ムチ百発! 覚めない夢
慣れない勉強でヘトヘトになり一人ベッドへ。
気持ちよく寝てるところに突然有野さんが。
想定外の行動に出る。
手際よくロープで拘束するとムチを取り出した。
どうやらムチ打ちの刑に処されるそう。
俺何かした? いや…… 何かしたでしょうか?
絶対に歯向かわないぞ。ここはもう従うしかない。でもなぜこうなった?
あまりにも現実離れした展開にもはや言葉もない。
寝起きは最悪。まるで悪夢のような現実。
ロープで縛りつけ動きを封じてからムチでいたぶる周到さ。
「やめようよ有野さん。誰も得しないよ。損するのは君の手の方。
それがどうして分からない? 」
懇願する。だが決して有野さんは振り上げたムチを降ろそうとしない。
俺に向かって降ろされたら同じことだが。
どうかしてるよ有野さん。今まで見たことない人格が現れたのだろう。
こうなっては打つ手はない。ただ懇願するだけ。
「ごめん。私多重人格だから…… 」
言い訳になると思ってるらしい。それは違う。
多重人格だからって人を傷つけていいことにはならない。
それくらい聡明で美人で思いやりのある有野さんなら当然理解してると思った。
だがちっとも聞いてくれない。自身でコントロールできなくなりつつある。
恐れていた事態が逃げ場のない密室で起きる最悪の事態。
もう笑うしかない。笑ってごまかそう。
そうすれば有野さんだって戦意を喪失するはずだ。
「ははは…… 言い訳はよくないよ。自分にきちんと向き合わなくちゃ。
まずはそのムチを置いて。冷静になろう。
ゆっくりじっくりと話し合おう。俺はそう言うのは苦手なんだ。怖いよ。
もしどうしてもと言うなら別の得意な者を選ぶべき。
だから俺を解放してくれないか? 」
交渉を重ねる。冷静に落ち着いて。相手を興奮させないようにする。
果たして俺の声は彼女に届くだろうか?
希望は薄いような気がする。
「だったらもう私を抱いて! 」
自暴自棄になっている。これはどうすればいいか迷うところ。
もう受け入れるのがいい。脅しに屈し受け入れるしかない。
有野さんは本気だ。それでいいと言うなら俺だって。
でも完全に精神をやられている。無理矢理じゃないか。
そんな愛に飢えてるはずがない。有野さんはもっとしっかりした人だ。
憧れの有野さんがこんなことするはずがない。
「ごめん。できない」
こう言う時格好つけたくなるのが男だ。
本当は嬉しいしすぐにでもかぶりつきたいのに。
心にもないことを言って傷つける。
最低だよ俺は。いや…… 最低なのは有野さんか。
「どうして? 私ではダメなの? こんなにあなたを求めてるのに! 」
泣く真似。もう感情の変化について行けない。
「一旦落ち着こう。俺たちまだそう言う関係じゃないだろう? 」
要するにフライングだ。焦って愛を失ってどうする?
もっとゆっくり二人で愛を温めて行こう。
「だったらムチを受けて! 」
ダメだ。暴力で解決しようと試みる。単純思考に陥ってる。
ここはどうにかしないと。
再びムチを手にする。ああ俺はもう逃れられないのか?
いつの間にか心の奥底で密かに求める自分がいた。
「ムチは痛いよ」
「でもあなたが許せない! 」
「俺が何をした? 」
「いいから! 我慢して! 」
「まさかクラスで三番手と言うのを真に受けてないよな? 」
「ふふふ…… 一番手じゃないの? 」
「いやいや当然俺の中では有野さんが一番さ。でもクラス全体の話だから」
俺が決めるなら当然有野さん。ただ他にもかわいい子がいるから。
我が校はある意味で激戦区。全国からかわいい人材が集まっている。
その子たちがうちのクラスに集結。
結果有野さんはとびっきりの美少女のはずがなぜか三番手に。
彼女にとっては悲劇だろうが俺にとってはありがたいこと。
「一番じゃないの? 」
「もちろん一番だよ。それは変わらない」
「嘘つき! 他の子ばっかりチラチラ見てるくせに」
つぶさに動向を探ってるらしい。
凄い能力。類まれな洞察力を持っている。
「それは…… 有野さんが睨みつけるからで。とても直視できないんだ」
「かわいくて直視できないんだよね? 」
有野さんはポジティブに捉えるが決してそんなことはない。
学校での振る舞いはこの際置いておくとして俺はどうするべきだろう?
「ダメ! そんな邪な考えの人にはお仕置きが必要なの」
何かと理屈をつけてムチ打ちにしようとする。
もうどんなに言い訳しても無駄らしい。
褒め殺しても聞く耳を持たなければ意味がない。
「行くよ」
もう逃れない。どうしてこんなことに?
楽しいはずの合宿がある種の惨劇へと変化する。
ちょっと思ってたのと違うスキンシップ。
愛情表現が過激過ぎてとてもついて行けない。
俺は何をされそうになっているんだろう?
ただもう覚悟は決めた方がよさそうだな。
「ほら一発! 」
ついに忠告を無視して始めてしまう。
「やめろ! やめてくれ! やめろ! 」
「やめないよ」
こうして説得の甲斐なくムチ打ちの刑に処される。
俺が何をしたと言うんだ? ただ一緒に勉強しただけじゃないか。
下が疎かになっていたからつい目が行っただけ。これが俺の罪なのか?
おっと言い訳ばかりで情けない。
うおおお! やめてくれ!
こうして百発ムチを喰らったところで目が覚める。
できれば一発目で目が覚めて欲しかった。最悪三発ぐらいでさ。
「どうしたの? 大丈夫一ノ瀬君? うなされてたみたいだから…… 」
ベットで寝ていて突然だから驚いて頬を張ったらしい。
それでも起きないからつねったと。無茶苦茶だな。
どおりで夢が覚めない訳だ。同じ痛みを感じていたんだろうな。
続く




