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裸間ボッチ  作者: スカート保存委員会
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カルテ違い

現在。通院は一週間に一回となっている。

本来なら間隔を空け一か月ごとや三か月ごとが一般的だろう。

ただそれには事情があって前の先生が田舎に。代わりに新しい先生が赴任。

その関係で頻度高め。慣れてコミュニケーションが取れるようになるまで。

それと珍しい症状なので検査等も並行して行うそう。

俺としてもこの謎の症状を一刻も早く改善したいのでありがたい。


大きな総合病院。現在入院中のクラスメイトの見舞いに行ってきた。

クラスで唯一の話相手で親友だった男。同じスカート保存委員会所属。

たまたま隣の席だったのが縁でよく話すようになった。

だから俺は実際はちっともボッチではなかった。

しかしすぐに怪我したのかただの病気なのかそこのところは分からないが入院。

すぐに一人きりに。


「もうすぐ退院だがたぶん学校に行くのは二学期の終わりか三学期だな。

もう行きたくて動きたくてうずうずしてるんだけどよ親がダメだって言うんだ。

まあ大したことないしすぐ戻って来るから安心しろ! 」

そう言って笑って元気な姿を見せる。

でも会った当時よりも随分痩せた気がする。五キロは減ったんじゃないのか?

頬がこけて全体的にやせ細った感じがする。大丈夫だろうか?

入院すれば皆こんなものだと強気。まあ退院して飯を食えばすぐにでも元通りさ。

退院して学校に戻れれば何の心配もない。


こうして十五分少々だが会えてよかったなと思っている。

さあ今度は自分の番だ。俺の症状は一体どうなってることか。

恐らく一時的なことだろうが目はとても大事。

仮に精神的なことであろうと目に影響するのは気が気じゃない。


最後の方の予約なので患者がほとんどいない。

特に精神内科だからかそこまでの人数はなくその患者ももう診察を終えたらしい。

俺を除くと目の前の男一人だけ。


うん? 何だ? ぼそぼそと言ってるな。どうやらこの男が最後らしい。

頭を抱える俺と同じ高校生? どこかおかしい?

さっきから独り言。まるで念仏を唱えてるよう。

気持ち悪いな。昔の俺みたい。話しかけるのはよそう。

ごめんなさい? うん? 謝罪してるのか? 

とにかく関わらないようにしよう。


扉が開く。

おっとそろそろ俺の番だな? 呼ばれる前に行ってしまえ。

あの男が少し気になるがもう診察の時間だ。

先生はどんなタイプの人なのかな? ちょっとだけ不安になる。

いきなり先生が交代したからな。ワクワクと言うかドキドキ。


「初めまして担当医の日暮ですよ。よろしくね」

どうも俺を馬鹿にしたような言い方。

俺は高校生だぞ? その辺のガキと同じ態度で接するなっての。

つい怒りが湧く。もちろん心の声だから問題はないし分かるはずがない。


「どうされましたか? お疲れのようですが」

まだ若く眼鏡を掛けたひょろっとしたタイプの情けなそうな医師。

これだと怖いなどの苦情とは無縁だな。

問題はプライベートなことなのに不必要に看護師を入れていること。

これでは詳しい話ができない。恥ずかしくて何も話せないじゃないか。

精神内科の医師だろうが? その辺はしっかりしてよね。


「ふふふ…… どれどれ」

余裕の表情でカルテを見る。と言っても電子の方だが。

パソコンの画面にはよく分からない暗号が並んでいる。

何が書いてあるのやら。すぐに解析は不可能だろうな。


「うーんそうですか。殺してしまったと? 」

「いや…… 違うんだ! 俺じゃない! 俺はただこの手で…… 」

うん? そんな症状を訴えてないぞ。どう言うことだ?

人殺しなど物騒な真似をする訳ないだろう? まだ高校生なんだから。


「いいんですよ。当時あったことをゆっくり話してください」

「祭りの晩に俺は見知らぬ男をバットで殴りつけて殺してしまった。

その記憶がまだ残ってる! それが今でもはっきりと。うわああ! 」

「大丈夫。落ち着いて下さい。あなたの気持ちは分かりますよ」

「うげげげ…… 今も今も! 枕元に! 」

「ほら落ち着いて! あなたは罪の意識を感じているのです」

「だってあの男は許せない! だからだから…… この手で! 」

「分かりました。医者としては決して正しいこととは言えません。

ですが私個人としてはあなたに感謝します。ありがとう。

守ってくれてありがとう。大切に思ってくれてありがとうってね」

何を言ってるんだろうこの人? 


「でもそれだけじゃない。感覚がない…… その感覚がないんだ!

俺はこの手でやったはずなのに。なぜかない。おかしいだろ? 」

「そうですね。一旦落ち着きましょう。温かい紅茶を入れますので」

「先生は俺を信じてくれるんですね? 俺を? 」

「はい。感覚がないのはどうかと思いますがでもあなたは…… 」

そう言うとカルテと俺の顔を見比べる。

一体どうしたというのだろう? 何かおかしな点でもあるのか?


「ちょっと待ってください! あなたは誰ですか? 」

驚いた様子の先生は慌ててカルテを見直す。

俺としても何となく心当たりがある。

この症状は俺じゃない。でもせっかくだから続けようと思う。

「そんな。先生も信じてくれないのかよ! うおお! 呪ってやる! 

お前なんか! お前なんか…… 」


「落ち着いて下さい。あなたは後原さんではありませんね? 」

「はい。俺は一ノ瀬。一ノ瀬晶って言います。どうぞよろしく」

ようやく自己紹介できた。どうも勝手に話を進めるものだから困る。

後原って誰だよ? あのブツブツ言ってた男のことか?


「そうですか。ははは…… どうやらカルテを間違えてしまったらしい」

先生はとんでもないことを言い出した。あり得ない凡ミス。

これは失態。もはや信用問題。医師だけでなく病院としての信用を失墜する行為。




                   続く

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