有野さん
つい消しゴムに夢中になって取りに行ってしまった。
それが運命の分かれ道。
目立った行動をすれば皆から反感を買うのは目に見えてるのに。
すべて分かっていながら手を出してしまう。
まずい。これはまた転校するのか? 母さんに何て言おう。
二度目の転校など冗談じゃない。入学金いくらになると思ってるんだ。
退学はやめてくれ。せめて停学にしてくれ。それがせめてもの情け。
二学期で三校目って記録でも作る気か? それって凄いことなの?
それに俺は無実だ。よく勘違いされやすいがたぶん俺のせいじゃない。
ただそこに消しゴムがあったから取りに行っただけ。
それ以上でもそれ以下でもない。でもきっと信じてもらえないんだろうな。
分かるんだぜ。その目を見ればさ。
男だろうと女だろうと生徒だろうと先生だろうと知らないおじさんだろうと。
もちろん俺のせいなのは否定しない。
机の整理整頓ができずに危機管理能力が足りない俺が悪いんだ。同情はいい。
そんな風に落ち込んでいた時だった。
「ごめんなさい。私驚いて。一ノ瀬君はただ消しゴムを取りたくてだよね? 」
なぜか理解された。嬉しい。素直に嬉しい。
まさか自分を理解してくれる者が現れるなんて。
まるで天使か女神様かのように思える。ははは…… 単純だな俺。
「ああ…… そうだけど…… 」
はっきりしない返しで不安にさせる。
「私のこと知ってる? 」
またか…… 彼女もクラスでは目立つ子で明るくて人気がある。
俺とは真逆だな。ははは…… どうせまた酷い目に遭うんだろうな。
「確か…… 有野さん」
まずい。また変態だと思われたか? 恥ずかしくて視線を落とすと立派なお胸が。
見ないようにすればするほど釘付けになってしまう。もはや抵抗できない。
「そう有野。一ノ瀬君も気にしないでね」
そう言って形だけの仲直り。ほぼ俺のせいだけど。
どうせ後で悪口を言うんだろう。でも大丈夫。俺はどうせ一人さ。
気にしない。気にしない。
でもストレスは溜まる。これは急いで発散しないとな。
ポジティブに考えれば憧れの有野さんとお話ができた。うん悪くない。
ストレスだってどこかに吹き飛ぶ勢い。
さあ誤解も解けたことだし改めて授業に。
体育。ペアでトレーニング。
当然誰も俺と組んでくれない。そしてあぶれたのがいつものいじめられっ子。
「先生! ボク違う人がいい」
いじめられっ子が生意気にも自分の意見を通す。
するとこいつをいじめてる奴から拍手喝采。
気をよくしたのか彼は笑う。
これはいじめの対象が移る予感。とは言え無視されるよりはいいか。
まったく何で俺だけ除け者にするんだよ?
ちょっとぐらいトラブル起こして目立ったからって変わらない。
俺の評価が急激に変わることはない。
どうして俺ばっり酷い目に?
「あの…… 」
有野さんに思い切って話しかけてみるが反応がない。
たぶんこの前のことは本当に悪いことをしたと思っての純粋な謝罪の言葉。
俺と仲良くするつもりはないんだろうな。
都合のいい展開が待ってるはずがない。
分かり切ってることじゃないか。期待する方がどうかしてる。
俺は前も今もずっと一人ぼっちさ。
寂しく大人しくしてるしかない。そのうち風が吹く。
俺の時代が来る。それまで辛抱するしかない。
どんなに辛くても我慢。きっと大丈夫。
神様は見てくれるさ。女神様もきっと……
「どうしの有野さん? 」
周りにはうっとうしいのが。二人の関係を邪魔する。
「ううん…… 」
「ほら行こうよありちゃん」
基本的に有野さんのガードは堅い。
俺がこじ開けられるほどやわではない。
せっかく仲良くなれるチャンスだと思ったのに。行ってしまった。
彼女を使ってもっと皆と親しくなれたらな。特に女子と。
だって男はムカつく奴ばかりだから。俺を一番下に見ている気がする。
今回彼女は相手にしない。前回は気まぐれだったらしい。
これはどう言うことだろう? 嫌われた? ただ聞こえなかった?
モヤモヤするな。
有野さんを考えてるうちに中間テストが始まってしまう。
やはりあの件以来男子も女子も俺に対する警戒が強い。
男子は俺をいじめの対象に相応しいか見ているよう。
たまに単独でちょっかいを掛けるバカな奴がいてうまくかわしいている。
力はあっても頭は悪いからな。どうにでもなる。
今屈すれば俺はクラス中から石を投げられることに。
弱くはいられない。だからって強くはいられない。
有野さんと仲良くなりたくて積極的に声を掛けるのだが反応がない。
やっぱり一人の時を狙うべきだろうな。でもガードが堅いから。
ずっと集団行動だからな。うっとうしくて堪らない。
絶対俺と有野さんは相性が良いはずだ。
話しかけても反応しないのは聞こえないか皆の手前か。
聞こえないなら耳がよくないのだろう。俺も最近何だか目の調子が悪い。
また近視が進んだのかな?
おっと集中集中。今は試験の真っ最中。
まずい! またやってしまった。
コロコロとまたしても絶妙なところに消しゴムを転がしてしまう。
だがテスト中だ。いくら何でも監視されてる中勝手に取りに行ってはまずい。
まずいけど先生の手を煩わすのも悪いかなと思う。
安全策ならそのまま放置して後で取りに行く。
よしここは感情的にならずに後を選択しよう。
休み時間に入って消しゴム救出に向かうも女子の目が光って動けない。
何ですか? ならまだいい方。
何だよお前? 邪魔なんだよとまるでそう聞こえるから厄介。
実際に思ってるんだろうな。さあ圧力に負けずに消しゴム探しへ。
続く




