関係がまだはっきりしてない。
きちんと告白してないからやり辛い。
それだけでなく隣人関係が拗れてはまずい。
それに思春期症候群もあってどうしても積極的になれない。
医者は卒業すれば自然とよくなっていくと言うがそれでは遅い。
俺には積極的になれない理由が確かにある。
でもそれも全部言い訳に過ぎない。
すべては自信がないからだと思っている。
「俺に用事でもあったの? だったらその時に言ってくれればいいんだよ」
「ううん。あなたたちがホテルに入って行くのを見たの」
おおっと。爆弾発言が飛び出したぞ。これは新たな脅迫者の誕生か。
有野さんにその気配があったがただの思い過ごしだった。
しかし今回のは……
どうやらつけていたらしい。尾行するとはどう言う神経してるんだ?
「はあ? 見間違いじゃないの? 俺に似た人ならそこら中に」
どうにかシラを切り無理やり通す。
だが追及が緩むことはなく逆に激しくなる。
「見間違いじゃない! あなたたちが手を繋いでホテルに入って行った」
どおりで機嫌が悪いわけだ。
「いやだから俺が有野さんのストーカーで…… 」
「手を繋いだなら受け入れてるでしょう? どうしてそんなことしたの? 」
どうやら彼女は俺たちの関係を疑ってるのだろう。
問題は疑惑などと言うレベルではないと思い込んでること。
「手は繋いでないよ。そう見えただけさ」
苦しい言い訳をする。
「はあそれでもホテルに入ったでしょう? 」
「入ったよ! それは認める」
なぜこんなおかしな追及を受けなければいけない?
お互いが愛し合ってるなら問題ないと思うけど。ただ実際は試験勉強だし。
「やっぱり! 認めるのね? 」
「待ってくれ! 誤解だよ。俺たちはただ試験勉強に…… 」
「嘘! 誰がそんな嘘を信じる訳? 」
ダメだ。もうクロだと決めつけてやがる。それでは何を言っても無駄。
ホテルに二人で入っただけで何が問題なんだ?
「だから正直に言うとホテルに。部屋にも入ったし何なら泊りもした。
二泊三日の合宿だからね。あれは大変だったな」
うわ…… つい面倒臭くて正直に吐いてしまった。
でもこうでもしないと疑われたまま。
でも信じて欲しい。俺たちは何もなかった。
ただ五階さんに誘われて合宿しただけ。なぜそれが分からない?
続く




