ムチ打ち
二泊三日の勉強会は二日目に突入。
昨夜五階さんの策略で有野さんと一夜を共にした。
俺は何もなかったと記憶してるが果たしてどうだったのだろう?
超積極的な有野さんを止めることは不可能。
気づかないうちに間違いが起きても何らおかしくない。
それは今夜も同じことが言える。
ノートを写し終わる頃には二人とも真剣な表情に戻っていた。
うん。いい表情だ。一枚何てね。
有野さんは教室で見せるいつもの顔に。
うん。やっぱり横顔が素敵なんだよね。
教室では視線を感じると険しい表情に変化。
俺を睨みつけてくるからおっかない。
今は本当に自然だ。のびのびと勉強に励んでいる。
これなら間違いなく次のテストも余裕だろう。
そんな有野さんが手も足も出ないのが五階さん。
頭がいいかどうか実際俺にはよく分からないが教え方は凄くうまい。
理解してる証拠。ただ俺の思う頭がいいと彼女のできるには大きな差がある。
異次元の世界に足を踏み入れた感覚。
英語に磨きがかかりリスニング能力が向上。一人納得。
どうやら聞き取れてるらしい。
俺はと言うとちっとも進まない。
そもそも予習も復習もしない主義だからな。
極たまに暇つぶしにやることもあるが身につくことはない。
「ねえこの問題だけどさ」
近づき過ぎたせいで有野さんが赤くなる。
俺が近づくのは別にスキンシップをとりたいからじゃない。
ただちょっとでも離れると視線はスカートの中へ。
だから実際苦しい。抑えるのだって一苦労。少しはこっちの身にもなって欲しい。
「ほら一ノ瀬君付き合って」
なぜか英会話に強制的に参加させられる。二人一組の方がやりやすいそう。
これも勉強会。多少は合わせないとな。付き合うとしよう。
試験には関係ないと思うんだけど。
それから二時間みっちり叩きこまれた俺は英語が分かったような気がした。
問題は数学だよな。現国はどうにでもなる。社会も暗記すればいい。
理系は最悪できなくてもどうにかなるがどうしても苦手意識がある。
覚えても覚えても次の日には忘れているからな。
「ねえマナ。この公式の説明お願い」
「まずね。左辺を展開するでしょう。それから…… 」
何とまったくできそうにないと思われた有野さんが優秀だ。
五階さん曰く数学と保健体育は有野さんだと。
若干馬鹿にしてるように聞こえるが事実らしい。
そう言えば中間テストでも成績が上がったと言ってたっけ。
「そろそろ過去問をやろうか」
まさか大学入試? 冗談じゃない。俺たちはまだ高一だ。
そんなのもっと後で。心の準備が整ってからお願いしたい。
あれ…… よく見ると俺の学校の過去問だった。
俺は今の受験生よりもバカだと言うことらしい。
ひえええ…… 推薦だから関係ないってそれは前の学校か。
編入試験だから関係ないでいいかな。
まずは心の平安を取り戻してテスト勉強に励む。
ただ見えていないだけで確かに俺たちは成長してるのだろう。
「はい終了! 夕食にしようか」
数学の鬼の有野さんも緊張が解けたのか下が常にだらしない。
いつもこうだったかな?
「俺飯はいいわ。疲れすぎて寝たい」
もちろん他意はない。だがなぜか有野さんがおかしな反応する。
「もう一ノ瀬君。またそんなこと言ってマナをからかわないでよ」
五階さんに注意される。俺が悪いのか? 勝手に勘違いする奴がいけないんだ。
でもそんなこと面と向かって言えない。だって有野さんに悪いから。
「なあでもさ。寝ないか? 」
お昼寝は脳の回転に欠かせない。もう夕方だけど。飯はそれからでも遅くない。
「そっか…… せっかく父に会ってもらうつもりだったけど仕方ないか。
だったら二人はご自由にどうぞ」
飯の前に挨拶があったのか。危ない危ない。どうにか回避出来たな。
そもそも俺はラフな格好だし。着替えはシャツにジャージだから。
「いや俺…… 」
「無理しなくていいの。二人は疲れたでしょう」
そう言うと五階さんは行ってしまった。
この最高級ホテルでお父様とお食事だったようだ。
前にそんな風に誘われた記憶がある。まさか冗談だと思っていたが本気とは。
言ってくれれば協力したのに合宿だと思ってラフと言うか貧相な格好だもんな。
とにかく飯は後回し。シャワーを浴びたらホテルでぐっすり。
勉強するとどうしても眠くなってしまう。これはあれだな。
我が家の血。DNAってとこかな。
おやすみなさい。いい夢が見れますように。
しかし最悪の出来事が起こる。
なぜか金縛りのように全身が動かない。
そしてなぜか有野さんが姿を見せる。
やめろ! やめてくれ! 何をする?
全身を縛りあげられた挙句にロープではなくムチで叩き始める。
待ってくれよ。俺たちはまだ高校生。なぜハードモードに?
痛いのは苦手だしアザだってできる。いいことなんて何一つない。
「どうしたんですか有野さん? おかしいよ」
二人っきりなのをいいことに弄ぶ。これはご褒美? 嫌がらせ?
一体俺が何をしたと言うんだ? しなかったって言うんだ?
「かわいいって言わなかった」
言った気がするけど思っただけだったっけ?
でも言わないといけない法律はないだろう? 俺その手の分野は苦手だけどさ。
「言った。思ったんだから言ったと思う」
粘りどうにか回避行動に移る。
この際どっちでもいい。言おうと言うまいと。
それを二人っきりの時に解消しようとするのが間違っている。
「有野さん間違ってるよ。俺はそんな有野さんを見ていたくない」
どうにか説得しようと口から出任せ。
それが正しいとかじゃない。そのムチに打たれるのが嫌なんだ。
人によっては快感だったりご褒美だったりするのだろう。
だがあくまで俺は高校生。それは有野さんだって同じ。
「やめよう有野さん。誰も得しないよ。損するのは君の手の方だ。
それがどうして分からない? 」
懇願する。だが決して有野さんはやめようとはしない。
どうかしてるよ。
一体何があったって言うんだ?
続く




