占い
土曜日。
ショッピングモールを歩いてると突然占い師に呼び止められる。
無料だからと占いの館に無理やり。
現在出張占いをしてるそう。気になる人物に声を掛けてるのだとか。
物凄く怪しい。だが格好は至って普通。派手な衣装でもなくおかしな数珠もない。
シンプルなスタイルの占い師。もうちょっと派手でもいいような気もする。
何だか儲かっていないのではと心配になる。
「お主には女難の相が出ておる。気をつけるのだ。分かったな? 」
「はあ…… 」
「おい聞いておるのか? これは由々しき問題じゃ! 分かったら返事せい! 」
こうしてついに占い師からお墨付きをもらう。
ずっとそうなんじゃないかと考えていたんだ。
だから指摘されて驚くことはない。やっぱりねと納得している。
ただ具体的にはどのような感じなのか気にはなる。
「それはもう。それで俺はどうすればいいでしょう? 」
さっそく相談してみる。何と言っても無料だから気軽に相談できる。
「知らん! 」
「そんな無責任な…… 頼みますよ! 」
少々大げさに嘆いてみせる。哀れな客にお恵みを無料で。
「ここからは有料だがそれでもいいか? 」
おっと…… もう金の話か。危ない危ない。これは絶対信用してはいけない。
未だかつて有料で幸せになったことはない。それが人類史。
ちょっと大げさすぎたかな。でもそれくらいの考え方が必要。
もちろん有料でいいはずはないけど女難の相はどうにか取り除きたい。
そんな半端な気持ちが見透かされていそうで怖い。
「構いません。でも俺高校生だから金持ってなくて…… 」
同情を引いてどうにか安くしてもらおうとする。
これだって本物なら見破れるよな。
「ならば親に出させるだけだ! 」
これ以上粘っても無駄だな。切り替えるか。
「ではお願いします」
「うむ。では占って進ぜよう! 」
紫色のテーブルクロスの上に大きめな水晶が一つ。
どうやら水晶占いらしい。本当に信用できるのかな?
「どうです? 何か? 」
「静かにせい! 集中できん。気持ちは分かるが少しは心を落ち着けよ! 」
一応は真面目に占ってるらしい。集中力がないと見えないそう。
「ううん? 一人ではない。二人…… 三人もの人間がお前を阻もうとしている。
いい加減な数ではない。お前は本当に三人の女に人生を狂わされようとしている」
勝手にカードを切ってハートの3を見せつける。
それだとカード占いだよ。いい加減だな。
「分かってます。一人は心当たりが」
「自覚症状ありか? では話が早い。今すぐ逃げるのだ。
もう遅いが逃げてしまえば忘れられる。
そうすれば再びハッピーライフを送れるぞ」
どうも別れろと言うことらしい。冗談じゃない。一人で孤独な戦いは御免だ。
たとえ女難の相が出ていようが相手が人間であるなら問題ない。
これが妖怪や化け物の類なら大問題だが。それでも最後まで隠し通すなら。
とにかく女難の相があることが分かって安心した。
後はその女難の相を乗り越えて有野さんと一緒になればいい。
「うむ。お主の言う通り確かにその者たちは人間だ。だがなぜかおかしい…… 」
それ以上は分からないが逃げるべきだと何度も指摘する。
ふふふ…… 今更逃げれるはずがない。彼女たちが人間なら大した問題ではない。
「それで有野さんとはどこまで行けるのですか? 」
これだけ詳しいならこの辺のこともすべて把握しているだろう。
「お主。命知らずの馬鹿者だな」
「まさか命まで? 」
「いやそこまでは。一度精神科に見てもらうといいぞ」
気にしてることをはっきりと。困った婆さんだな。
まさか女難の相の相手はこの占い師?
その可能性がゼロじゃない限り警戒すべきだろう。
「それよりも有野さんとどこまで…… 」
しつこく迫る。だってこれが知りたかったから。
男と言うのは単純なものだ。危険が迫っていようと逃げないで追いかける。
「ではもう少し詳しく水晶を見てみるとしよう」
本来これは有料で高いそうだが俺を心配してくれて協力してくれると。
意外にもお客思いの占い師。でもまだ半分しか信用してない。
それが本来の占い師とお客の距離感。
俺が男だと言うのもある。先生が気をつけろと口を酸っぱく言ってるのもある。
母さんも騙されるなと一人暮らしを始める前にリストの一つに入っていた。
そう言えばそろそろハロウィンの時期だっけ? いやもう終わった?
その辺が関係ないか? 神無月でもあった訳で。十月は何かと危険な気がする。
「何が見えますか? 」
「裸…… 」
そう言って水晶を仕舞ってしまう客思いの占い師。
「裸? あの裸ですか? 女神が降臨したようなビーナスが誕生したような? 」
混乱して自分でも何を言っているのか分からない。興奮が止まらない。
まさか有野さんとそこまで行けるなんて…… 凄い。凄過ぎる!
興奮が最高潮になる前に占い師に止められる。
まずいな。俺はもういいように操られてしまっている。もう止まらないぞ。
「今どれだけ危険か認識できたか? お前には危険が迫っているぞ。
早く精神科に行け! 」
どこまでも俺を馬鹿にする。一人ぼっちだからってそんな言い方はない。
「ふざけないで! 俺たちは結婚できるんですか? できないんですか? 」
つい大声を出し通行人から驚かれる。
「落ち着くがいい。もちろん結婚は当人の気持ち次第」
どうやらそこまでは分からないらしい。
だったらこれ以上はもういい。俺は急いでるんだから。
有野さんか……
結婚が仮に無理でもつき合うぐらいは問題ないはず。
そうなったら学校では気まずいことになるよな。
へへへ…… どうしよう?
続く




