歓迎会
手を繋いでショッピングモールを歩く。
俺ってモテてるのかな? そんな風に馬鹿なことを考えていると痛い目を見るぞ。
これは夢なんだ。有野さんは放課後になるとうっとしいくらい絡んでくる。
それに五階さんがノリでつき合ってるだけ。まともに取ってはいけない。
自覚するんだ。俺は一人ぼっちの嫌われ者だと言うことを忘れてはいけない。
そうすれば一歩引いたところから見えるようになるさ。
女子を信用してはいけない。きっと今だけ。
思い通りにコントロールしようと好きなだけ感情を偽れる。
「そうだ。今週末に歓迎会をやろうよ」
想いがけない提案をする五階さん。
「うん。それいい。どこでやる? 」
「だったらマナのところで」
「でもまずいくない…… 」
「大丈夫。封印すればいい。他の人も連れて来ればマナだって」
「分かった。だったら無難に大家さんを呼ぼう」
「うんそれいい」
勝手に話を進める。封印って何だ? 俺はいいとも悪いとも言ってない。
別にどっちでもいいけど。もう十一月だぜ。歓迎もなにもないだろう?
どちらかと言うと時期的には送迎の方なんじゃないの?
しかしなぜ五階さんが大家さん知ってる? まあ当然か。遊びに行く仲だしな。
何の不思議もないか。
まあ好きにすればいい。実際どうだっていい。
「じゃあ決まり! 一ノ瀬君もそれでいいね? 」
「ありがとう。俺のために開いてくれるなんて感謝しかないよ」
「大げさだな。大家さんはマナが責任持ってお願い」
「了解! 」
おお…… 楽しくなるぞ。でも俺って一人ぼっちを気取っていた訳で。
いいのかなあ? 罪悪感がある。これではまるで陽キャじゃないか。
何だかとんでもない落とし穴がありそう。
「ちなみにもう一度聞くけど二人はつき合ってるの? 」
全力で首を振る。
「ごめんなさい。一ノ瀬君の気持ちに応えてあげられない」
まるで俺が告白したみたいじゃないか? そんなはずあるか!
「ふーん。ならいい。じゃあ一緒に見て回りましょうね」
五階さんが思いっきり引っ張って危うくバランスを崩しコケるところだった。
「大丈夫有野さん? 」
そう言って抱きしめてしまう。つい妹といる時の癖が出る。とっさの行動だ。
「ありがとう。さあ楽しみましょう」
有野さんも恥ずかしそう。
まずは今を楽しもうとフードコートへ。
軽食か? 何を食おうかな?
学校帰りの他校の生徒たちが集まる中ファストフードに並ぶ。
お腹空いたからなあ。ハンバーガーでも。
よし今日はここで夜を済ますとしよう。頂きます!
「そう言えば一ノ瀬君って料理できるんでしょう? お弁当を持ってきてるって」
「いや全然だよ。レンジでチンさ。あるいは総菜を適当にぶっこむ」
「だったら私が作ってあげようか? 」
おかしな提案する。
どうやら五階さんは料理が得意らしい。有り難いけど有野さんが何て言うか。
あれ笑ってる。だったらいいのか。
「そうだ。一ノ瀬君は何が好き? 」
「好きって…… 牛丼かな? 庶民の味方で凄く濃くて。
それからかつ丼。普通のもいいけどキャベツ乗ったソースかつ丼がいいんだよね」
「もう違う! 違う! 歓迎会で出すやつ」
笑われてしまった。これ以上笑わせると吹きそうで。
まさか俺に吹きかけないよな? こっちに向いてるし。
それはそれで悪くないかもと思う自分がいる。おかしいよな? きっと俺は変だ。
「かつ丼が無理ならとんかつでも」
歓迎会の中身はよく分からないけれど料理ぐらいは俺の好きなのに。
問題は作ってくれるか。それが重要。
「もう一ノ瀬君! 」
「そうだ。俺牛乳も好きなんだ」
まずい。ガキみたいに我がままばかり言って呆れさせている。
「お姉さんのでいい? 」
まさかの悪ふざけ。下ネタをぶっこむおかしな五階さん。
「ちょっとふざけ過ぎ! 今はまだ昼間でしょう? 」
それは違うよ有野さん。もう夕方だ。だからこれくらいで不快にはなりませんよ。
えへへ…… 少しだけ期待しちゃうな。でもそれは口だけなんだろうな。
実際はそんな度胸ない。それは俺もだけどね。第一俺たちまだ高校生。
出会ってそんなに経ってないし。
でも五階さんは強いなあ。あんな風に振られてショックは大きそうだが。
立ち直ったらしい。あのスーパーサブも罪な奴だ。
こんな上品でいて育ちもいいお嬢様の何が気に入らないんだろう?
俺なら我慢するんだけどな。まあ人それぞれか。
「でも一ノ瀬君はマナの足が好き過ぎて消しゴムころりしてて捕まったとか」
「ウソ! 有野さんそんな話まで…… 」
「私じゃない。噂でしょう? 何で被害者の私が広めないといけないの? 」
あれ? ちょっと怒ってる? 恥ずかしくて辛い思いさせたからな。
不可抗力だけど悪いのは俺の方だからな。
「そうそう。一ノ瀬君はもう変態扱いで仲間入り」
おかしなことを言う。まあ言い訳も反論もないがどう言うことだろう?
「だからそれ以上彼を責めないで上げて! 」
有野さんは怒ってるのではなく認めて寄り添ってくれるらしい。有り難いな。
「ねえそれよりさ先輩がね…… 」
大人しく違う話をしてくれたのでどうにかなった。
こうして歓迎会の約束をして五階さんとは別れた。
うーん。何となくだけど何か起こりそうな予感。
いいことなら歓迎だがたぶん悪いことだろうな。
続く




