ブローチ
日曜日の朝から危うく三角関係で修羅場になるところだった。
どうにか誤解は解けたらしい。でも本当に危なかった。修羅場ってあるんだな?
三駅行ったところにお洒落な雑貨屋さんが。そこでプレゼントを選ぶことに。
久しぶりの電車。いつ以来だろうか?
ほとんど電車を使わないのでちょっと恐怖。
うわ…… スイカが上手く入金できないや。情けないが有野さんに全部任せる。
爺さんかと思われただろうな? 本当に久しぶりだから仕方がない。
いつも和葉にやってもらっていたから自分ではどうも苦手。
「大丈夫だからね」
まるで小さな子をあやすように俺を舐めている有野さん。
ああやっぱりこうなると思ったんだよね。
情けない。まったくどうして俺はこうもダメなのだろうか?
そんなことばかり考えてるといつの間にか着いてしまっていた。
だって二人だけで話してるから。俺を相手してくれないんだよね。
まあその様子を近くで見守れるのは俺だけの特権なんだけど。
情けない感じがする。結局俺は二人にとってそこまでの人間だったのさ。
荷物持ちってだけ。期待して損した。
「ほらそこで拗ねてないで急ごう」
そう言うと腕を取って引っ張っていく有野さん。
もう本当に大胆だな。多重人格の彼女につい振り回されてしまう。
へへへ…… いけないよ有野さん。俺が勘違いするだろう?
でも自分で勘違いしてると言う奴は冷静だから問題ない。大丈夫。
しかし一つだけ危惧することが。
ただでさえかわいくてきれいな二人を連れているから特に用心しないといけない。
「ダメですって有野さん。うそ五階さんまで? 」
ついに挟まれた。両手の自由を失う。
クラスでナンバースリーの美貌を持つ有野さんと隣クラス一の五階さん。
そんな二人を抱えては心配の種は増えるばかり。
まずいといくら忠告しても聞きはしない。冷静になってくれよな。
「もう弟の設定は無理ですよ」
弟のように振る舞うことでトラブルを回避しようとしたがこれでは無理。
大体想定外なんだよな。二人から責め立てられるのは辛い。
これではどうにもならない。
さっきから男どもの視線が痛い。なぜか女性まで睨んでくる。それはないよ。
しかしこう言う時のためにマル秘作戦があるのだ。
「ありがとう君たち。今日の昼までの契約だったよね? 急がないとな」
これで納得してくれたかな?
そう彼女たちはお友だちではなくレンタル彼女さ。あー金が掛かる。
どうにか言い訳をしてトラブルを回避。でもなぜか後ろから付いて来る男ども。
話を聞いていたのか? なぜまだ付いて来る?
もしかしてレンタル終了後に借りようとしてないか? 無理だって。
急いで例のお洒落な雑貨屋へ。
一番に時計が目に留まる。大きく光り輝き一気に購買意欲を掻き立てられる。
「これいいんじゃない? 」
有野さんが興味津々。俺としても悪くないと思っている。
ただどこに飾るんだ? こんなでかいのを買っても置いておくスペースがない。
「だから妹のプレゼントだからさかさばるのはちょっと…… 」
店だって販売促進用に展示してるだけで買うことは想定してないだろう。
「でもパピヨンにも買ってあげるんでしょう? あそこなら大丈夫だって」
「実家はそうだよ。でも今は無理。それにお高いんでしょう? 」
五階さんに心配されてしまう。大丈夫さこれくらい。
「いらっしゃい。この時計に興味があるの? でも高いよ。ははは…… 」
店主は三を示す。どうやら三万らしい。滅茶苦茶だな。手など出せるはずがない。
でもそこは見栄を張るところ。格好よく見せないとケチか貧乏人に思われる。
「三万ならどうにか払えますので包んでください」
さすがに二人の前では情けないところは見せられない。
「おいおいお客さん。値段をよく見て」
呆れ顔の店主。どうやら一桁間違いたらしい。恥ずかしいな。ははは……
「何だ三十万か? ひやあ! 無理っす。とてもとても」
こんな値段で売って良いのか? 疑問だ。
「違うと思うよ一ノ瀬君」
冷静な五階さんが指摘する。
「そう。これは三十万ではなくて三百万。絶対買えないから無理しないでね」
店主の説得でどうにか買う羽目にならずに済んだ。
「プレゼント用だね? このブローチ何かどう? ハトは平和を示してるよ」
言われるままなぜか有野さんがつけてみる。妹用なんだけどな。
「それからこっちは蝶のブローチだ。似合うと思うよ」
そう言われては試してみるしかない。五階さんがつける。
「うんいんじゃない。ちょうどいいし」
五階さんにはチョウがお似合いだ。自分の名前が入ったブローチ。
運命の出会いとも言える。
「うん。いいよ。似合ってる」
「そう。だったらこれで…… 」
遠慮がちの五階さんが笑顔で応える。
「お買い上げかい? 各二千円だけど二つ同時なら三千に負けよう。
お買い得だぞ。さあ買った買った」
こうして散財してどうにか誕生日プレゼントと感謝の気持ちを示すことができた。
うん。これで役目は終えた。
後は帰るだけなのだがなぜか有野さんが物欲しそうに視線を送る。
まさか冗談だろ? 俺? 俺なのか?
無理無理。完全に予算をオーバーしてるよ。
それでも目を逸らそうとしない。もう意地なのだろう。
続く




