手を繋いで寝よう
夜。
ようやく寝場所を見つけた。
それは有野さんのお隣。端っこで遠慮しようとしても許してくれない。
仕方なく密着することに。
これが望みなら俺は大人しく従うのみだ。
うわ…… 冷静さを装っても興奮が治まることはない。
また鼻血が出そう。堪えないとベッドが汚れてしまう。
眠れぬ夜に有野さんと。
「ねえ私の声聞こえてる? 」
突然の呼びかけ。約五分間の沈黙を経て有野さんから。
どうやら彼女も寝れないのだろうな。それが普通でそれが人間と言うもの。
「はい。それはもう美しい声で」
褒めておこう。機嫌を悪くさせたくない。明日だってある。
「私の裸見えてる? 」
「はい? ちょっと何を言ってるのか? 」
見えてるはずがないじゃないか。そもそも俺は思春期症候群なんだからさ。
仮に見えていても言えるはずがない。何を考えてるんだ有野さんは?
興奮してるのか? 緊張してるのか?
「ごめん間違えた。ちゃんと私見えてる? 」
「はい。有野さんはいつもお綺麗で。睨まない限りにおいてかわいくもあります」
あれ俺は一体何を言ってるんだろう?
もしかして不満を述べてると取られたかな。
「一ノ瀬君あのね…… 」
「また…… 眠れないんですか? もう子供じゃないんだから」
「でも私…… 」
「お願いしますよ」
「ごめん。もう寝よう」
「そうですね」
こうして静かになったと思われたが……
「やっぱりだめ! 手を繋ごう! 」
うわ…… 我がままだな。
そこがかわいいところでもあるが。
「はいはい。こんな会話どこかで聞きませんでした? 」
「気のせいでしょう。さあ手を繋ごう」
「もう分かりましたよ」
こうしてついに二人は結ばれるのであった。
手だけだけどね。
「じゃあ手を繋ごうか? 」
「でも俺の手って脂っこいから。おじさんみたいだよ」
そのせいで鉛筆も消しゴムもコロコロした訳で。
緊張するとすぐなるんだよ。
恥ずかしいやら情けないやらで心が折れそうになる。
「気にしない。ねえ繋ごうよ」
どうやら有野さんは純愛モードを楽しみたいようだ。
まあ実際俺もそっちの方が楽でいい。
「電気を消そうか? 」
「ううん。私電気がついてないと寝れないの」
我がままな。それだと暗くないと寝れない俺はどうすればいいんだ?
寝てから消せば文句ない? でも寝顔など見たら理性を抑える自信ないぞ。
それはそれでいいのか? いやそんな訳に行くか!
「もう本当に我がままなんだから。それだと和葉だよ」
つい妹を思い浮かべてしまう。まずかったかな?
「和葉? ああ妹さんだっけ? それとも別の女? 」
「ははは…… 妹に決まってる。疑り深いな有野さんも」
まずいぞ。妹の話は嫌か? そもそも彼女に妹の話するシスコンはいないか。
「だって一ノ瀬君てば教師から隣のクラスまで手当たり次第手を出すから」
これは牽制のつもり? それとも五階さんのことがバレた。
まずいぞ。まずい。これ以上の修羅場は遠慮したい。もう眠い。
「何を言ってるんだよ? 俺はいつも有野さんしか見てない」
あれ…… まずいぞ。つい勢いで。告白したのかな?
俺たちの関係があやふやだからどうも変な感じがするんだよな。
「ねえ。妹さんともそんな関係? 」
突如狂いだす有野さん。俺が和葉と? そんなことあるかい。
ただ小さい頃から仲のいい兄妹だったからな。
「つまらない話はやめて寝ましょうよ有野さん。もう疲れた」
「やっぱりそうなんだ…… 」
どうやら有野さんは俺と妹の関係を勘ぐっているらしい。
そんな馬鹿な。妹なんだぞ? 俺たちは兄妹なんだから。
あれ…… 自分の気持ちがよく分からなくなってくる。
とにかく寝るかな。おやすみなさい。
こうして眠れぬ夜を過ごす。
だって明るいんだもん。
翌朝。
リッチにホテルの朝のブッフェ。
取り過ぎに注意しよう。
腹を壊すし田舎者だと思われたくない。
有野さんは良いとしても五階さんはきっと笑う。
そうでなくても五階さんが笑われることになる。
「どうしたの二人とも寝不足? 」
そう言ってからかう五階さん。それはそうだろう。
眠ったから電気を消すと眠れないと起き出す。
それを繰り返すものだからもう二時間は寝れなかった。
結局どっちが先に寝たのか?
電気がつけっぱなしだったから俺が先に寝たんだろうな。
もう子供じゃないんだから暗くて寝れないはやめて欲しいな。
和葉もそんな癖があるがそれはただの我がままであり贅沢。
母さんが注意すれば聞く。でも不満なのか俺に当たるんだよな。
ただの被害者。女って本当に分からない人種だぜ。
おっと…… こんなこと言ったらまた五階さんに咎められるんだろうな。
礼儀とか作法だけでなく爺さんの影響で色々と厳しい。
自分に厳しく人にも厳しいタイプ。
うん。五階さんみたいな人がトップに立てば日本もきっとよくなる。
もちろんすべて幻想なんだけどね。どうせ今だけさ。
大人になれば百八十度変わるさ。それが政治家だと父さんが言ってた。
たまに報道討論番組で見る五階さんの爺さんは怖そうだったな。
他者へは異常に厳しくちょっとの失敗を突いて自分を上げようとする。
そんな風に映る。あの人に意見する人いるの?
もうお年だからそろそろ引退するんだろうな。
でもそうなったら五階さんの親父さんが跡を継ぐのかな?
それほど厳しい五階さんが俺なんかとホテルで密会。
そもそも脱ぎ癖のある有野さんと一緒なのも少々気になる。
ブッフェで腹を満たすと再び勉強へ。
こうしてお勉強会は二日目に突入。
果たして今日は何が起きることやら。
続く




