密会
最高級ホテルで秘密のお泊り会。
最上階スイートとはいかず三階のごく一般的なお部屋。
と言っても中は広々としている。
俺の家とは比べ物にならない豪華なお部屋。
さすがに有野さんと二人っきりではちょっとは寂しいかな。
頭を冷やそうと外に出るとオートックの罠に掛かる。
そしてクラっときて頭をぶつけてしまう。
「早かったですね有野さん」
あれ? 返事がない? 怒ってる?
それにしても早いな。いくらシャワーでも早過ぎませんか?
俺のためにゴシゴシ丁寧に洗ってくれるんじゃないの?
でも別に汗臭い有野さんも悪くない。と言うか大歓迎。
「どうしたの? 五階だけど? まさか見えない?
違うか。誰でもマナに見えるんだね。可哀想に」
「ははは…… 何を言ってるんですか? 」
ただ意識が朦朧としてるだけなんだけどな。
何かとんでもない勘違いされてる気がするがまあいいか。
「どうしたのその血は? まさかマナに引っ掻かれた?
もうすぐ喧嘩するんだから。それとも我慢できずに襲っちゃった? 」
笑いながらとんでもないことを言う五階さん。それこそ誤解ですよ。
そう本人に言えたらな。でもつまらないギャグは言いたくない。
「黙っちゃって。もしかして本当に? 」
有野さんを襲う? 冗談でしょう。あんな尊い存在をどうこうするはずがない。
「そんな訳ないでしょう? 有野さんなら風呂ですよ」
「それで一緒に入ろうとして引っ掻かれた? 」
無茶苦茶だ。俺をどういう人間だと思ってるんだろう?
どちらかと言うと逆なんだけどな。言えないよね。
彼女のプライバシーにも関わること。いくら五階さんでも言えないさ。
「もう仕方ないな。さあ中に入って。手当したあげる」
腕を取って有無を言わせない。
「まずいっすよ。それにこんな傷どうってこと…… 」
「ダメ! 化膿するでしょう? さあベットに座って早く」
そう言って強引に部屋へ連れて行かれる。
「いいんですか? 一人では寝れないってごねてたのに。連れ込んで」
「その言い方…… ただ手当するだけでしょう? それとも狙いはそっち。
一ノ瀬君もマナがいながら大胆。でもどうなっても知らないからね」
「その…… もちろん冗談ですよね? 」
「ふふふ…… どっちだと思う? 」
あれいつもの五階さんとはまた違う雰囲気。大人の余裕を感じる。
本当に同級生? 年齢ごまかしてない? 大体その成熟し切った体は何だ?
まずい。想像しただけで鼻血が。俺耐えられるかな? 無理だと思うな。
「もう今度は鼻血? どこまで面倒を掛けるつもり? 興奮しちゃった。
一ノ瀬君がそれで良いって言うなら私構わないんだけどな」
誘惑する五階さん。どれだけ大胆なのか? これはもうお手上げ。
鼻血が治まる気配はない。
「ほら全部脱いで」
「でも怪我は頭なんだけど…… 」
「いいから! どうしても他人の服がくっつくのが嫌なの。
汗もダメ。ベットはきれいにしておきたいの」
でもそれなら椅子でいい気がするが。何だか言ってることが矛盾してるぞ。
「ほら早く! 脱がせてあげようか? 」
「もう! 自分でできますって」
そう言ってまんまと服を脱いでしまった。
これが彼女の計画なら俺は嵌められたことになる。そんな展開あり得ないが。
「あらあら元気になってるみたい。どうしたのかな? 」
からかうがこれは避けようのないこと。我慢すれば我慢するほど反応してしまう。
まずい。上からも下からも。俺ってどんな人間だよ?
こんなところを有野さんに見つかったらシャレにならない。
どうしよう。どうしよう。
「ホラまずは鼻血を止めましょうね。うん出るわ出る」
「五階さん。この状況はまずいんじゃないかな? 」
「もうだったら大人しくしてて。急いで治療するから」
うわ…… そこは違う。どこを触ってるんだ?
「五階さん…… 」
「大丈夫。これでお終いだから。絆創膏を貼って終了ね」
どうやら真面目にやってくれたらしい。
ドンドン
ドンドン
「お客さんみたい? 」
そう言えば聞こえるな。
最初は優しく徐々に大きくなっていく。次第に耳に響くようになる。
「開けて! 一ノ瀬君がいなくなったみたいなの。作戦が漏れたのかな? 」
有野さんが必死だ。まさか俺がいると思わずに助けを求めた?
それにしても作戦とは何のことだ? 何か企んでいるとでも言うのか?
「まずい! マナだ。ホラ隠れて! 」
言われるままベットに潜り込む。何か不倫の密会現場みたいで生々しい。
ただ手当をしてもらっているだけ。でもたぶん勘違いするんだろうな。
「開けてよ! 開けてってば! 」
まずい。これ以上は迷惑だ。ホテルの方からクレームがはいるのは間違いない。
さあ急ぐとしますか。でも俺はここから動けないぞ。
修羅場に冷静な五階さん。
すぐにドアを開けて招き入れた。うわ…… どう言うつもりだよ。
「ごめん。シャワー浴びたらいなくて。どうしよう? 」
有野さんは相当焦ってるな。どうしたんだろう何かあるのかな?
少々気になるが修羅場を脱しないとな。こっちはピンチだ。
人生最大のピンチだ。大げさではない。
ここで見つかったら勘違いされて終わる。それは間違いない。
ではどうするかと言えばここでじっと嵐が過ぎ去るのを待つしかない。
有野さんをかわすしかないんだ。でもどうしようもない状況。
もしベットを調べられたらお終い。きっと二度と口をきいてくれないだろう。
それはとても耐えられない。だからこそ逃げ切るしかないんだ。
「ねえ…… 」
「分かったから。一緒に探してあげる。ほら落ち着いて」
そうして有野さんを伴って行ってしまった。
ふう…… 危なかった。ギリギリセーフだ。
どうにか修羅場を乗り切った。
続く




