止まらない!
不気味な笑みを浮かべる。おいおいそんな顔しないでくれ。ぞくっとするだろう?
心臓に悪いよ。でも次の瞬間もっと心臓に悪いことをしようとする。
目の前で脱ぎ始める暴挙に出る。明らかにわざとだ。いけないよ有野さん。
俺はこんな彼女を見たことがない。
いや一度あったな。数日前に初めてカーテンを開いた時だった。
カーテンの外では着替える有野さんの姿が。怖くなりすぐに締めてしまった。
意気地なしと罵られるかもしれないがそれでも俺は続けられなかった。
恐怖のあまり逃げたのだ。情けないさ。でもこれが普通だろう?
人が着替えてるところを無闇に覗くのは人として最低だ。
人間のクズだ。そんな奴は軽蔑する。通報だってするさ。
でも彼女は何とも思ってないのか手を止めない。
ついには下着に手を掛ける。何て悪魔的な所業なのだろうか?
降参だ。俺にはもはやどうすることもできない。
できないと言うかしたくないが正しい。なぜこのような事態に陥ったんだ?
声が聞こえないのでまったく分からないが俺を誘惑してるのは間違いない。
だが立ち止まって考えて欲しい。まだ俺たち高校生。付き合ってもいない。
ただお隣さんと言うだけだ。それでこうまでの関係になるものか?
分からない。分からな過ぎるよ有野さん。俺はまだ見てていいんだね?
君が求めるなら俺は従うよ。でもこれはきっと間違っている。
俺が覗くのは間違ってるし君がそれを分かっていながら脱ぎ出すのも違う。
そうは思わないか? 有野さん?
うおおお! もう止められない! どうすることもできない激情に支配される。
見たい…… 見たい。見たい。そんな単純な人間が俺の正体だ。
いいんですね? 本当にこれでいいんですね? 後悔しませんか?
それでも笑顔のまま。受け入れているかのよう。
どうせ会話など最初から成立してないがそれでも確かめずにはいられない。
ああ俺はもうダメだ。自分で自分がコントロールできない。
もう俺たちは取り返しのつかないところまで来たらしい。
あの頃の純粋な有野さんはもういない。いやどうかな?
俺は有野さんに理想を追い求めているようだ。
夜に起こることは夢であり幻覚であろう。もはや逃れる術を持たない。
でも一つ有野さんは勘違いをしているぞ。俺は私服には関心が薄いんだ。
ないんじゃない。薄いだけ。
制服。特に冬服に弱く興奮が止まらなくなる。
自分で何を言ってるのやら。分からないがそれでも仕方がない。
俺には好みがある。だから私服から着替えるのにそれほどの興味がない。
どうやら俺はおかしいようだ。それが普通だと励ましてくれる仲間も……
いるはずない。ボッチなのだから。
そしておかしな疑いを掛けられて転校する羽目になった。
どうしたんだろう? 元々俺はこんな軟派な男ではなかった。
もっと妹から憧れるような素敵な兄像を思い描いていた。
それなのになぜか今こはんな腑抜けた状態に。悲しくて悲しくて仕方がない。
ああ誰か俺を救ってくれよ。
おっと…… 大事なところだった。集中集中。
私服に興味が薄いのは仕方ないこと。それでもどうにか保っている。
今下着だけになった。まさか今から着替えてくれるのか?
でもお風呂に入るのが先では? どうなんだ?
うわ…… ダメらしい。ブラに手を掛ける。そんな無謀なことはやめてくれ。
いいはずないだろう? なあ我慢だ! 我慢してくれ!
いるんだぞ。釘付けになっている男がいるんだぞ?
だが願いも空しく動きを止めることはなかった。
ついに見えてはいけないものが姿を見せる。
うん? うん? うん?
その時異変が起きる。
何度も目を動かすが見えない。乾燥したか? ドライアイにでもなったか?
一度離れて顔を洗う。こんな大事な時に俺は何をしてるんだろう?
急いでざっばざっばと適当に目を洗って目ヤニを落とす。
うんさっぱりした。改めて拝見。
うーん。ダメだ見えない。これはどう言うことだろう?
かわいらしい動物柄の下着は見えるのだ。でも肝心のブツが見えない。
周りもぼやけてしまって谷間さえ見辛い。嘘だろう? あり得ない。
どうしてこのような事態に陥った? 俺の目がおかしいのか?
そしてついには禁断のゾーンにまで手を掛ける有野さん。
まったく遠慮がない。
ダメだ。それを開けてはいけない。パンドラの箱を開いてはもう戻れない。
あの頃の俺たちに戻れないぞ。それでもいいのか?
いいはずがないだろう?
目を瞑りどうにかやり過ごそうとするがでもどうしても引きつけられてしまう。
ふう残念だよ。有野さん。もう君のすべてを見ることになる。
もちろん心の内までは見えないがそれでもほぼすべてを見ることになる。
できるならこのような形ではなく願わくば二人っきりの時に頼みたかったこと。
そうだぜ。俺たちはまだ付き合っていないんだ。
恐らくこれで付き合うことになるだろう。そんな予感がする。
だがすべてをさらけ出した有野さんの期待に俺は応えられそうにない。
だって下半身が反応してない…… と言うのは冗談でやはり見えないんだ。
彼女の半分が見えなくなってしまった。しかもザラザラした何かとかではない。
これは光だとか湯気だとか髪の毛と言ったもので見えないだけ。
俺はもう彼女が見れなくなった。そうとしか思えない。
こうして悪夢の一夜は過ぎて行った。
続く




