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裸間ボッチ  作者: スカート保存委員会
6/60

ピッチ

中間試験が終わると今度は文化祭へと話題が移る。

部活があって友だちがいればそれは楽しいだろうさ。でも俺は常に一人。

孤独に生きる男なのさ。格好をつけるが虚しさはどうしても拭えない。


「はい。クラスの出し物を決めます! 」

うわ…… 冗談じゃないよ。ただでさ面倒臭いのに出し物?

協力して何かやるのなど興味ない。


それにしても寒いな。夏が過ぎたと思ったらもう冬の気配。

間もなく十一月。そろそろコタツの準備だな。

この地域は夏は非常に暑く冬は酷く寒いと言う最悪の環境だと聞く。

俺の地元も似たようなものだけどまだ冬はマシな方。

どうやらこの地形が関係してるらしいのだが詳しくは知らない。


「演劇をやります。何がいいか考えてくださいね」

クラス委員が張り切るのだが誰も興味を示さない。

演劇はさすがにハードルが高いって。

ただここで余計なことを言えば押し付けられる。

それだけは何としても避けなければならない。

やる気のない奴は戦々恐々としている。


「壮大なお話がいいと思います」

有野さんが積極的だ。

「具体的にありますか? 」

「オリジナルで勝負するのはどうでしょうか? 」

原作があるものではなく自分たちで一から作り上げるそう。

そうすると原作以上に時間が。冗談じゃないよ面倒臭い。

なぜか反対する奴もいない。他の案も浮かばないと。

誰かカフェでもやると言えばいいのに。

どうも舞台に立ちたいらしいな。これは恥を掻くぞ。

うわ…… 本当に面倒臭い。でも有野さんがそう言うなら賛成するか。


「分かりました。では有野さんにお願いしても? 」

「はい」

案を適当に出したのではなくもう物語を考えてるのだろう。凄いな。憧れる。

「賛成! 有野さんに賛成! 」

面倒なものだから皆賛成に回りあっと言う間に出し物が決まる。

そもそも出さないと言う選択肢はないのか?

これはまずいぞ。逃げられない予感。

部活の方もあるので文化祭は手の空いてる者が駆り出される。

そうすると活動休止中の俺も狙われる? 帰宅部ではないのが救い。

どうであれ我がクラスの出し物が演劇だと言うのは決定した。


さあ昼飯でも食うか。

屋上で一人虚しく弁当を食べる。

弁当と言ってものり弁と野菜と玉子焼きにから揚げぐらいなもの。

すべてスーパーで買ってきたものをドバっと投入するだけ。

学食でもいいんだけど混雑するのが苦手。

あんまり美味しくないしね。たまに寝坊した時にお世話になるが。

できるだけお弁当にしている。栄養が偏らないように一応は気をつけている。


今日は珍しく先客がいるようだ。まったく迷惑だな。ここは俺の指定席だっての。

屋上で隠れてコソコソと何をやってるんだか。しかも男女で。

これはご飯が進まない展開。

屋上で昼を食うのは俺ぐらいなもの。だって皆楽しく教室か食堂で。

トイレで済ます奴もいるがどうも衛生面が気になるしな。

そんなことがバレて親に知られたら泣かれてしまう。それだけはやめよう。

でも孤独に変わりはない。


「ねえもう本当に無理なの? 」

「うるせい! しつこいんだよお前はよ! 」

どうやら別れ話らしい。これは修羅場になる予感。

でもまあいいか。そうなったらそうなったで。俺には関係ないし。

飯が不味くなければそれでいい。


モグモグ

モグモグ

「何がいけないの? 私のどこが気に入らないの? 」

泣いてる? 悪い男だな。うんうんこの玉子焼きはよくできてる。

「だからしつこいんだって! それにお前さ全然…… 」

男の不満は単純なもの。率直に欲求不満だそう。

ははは…… 神聖な学び舎で下品な奴だな。

俺が飯を食いながら聞き耳を立ててるんだから少しは考えろよな。

うんご飯が柔らかめだ。これではおかずが美味しくない。


それで彼らは何者? メモを取り出す。

確か奴はサッカー部のスーパーサブ。岡村だったっけ?

俺が転校してきたことを知って勧誘にやって来た。でも俺はサッカー苦手だから。

去年まではリフティングも多少できたし走れもした。

だけど転校した時から目の調子がおかしい。

サッカーが下手になった。きちんとボールに当たらなくなった。

だから無理だと断ったがそれでもしつこく勧誘してきた。

でも俺が入ったらずっとベンチを温めることになるぞって。

それで奴も悟ったんだろう。だからそれ以降はぱったりと。


顔は悪くないが少し強引なところがある。だから女からも人気が少しだけある。

そして今贅沢にも別れ話をしている。あーあもったいない。シャケの皮が落ちた。

相手の子だって悪くないルックス。いや正確には相当なレベルだ。

人によっては女神様だって思う奴もいるだろう。

確か隣のクラスだった。クラスでは常にナンバーワン争いをしている。

この男とつき合い始めてから急降下。まあ仕方ないよな。

俺は一人ボッチだが趣味が人間観察だから自然と人を見てしまう。


「俺たちは終わったんだ。別れようぜ」

非情なスーパーサブはそう言い残して格好よくピッチを去った。

俺に気づかないはずないがそのまま行ってしまった。

残ったのはこの恐らくビッチの方。

大泣きする。迷惑だなあ。さあどうするか?

スーパーサブの代わりに俺がピッチに降り立った。


「大丈夫? 悪い奴だね」

そう言ってティッシュを渡す。ハンカチでもいいが俺のは洗ってないから。

「あなた確か…… 」

まさか俺のことを知ってるのか? 覚えててくれた? それは身に余る光栄。

「ごめんなさい。ありがとう」

そう言って行ってしまった。せっかくのチャンスを逃してしまう。

まあいいか。これでゆっくりご飯が食べられる。


                続く

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