無理なお願い
二泊三日の勉強会。
不備により有野さんと一夜を共にしたが果たして何もなかったかは定かではない。
俺が消極的でも有野さんの方が超積極的だからな。
うーん。どうだったのか気になる。後で有野さんに聞いてみるか。
ビュッフェで腹を満たすと部屋に戻りお勉強タイム。
二日目に入って急激にやる気をなくしている。
もうよくないか? 充分勉強したぞ。
一年の期末テストは大事だとは思うけど合宿するほど?
次回は絶対遠慮したいな。俺は別にそこまでして成績をあげたいとは思ってない。
平均点よりもちょっとだけよければそれで満足。
上を目指せばきりがない。絶対に次はパスしよう。
ただ果たして俺に…… 俺たちにそんな未来があるのかは微妙。
年を越すことさえ難しいのではと漠然とした不安。
気のせいだと思いたいが突然転校した元の住人のこともある。
それだけでなく有野さんと五階さんがひた隠しにしていること。
大家さんを含めあまりにも違和感があるんだよな。
何かが起こりそうな雰囲気が漂っている。
俺が勝手に感じ取っているだけだがきっと何かあるに違いない。
今はそんな確信めいたものが。それも気のせい?
気にしなければ大したことないのだろうがどうしても嫌な予感がする。
俺に迫る何か。恐怖の正体。杞憂であって欲しい。
おっと余計なことを考えてはいけない。切り替えよう。
しかしちっとも身が入らない。魅力的な二人につい目が行ってしまう。
へへへ…… 全然集中できないんですけど。
特に有野さんはガードが緩くていけない。
ちらっと見るととんでもないものが覗いている。
もうだめかもしれない。倒錯の世界へ。いや盗撮の世界へ誘い込まれそうだ。
だが絶対にやってはいけない。そもそも俺にはそんな趣味はない。
ただ許可を得ればいいんだよね?
「あの有野さん…… 」
ダメだ。やっぱり言えない。映させてくれとも写させてくれとも言えない。
だからって強行する訳にもいかない。
何だか自分が情けなく思えてくる。
「ホラまた! マナってばわざとでしょう? 」
「そんなことないよ。つい集中し過ぎて」
下手な言い訳をする有野さん。学校では決してそんなミスを犯さないのに。
白々しい。俺はもうその手のことに我慢の限界に来てる。
思春期症候群では悲しいことに決して中身が見えない。
だからそれを包むものに一点集中してしまう。
ははは…… 情けない。それが男の性とも言えるけど俺のはかなり特殊。
「そうじゃないんだ有野さん。その…… 君のをうつさせてくれないか? 」
ついに男らしく大胆に言ってみるが有野さんははっきりしない。
五階さんは虫を見るような目で。いや俺は害虫じゃないし。
「もう一ノ瀬君も気が緩んじゃった? でも朝からそれはまずいでしょう」
そうだった。俺はつい有野さんの誘惑にやられ本性を現してしまった。
ここはどうにか言い訳をしないと五階さんに軽蔑される。
気分を害してホテルから追い出されるかも。まあそれはそれで仕方ないこと。
「いや違うんだ有野さん。君のをうつさせて欲しいだけなんだ! 」
無駄に情熱的に訴える。
「ごめん一ノ瀬君。それはさすがに…… 」
有野さんに恥じらいが戻った。
それは素晴らしいことだけど今は大人しくうんと言って欲しかった。
「違うんだ…… 」
「何が違うんですか一ノ瀬君? マナに朝から欲情したんでしょう? 」
断定する五階さん。
「いや写させて欲しいのはノートであって…… それ以上でもそれ以下でもない」
「本当? 本当にそう思ってる? 」
「まあまあ一ノ瀬君が可哀想だよ」
追及の手を緩めない五階さんを有野さんが宥める。
「ほら俺ってよく机の上のものを落とすだろう? だからノート取るのが苦手で。
友だちもいないから。このままだと試験も不安でさ。だからうつさせて欲しい」
当然うつさせて欲しいのはあれだけど。とても言えない。
「そっか。一ノ瀬君も大変なんだね。私のを写すといいよ」
親切な有野さん。教室でもこれくらい優しいと助かるな。
いつもまるで睨んでるみたいで怖い。俺を拒絶してるみたいだからな。
それが帰り道では甘えて少々我がままな彼女。
そのギャップが堪らないが疲れはする。
まあいつも俺に優しくするのは無理なのは分かってる。
クラスでの立場もあるから。でもどっちが本当の有野さんなのか。
こんな風に俺に夢中な有野さんがなぜクラスではと言う話になる。
その変化をクラスメイト。特に男子に見抜かれてナンバースリーに留まる。
お節介かもしれないがその性格を直した方がいい。
「ううん? 何か失礼なことを思ってない? 」
時たま見せる鋭い有野さん。疑いの目で見られてはどうにもならない。
「いえ俺にとって有野さんは女神様ですから。恐れ多い限りです」
そんな風に煽てると喜んでくれる。どうやら満足したらしい。
まったく訳が分からない有野さんと言う存在。俺には扱い切れないな。
「もう一ノ瀬君ったら。ほらどうぞ」
「本当にいいの? 」
「いいよ」
「いいの? 」
「だからいいの」
なぜか恥ずかしそうに顔を赤らめる。
やっぱり下が疎かになる有野さんでした。
でも凝視はできない。ここはさりげなくさりげなく。
おっと俺は何をしてるんだ?
こうして若干五階さんに疑われながらもノートを写す作業を開始する。
さあこれで多少は点数アップにつながるだろう。
続く




