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裸間ボッチ  作者: スカート保存委員会
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キスの味

たこ焼きを全部平らげると夕食に響くんだよな。

美味いからいいけど。もう少し腹に入れたら夕食はパスしてもいいかな。


「ではそろそろ帰りましょうか有野さん」

充分楽しんだよな。ハプニングでキスできるようなラッキーはないだろうし。

ここは諦めが肝心。どうせ俺たちは付き合ってるのではない。

単なるクラスメイトであり隣人。


どんどん秋が深まって辺りはもう真っ暗。

いくら一緒に帰ると言ってもクラスで三番手につける魅力的な有野さん。

遅くまで振り回してはいけない。

有野さんの方から誘ったとは言え俺がきちんと送って行かなければダメだ。

それが男だろう。まあ隣だからまず問題ないが。


「ふふふ…… 左頬に青のりがついてるよ」

小悪魔みたいに微笑む。ああ何てかわいいんだ。引き込まれそうだ。

「ははは…… 有野さんだって人のこと言えないよ。ソースが唇に」

まずかったかな? つい対抗してどうしても注意したくなる。

注意? チュウ…… したくなる? うわー! 思考回路どうなってるんだ俺? 

まずい。どんどんおかしな方に向かってる。俺は一応まだ硬派なんだが。

そんな真似ができるはずがない。できるはずが……

うおおおお! ダメだ。チュウがどうしても頭から離れない。

どうして? どうして? もうダメなのか俺? 狂っちまったのか?

そうだよな。有野さんと知り合ってからドンドンおかしくなってる気がする。

俺が悪いんじゃない。惑わす彼女たちが悪い。そうだろ? そうに決まってる!


「トイレで洗って来るわ」

とりあえずトイレに。子供のように服でゴシゴシ拭けるはずもないからな。

「大丈夫。私が取ってあげる」

そう言うとハンカチを取り出す。でもこれだと…… 濡れてる方がいい。

濡れてる? いや違う濡れてない。おかしいな。変なことしか考えられない。

ダメだぞ俺! 厚意に甘えてるのに邪な考えに汚染されてどうする?

自分を思い出せ! 取り戻せ! 俺はそう言う奴じゃないだろう?


「ごめん。自分で…… ちょっと…… 」

ただ一歩遅かった。すべて言い切る前に有野さんが迫る。

強引に頬にハンカチを押し付けたかと思ったらお終いに軽くキス。


ええっ? どういうこと? これは何が起きた? 起きてない?

幻覚か? 幻想か? 夢が叶って浮かれてる?

でもこの感触は現実なものでどうしてこうなってるのか自分では分析不明。

誰か教えて欲しい。まさか本人直接聞くのはマナー違反だしな。

嬉しいけど何だか落ち着かない。

そもそも意味ないじゃん。


これってたこ焼きだからあり得たこと? 俺が間抜けだから読めたのか?

それともまったくの偶然? もう訳が分からない。

もはやパニック状態。仕方なく有野さんを見る。

笑っている。満足そうに口を大きく開けて笑っている。

まるで俺がイタズラされて喜んでいるかのよう。

イタズラ? うわまずい。どんどんおかしな方向に進んでいる。

どうしたらいい? どうしたら……


この状況を打開するには俺が主導権を奪い彼女を驚かせばいい。

どうせ彼女から仕掛けたこと。怯まず考え込まず一気に。

ただお返しをしてやればいいんだ。彼女がやって俺がしない理由はない。

「有野さんもまだ唇にソースがついてるよ」

「大丈夫。私は一ノ瀬君みたいに情けなくないから」

うわ…… ふざけやがって。やっぱり俺を舐めていたな。許せない。

「ホラじっとしてて。俺が取るから」

さあでは驚かせて見せようかな。


大丈夫と言って笑って無防備のところに優しく唇を重ねる。

うん。ソースの味だ。何だか油っぽ気もする。

キスには味があるようなことを言ってるがどうやらお食事に関係があるようだ。


「いや! 」

勢いよく突き飛ばされる。

強引に唇を奪ったので拒否反応を示したのだろう。

やっぱり有野さんは俺に好意があったのではない。

ただ小さな動物にするようにいたずらをしていただけ。


「ああごめんね…… 」

我に返った有野さんの一言が胸に突き刺さる。

「俺ではダメでしたか? まさかのファーストキスだったりしませんか? 」

だとしたら俺はとんでもない重罪を犯したことなる。

「ううん。大丈夫。もう帰ろう」


それからは手を繋ぐことも胸を当てることもしなくなった。

鬱陶しくて堪らなかったからいいがそれでも何だかな。

終始無口で。たまにうんとかあーとか言う程度。

お互いに意識し合っておかしくなっている。


「じゃあね。また明日」

別れ際は努めて明るく振る舞おうとする有野さん。これは一体?

俺を気に入ったから嫌われたくなくて臆病になってる?

もしそうなららしくないよ。俺はそんなあなたを見たくはなかった。

贅沢な悩みだがこうなって欲しくなかった。絶対いけない。


「それではまた明日」

気まずい関係のまま別れてしまう。嫌われたかな? 仕方ないさ。

ははは…… これでもうただのクラスメイトでもお隣さんでもなくなった。

少々残念だがこれも運命。俺にはできることとできないことがある。

彼女を引き留めるのは俺にはできないこと。

さあここはすっぱり諦めて家でゴロゴロしてましょう。

もう考えるのも面倒臭い。でも明日からどうすれば?


                 続く

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