手を繋ぎましょう
放課後逃げるように学校を後にする。
そうこれは危険回避術だ。どうしてこう俺に絡もうとするんだ?
嫉妬しやがってうっとうしい奴らだな。
「一ノ瀬君見っけ! 」
「あれ…… 有野さんは今日は部活じゃないの? 」
「うん。冬に近づくと活動が緩くなるんだよね。
だから今月から三日に一度になったんだ。しかも朝だけだから」
どうやら俺たちのサークルと同じような状況になったんだろうな。
まあ細かいことはどうでもいいか。
「一ノ瀬君。クラスでの評判最悪だよ」
「それを伝えに来たの? それくらい知ってる。でも何で? 」
「高木さんはクラス全員に慕われてる。だから彼女がどうしようと勝手。
でもそれに甘えてお近づきになろうとしたら袋叩きに遭う。
それがこのクラスの掟でありルール。守らないともっとひどい目に遭うよ」
有野さんは本当か嘘かも分からないおかしな忠告をする。
クラスの掟もルールもイマイチぴんと来ないが従えと言うなら従いましょう。
「凄いね。やっぱり一番人気は違うね」
他意はなくただ感想を述べる。でも有野さんは黙っていない。
「何か言った? 誰が三番手だっての? 」
酔ってもいないのに管を巻く。まさか正気なのか?
一番人気は俺の願望ではなくクラスでのこと。どうすることもできない。
決して有野さんが悪いのではない。どうしようもないこともある。
「一ノ瀬君が悪いんだからね。もう知らない! 」
どうやら本気で怒ったようだ。
機嫌が悪くなったら俺の立場も危うい。ここは宥めるも聞きやしない。
せっかの厚意だし絶対に有野さんを敵には回せない。
ここは落ち着かせよう。彼女を褒めて持ち上げよう。
「本当は有野さんのところに行きたかった。でも前の件があるからつい…… 」
本心。ただ教室での有野さんは怖いしいつも睨んでるから近づきにくい。
こっちのことも少しは考えて欲しい。なぜ不機嫌に睨みつける?
「気にしないで。ただ注意しただけだから。ふふふ…… 」
ご機嫌を取り戻して嬉しいよ。でもこれって注意と言うよりも警告だよな。
そんなに高木さんて尊い存在なんだなあ。
感心するし呆れもする。これって要するに嫉妬だよね。本当に情けない奴らだ。
「でも何で高木さんで嫉妬するの? 」
「だから…… 」
「そうじゃなくて有野さんが。俺たち付き合ってないだろう? 」
「またそれ? つき合ってるって言ってもらいたいのかなボク? 」
とんでもなくウザいことを言いだす有野さん。これはごまかすつもりだな。
「でもさ…… はっきりしないとやっぱりやり辛いよ」
「いいじゃない。仲のいいお友だち。お隣さんでも」
そう言って手を無理やり繋ぎだした。あまりにも強引で欲望に忠実だ。
拒否などできはしないしするつもりもない。
俺もこれくらい大胆に女子に迫れたら今頃ハーレムを形成してただろうな。
ついお友だちの言葉に惹かれてしまう。本当に俺って情けない。
やっぱり女難の相があるよ。これはどこかでお祓いでもしないと。
「そうだ。食べていこうか」
俺のことはお構いなしに勝手に話を進める。
少しは俺のことも考えて欲しいな。振り回してばかり。
それだって悪い訳じゃないけどこっちにも予定や都合と言うものがある。
ヘラヘラノコノコ付いて行く軽い男だと思われたくない。
その時声が響いた。
「おーいマナ! 」
振り返ると隣のクラスの五階さんだった。
この子もこの辺りに住んでるのかな?
寮生活でもなさそうだし。しかし仲いいならお邪魔しちゃ悪いよな。
「じゃあ俺はこれで…… 」
「遠慮しなくていいよ。マナもこの関係を受け入れてるから」
どう言うことだ? 前回会ったのは覚えてるがそれ以上は接点がない。
「ああお隣さん。どうもこんにちは」
有野さんはただの友だちだけでなく家が隣だということまで伝えたらしい。
余計なことを。面倒な事態を引き起こさなければいいが。
「じゃあ行こうか」
そう言って両手が塞がってしまう。
おいおい。どう言うことだ? 俺と手を繋ぐ? あり得ないだろう?
会って間もない上に俺は一応男だぞ。
確か五階さんは政治家一族の箱入り娘。
何をとち狂ったのかこの学校で庶民生活を送っておられる。
それは有野さんから聞いた話だから本当かは分からないが。
最近サッカー部のスーパーサブと別れたばかり。
この情報を知ってるのはあの時屋上で一部始終を見ていた俺だけ。
だから学校ではまだ二人はつき合ってると思われてるんだろうな。
校内で堂々とつき合ってればそれはそれで目立つ。
その時たまたまその修羅場にいてティッシュを渡した仲。
あれから立ち直ったのかな? それならいいんだけど。
振られ方が振られ方だからな。男の身勝手。
「ちょっと一ノ瀬君に近づき過ぎ! 」
「そっちこそ離れなさいよマナ! 」
嬉しいような嬉しくないような。きっとこう言うのを幸せって言うんだろうな。
おっと…… 調子に乗るとロクのことにならない。冷静に冷静に。
手を繋いでショッピングモールを歩く。
両手を塞がれてもう動きが取れない。
このまま怪しげなところに連れ込まれたら俺はもう元に戻れないだろう。
まあそれも悪くないか。
続く




