女難の相
ショッピングモールで占い中。
さあ帰るか。
「待て! 」
「もう充分ですって。気をつけますから」
「いいか最後によく聞け! 警告はした。後はお前の気持ち次第だが勧めんよ。
とんでもないトラブルに巻き込まれるだろう。それでもいいと言うなら…… 」
そこで止まってしまう。壊れたかお婆さん?
「言うなら何です? 最後までお願いします! 」
まさかここから有料なんて言わないよね?
最近そんな風な売り方が多いから困っている。
「ははは…… 済まん。もしそれでもいいならば最後のアドバイスを聞くがよい」
そう言うと何のためらいもなく水晶玉を叩き割る。
商売道具に何てことを? 狂ったか? 思い通りに行かないからってやり過ぎ。
これだからお年寄りの相手は難しいんだよな。年齢不詳だがお婆さんだろう。
「うわああ! 何が? どうして? 」
「案ずるな。これもパフォーマンス。これくらいしないと差別化ができんからな」
てっきり年季の入った水晶玉だと思っていたがそうではないらしい。
一つの占いに一つの水晶玉だそう。何と贅沢なことだろう。
それだけのこだわりがあるのだとか。一人一人に真剣に向き合うそう。
これなら七割方は信じられる。
「水晶玉がもったいないっすよ」
「なーに。三百円ショップで売っておる。だからお主が気にせんでもいい」
三百円ショップとは言えもちろんすべてが三百円とは限らない。
それは百円ショップも同じだけど。きちんと書いてあるから。
お洒落でかわいらしいのが置いてあることが多い。中学まで妹とよく買っていた。
でも水晶玉が売っているなんて初耳。原価はいくらぐらいだろう?
あまり聞くのも悪いししつこいのもどうかとは思うがとにかく聞いてみるか。
「ちなみにそこに並べている水晶玉はおいくらですか? 三百円? 」
館の奥をよく見れば水晶玉が。占い師の周りにもずらっと水晶玉が。
「ああ。気になるかい。霊験あらたかだからね。消費税込みで三百万だね」
「それを三百円ショップで用意するんですよね? 」
ボッタクリの境地。俺はここまでたどり着けるのか?
「もううるさい! こっちの商売はどうでもいいだろう? どうするんだい? 」
喧嘩腰のお婆さん? 何か隠してないか?
「お願いします! ぜひアドバイスを! 」
このチャンスを逃してはならない。土下座で頼み込んでもいいぐらい。
「よろしい。では一つだけ。運気を上げるために部屋のカーテンを開け放て! 」
シンプルに運気を上げる方法を伝授される。
「カーテンを? 」
「そうじゃ。そうすれば運気もアップしきっとその有野とも仲良くなれるはずだ。
ただし何度も言うように危険が伴う。覚悟だけはしておけよ。勧めてないからな」
「はい! ありがとうございます」
急いで家に。
それにしても女難の相がついてるとはね。思った通りだったな。
一人は有野さんだろうが残り二人は誰なんだ? まさか大家さんじゃないよね?
こうしてウキウキソワソワした気分で歓迎会へ。
「一ノ瀬君買って来てくれた? 」
「言われた通りにしました」
新しい包丁を買ってこいとは本当に何を考えてるんだか。
錆びついて切れ味が悪いので研ごうとするも砥石がない。
用意するのも面倒と言うことで新しい包丁を買うことにした。
ふふふ…… このピカピカの包丁を出す時少しだけ緊張するんだよな。
「動くな! 服を脱げ! 」
つい強盗紛いのことをしてしまう。
まあここは俺の家だから家主の命令が絶対ではあるのだが。
危険な道に進んでいるような気がする。こんな悪ふざけはしてはいけない。
でも有野さんなら笑ってくれるよね?
「ほらふざけてないで持って来て! 」
これがないと料理が進まないそう。確かにそうだけどあまりに落ち着きすぎだ。
まるで気にしてない。俺がやるとは思ってないんだろうな。
要するに俺は舐められてる。
「ねえ今の冗談はどうだった? 」
「あまりふざけないでね! 危ないんだから! 」
叱られてしまう。ここは挽回しないと今日は反省しながら食べることに。
それは嫌だ。
「それからお醤油は? 」
「ああいつものが売り切れてたから高級なのにしてみた」
普段使ってるのよりもちょっと甘い。
そこがいいと言う人もいるが俺はどっちでもいい。醤油は醤油さ。
あの工場から流れて来る大豆の匂いが堪らないんだよね。
でも俺みたいな奴は稀だろうな。小さい頃はあの匂いが好きだったんだけどな。
思い出はあるがこだわりはない。だからついよそのの醤油を買ってしまう。
父さんも気にしないが母さんはすぐに気づく。妹は受け付けないと突っぱねる。
まあ甘い醤油だっていいじゃないか。
「甘いの…… うーん合うかな…… 」
いつものを買う予定がなかったんだから仕方ない。こだわる必要はないさ。
「ついでにポテチとせんべいとポップコーンを買ってみた」
「ええいつ食べるの? 」
二人はダイエット中で俺が食うことになってる。
「余ったら取っておけばいいさ」
「はいはい。買い物はもう充分だから大家さんとパピヨンを呼んで来て」
俺の家で歓迎会をやるとなったのは昨日のこと。
予定変更するとは思いもしなかったなあ。
俺だって料理は作るが大したものじゃない。
ご飯はパックだし味噌汁はあさげだし野菜とサラダはコンビニ。
メインのお肉も近くのお総菜屋さん。魚は焼けないのでコンロはついてない。
ほぼ解凍メインのレンジでチンだ。それをお弁当にもしている。
少しぐらい手伝いたいのだがお楽しみだからと手伝わせてくれない。
場所を提供してるだけで充分らしい。どうも俺を信用してない気がする。
やっぱりあの消しゴムコロコロ事件が尾を引いてるのだろうか?
無茶苦茶すると考えてるのなら心外だ。
続く




