見たいようで見たくないそれでいて見たい
有野さんと五階さんの三人で楽しい一日を過ごした。
今二人は隣の家でそれぞれ寛いでるところだろう。
誕生日プレゼントも買えたし五階さんへの日頃の感謝を込めた贈り物もできた。
順調だ。最小限のミスに留め情けない姿をさらけ出さずに済んで本当によかった。
有野さんには少しだけ悪いことをしたかな。
大して気にしてないだろうが予定になかったものを買う気にはなれなかった。
それにしても今頃有野さんは着替えてるんだろうな。
さすがにアンダーを試着してないだろうから今試してるところか?。
うーん。興奮してきたぞ。へへへ…… どんな感じなのかな?
まったく自分でも呆れるぐらい単純な男。
普通の奴はそこで妄想だけで済ます。
でも俺は違うぜ。実際に見ることだってできる。
当然それは犯罪で罪悪感がある。バレたら停学や退学では済まないだろう。
つい気が緩む。そして自分の偽らざる感情に気づく。
有野さんの秘密を知りたくて知りたくて堪らなくなっている。
どうしてだろう? それが男の性だから仕方ないんだけど。
いやいや覗いてどうする? 今すぐに着替えるとも限らない。
でもちょっとだけ。これは仕方ないこと。
カーテンを開けて窓も開け空気の入れ替え。
こうすると運気も上がるし体にもいいはずだ。
女難の相を振り払う意味もある。
今日で二回目か。
ああなぜこんなにもきれいなのか? 俺には分からない。ただ美しい有野さん。
そんな有野さんを俺のものにしたい。俺だけのものに。それが偽りなき願望。
それには彼女の秘密を知る必要がある。どうしても必要になって来る。
まずは多重人格の正体を探るのがいいだろう。
カーテンを開け有野さんを観察する。
当然こちらから見えてるなら有野さん側からも見えるはずだ。
それとも死角なのかな? だとするれば毎夜素晴らしいことになる予感がする。
大胆にも呼びかけるのもいいかもしれない。
へへへ…… もう俺がどうなろうとどう思われようと構わない。
ただ有野さんのすべてを知りたい。もし飽きた時は五階さんでもいいかもな。
勝手に都合よく考えているこんな俺をお許しください。
聞こえる? 水の音?
恐らく手を洗ってるか食器を洗ってるかお風呂に入ってるか。
どれもあり得るがやはりここはお風呂に入っていて欲しい。
そしてバスタオルを限界ギリギリに巻いてゆっくり歩いて来るのだ。
パリコレと言わずとも東京コレクションのようにね。
堂々と歩いて来てターンしてもらって全身を見せてもらう。
ここで大事なのはギリギリで見えないこと。それを守ってくれればいいが。
さすがに心の準備と言うものがある。だらしないのは嫌いだ。
注文をつけるようで悪いがこれは絶対に守ってもらうべきこと。
よく妹もそうやって見せつけていたな。
困ったことに失敗して見えてる場合が多い。
俺に怒られるのだが気にしてない風に見ないでよ変態と罵る。
もちろん俺たちは普段から仲のいい兄弟だ。でもこう言う時は感情的になる。
「もう和葉もダメだよ。お兄ちゃんが困ってるでしょう」
母さんが止めるが反省する気はなさそう。
「はいはい。困ってるようには見えないけどな」
そう言って蔑む。男は誰もが獣だと思ってあえて兄の俺で実験。
ただ和葉は見誤っている。
俺が手を出さないとしても世の男が手を出さないかはその時の状況次第。
運が悪ければ酷い目に遭う。具体的には言い辛いのでそれくらいで止める。
反省してる様子はこれっぽっちもない。
きっと一個上なだけの兄をなめてかかって下に見てるんだろうな。
見下してるとまでは行かないが常に俺をライバル視している。
俺ができることは自分だってできると子供の頃に嫌と言うほど見せつけられた。
実際和葉は要領もよく俺なんかよりも役に立つから。
でもそれでも俺たちは仲のいい兄妹さ。それは疑わない。
ぼーっと過去を振り返ってると有野さんが笑顔を見せる。
まさか気づいたか? いや気づかない方が変だ。俺は一体何をしてるんだろう?
もう変態じゃないか。言い訳など通用するはずがない。
どうしようもないほどの痴漢野郎だ。
俺は自分の良心に賭けてこんな破廉恥な真似はしない。
それにまだ早いと思うしな。
だってまずは運気を取り戻さないとな。
完全に女難の相を取り除かないといけない。
空気の入れ替えは精神にも体にも効果がある。
どうやら有野さんはただメイクを落としていただけだ。
おっと化け物の顔が映るのか? いや違う。有野さんはとてもきれい。
メイクしてない方に慣れていた。
大人っぽい有野さんも悪くないが学校で見る素の顔が一番。
さすがはクラスで三番手に着けるだけのことはある。
ただそれを言うとすぐ機嫌を悪くする。そこがかわいいところでもある。
うん何か発しているな? でもここからではよく聞こえない。
あまりに小さくて聞き取れないのだ。
不気味な笑顔を浮かべる。おいおいそんな顔しないでくれ。
ぞくっとするじゃないか。別に構わないけどね。
本当に心臓によくないよ。でも次の瞬間もっと心臓に悪いことをする。
有野さん…… どうして?
もう自分にはどうすることもできない。
続く




