和葉の誕生日プレゼント
お昼。
屋上の手前で引き留められる。
「どうしたの一ノ瀬君? 元気ないみたいだけど…… 」
まるで探りを入れてるかのような五階さんの態度。
いやそれが気になって。本当に気になって気になってどうしようもないんだ!
それは有野さんだけじゃない。五階さんのだってそうだ。
こんなことが言えたらな。どれだけ楽か。言えるはずがない。
俺はどうしようもない男なのさ。笑ってくれよ。
言ってももちろんダメだけど悟られてもダメだ。
どれだけ凄い想像しようと気取られなければ問題ない。
顔の表情も大事だし興奮してもだめだ。嫌らしい笑みを浮かべたら一発でアウト。
それは有野さんや五階さんにだけではない。緑先生にもクラスの女子にも。
決して口にしてはならない秘めごと。
消しゴムコロコロ事件で追及を受け変態のレッテルまで張られたからな。
一応はまだ疑いに過ぎなかったものが変態が確定してしまう。
それは実に恐ろしいこと。俺の立場が危ういことに。
「実はまたやっちゃって…… 嫌われたかな? 」
無難な方を選ぶがこれはこれで問題だ。
「また? それで口も利いてくれない? 」
心配してるみたいだな。これは普通のこと? 俺はきちんと演じられてるらしい。
「いつものことでさ。クラスでは気軽に話しかけられないんだ」
「そっか慣れたんだ? でも大丈夫だから。
いつかはクラスでも浮かないで受け入れられる時が来るから」
あれ? 何を勘違いしてるんだろう。いつもと変わらないと言ってるだけなのに。
でもどうであれ五階さんは優しいな。
「ほらこれどうぞ」
そう言ってお弁当を手渡してくれる。今日はから揚げが三つも。
俺の為だけに作ったっぽいな。何だか悪い気がする。
絶対にお返ししなければいけないのに本人はちっとも求めてこない。
でもだからって何もしない訳には行かない。
「いつもありがとう」
今日はハンバーグとポテトパスタ。それとから揚げ。
どこにでもある洋食弁当だが愛情が籠ってるから…… なんてね。
浮かれてどうする? 今は問題が山積だぞ?
「気にしないで。一人分作るのも二人分作るのも同じだから」
凄いこと言うな。費用が違うだろう?
いくら政治家の娘で大金持ちでもそれはどうかな?
やっぱり何か違うんじゃないか? 確か節約志向だったはず。
ちょっとずつ変わって行ってる気が。五階さんだって人間だからな。
モグモグ
モグモグ
まさか屋上で二人きりで食べることになるなんて思いもしなかった。
きっと元カレのスーパーサブともこんな風に毎日一緒に食べてたんだろうな。
もったいないことするよな。
要するに俺は奴の代わりと言う訳だ。でも俺には有野さんがいるし。
「お礼がしたいな」
まずい。悟られたか?
お礼のキスで済まそうとケチなことを考えてない。でも嫌がられたらどうしよう?
俺たちって付き合ってる? もちろんそんなことはない。自分を見失うはずない。
俺は一人ぼっちで生きて行くと決めたんだ。耐えに耐えて一人で。
でもその決意も空しく五階さんに癒しを求めようとしている。
「お隣さんだから当然だよ。だから全然気にしないで。逆に気にされると困る」
「はあ…… お隣さんですか。それなら納得」
まあいいか。彼女がそう言うなら俺はこれ以上何も言わない。
だって俺はそう言うタイプじゃないから。
ただ常識がないと思われるのは困るんだけどね。
「そうだ。今度妹の誕生日なんだけど。何を贈ればいいか迷ってるんだ…… 」
普通の奴はこれが誘い文句と言うか口実。でも俺は本気で悩んでいる。
だから五階さんに選んでもらいたいと……
「妹さんがいるんだ? 初耳」
妹の話を話を聞くと嬉しそうに微笑む。
怖いぐらいの興味を示した五階さん。
「ほら私ひとりっ子だから。妹が欲しくて…… 」
どうやら本当らしい。寂しくないようにと犬を三匹飼ってるのだとか。
散歩は大変そうだな。世話係がいるんだろうけど。
「そうですか…… 」
「かわいくないの? 」
「いやその…… かわいい。ただ下手なこと言うとシスコンだと思われるから」
妹の和葉とは一つ違いとあってほぼ妹ではなく同じ扱い。
下手すればこっちが下にさえ思ってるはずだ。
大体俺のことを兄だとは認めずに生意気にも晶と呼び捨てにしている。
ははは…… 和葉はまだ俺には小さな妹だ。
見た目だってかわいいし生意気なところ以外欠点はない。
その和葉は中学三年生。俺が留年すれば一緒になれるねと冗談を言いやがる。
でもそれは絶対に嫌だ!
妹と同じクラスにはならないが嫌でも情報が流れて来る。
絶対に聞きたくな話まで入って来る。逆に俺の失態まで。
その絶対に避けなければならない同学年問題。
今度の転校騒動に消しゴムコロコロ事件で進級できない恐れだってある。
まったく冗談じゃないよな。そうなったらやめるしかない。
でも母さんに悪いから期末テストはきちんと勉強しなければな。
トラブルも起こせない。停学も退学も冗談では済まされないんだ。
どうしようもないがどうにか兄としての面目は保ちたい。
それが俺の今のささやかな夢。
大きな夢はやっぱり有野さんと付き合うことかな。
でもほぼつき合ってる今次は結婚と言う目標になるのかな?
続く




