朝の有野さん
夜。
母さんがきれいにした部屋をぐちゃぐちゃにして寝っ転がる。
今日は本当に疲れたな。まあ昨日ほどではないが。
有野さんは今頃寝てるんだろうか?
いやこの騒音は起きてるか。そう言えばお友だちとパーティーって言ってたっけ。
どんな感じだろう? 変な映像だけは流さないで欲しい。
うるさいくて寝れなくなるから。
それにしてもクラスで三番手の上にスタイル抜群のあの有野さんが隣の部屋に。
今羽目を外して騒いでいる。そう考えるだけで何となく背徳的になるのはなぜ?
寝れないよ。全然寝れない。
もしこのカーテンを開けばその様子が見れるかもしれない。
見たくないはずがない。でも勝手に見たら大問題。最悪捕まっちまう。
でも有野さんはあまり気にしてない様子ではあったが。
うーん。漏れる音楽が俺の心を惑わせる。
しかし元気だよな。もう十時だぜ。いい子は寝る時間だ。
気を紛らわす為にも明日の予習をちょっとだけ。
マニアックだがこれが効果てきめん。
ただこれではいつまで経っても寝れないが。
結局パーティーがお開きになったのは十一時過ぎ。
お隣の俺に断ってるからな。何の問題もない。
興奮したせいかそれから一時間以上寝れず苦労することに。
翌朝。
昨日のパーティーのせいで寝不足気味。それは有野さんもそうらしい。
ふあああ! ジャンプ!
「一ノ瀬君! まだ走り幅跳びやってるんだ。偉いね」
朝の有野さんは優しいお姉さん。帰りのしつこさがうって変わって。楽になる。
「いや違いますよ。謎の競技をやらされてるだけ」
「ほら二人とも急ぎな! 」
大家さんが遅刻しないように発破を掛ける。
でも酷いよな。走り幅跳びは俺だけでいいって。それはないよ。
皆平等じゃないと。俺ばっかりが辛い思いするのはなしにして欲しいもの。
俺の家の前だけがいわゆる私道。自由に通るには使用料がかかる。
もちろん毎日でなく一回きりなら請求されない。
しかし俺はここを少なくても行き帰りの二回通るので許されない。
もしもの時には支払う必要がある。
こう言う面倒な立地だから安く借りられる面がある。
どちらを取るかだが今のとこ請求の動きはない。
対して両隣は私道には面してないので自由。
真ん中の俺のところだけが不便を強いられる。そんなのありかよ?
飛び越えればいいのだがそううまくは飛べずファールを繰り返す。
「昨夜は楽しかったみたいだね? 」
優しそうな有野さんはからかいやすい。
「見たの一ノ瀬君? 」
顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向き走り出す。
うわ…… かわい過ぎる。堪らない。これが本来の有野さんだ。
「いや音だけ。今度お邪魔しようかな」
「もう一ノ瀬君! 急ごう! 」
その話は止めるように怒るが昨日のようなしつこさも迫力もない。
「何で有野さんはこの時間なの? 」
「それは…… 」
いつも一時間は早く行ってるのか姿を見た試しがない。
有野さんと急ぎ足で学校に向かう。
気づかずに同時に教室へ。
まるで一緒に登校したような錯覚を覚えさせる。もちろん錯覚ではないが。
些細な気の緩みでおかしな疑いが掛かる。
まさか二人はつき合ってるのか? そんな話が出てもおかしくない。
「おい一ノ瀬! また襲おうとしたろ? このストーカー野郎! 」
頭の悪い集団が嫉妬して絡んでくる。しかしどう考えても誤解の上無理がある?
ただ同時に教室に入って来ただけ。
まさか俺たちの仲が急速に深まるとは普通思わないよな。
でも不思議。急接近しちまったのさ。
言い訳をせずに外野のヤジを無視して着席。
そうすると自然と収まる。まあ誰も本気にはしてないさ。
今のところ積極的な有野さんに振り回されている感じ。
その上朝昼晩でコロコロ性格が変わるからやり辛い。
「よしホームルームを始めるぞ」
中間テストが終わり文化祭も過ぎ残るイベントは特にない。
ただのほほんとしてればいい。
その時だった。消しゴムを握り損ねコロコロと再び有野さんの前に。
どうする? そう同じ失敗を繰り返して堪るか。ここは我慢我慢。
そうすると前の席の髪の長い少女が気づいたのか拾ってくれた。
ふう…… これで一安心。ではここはゆっくりと。
彼女はクラス一を争う美少女。高木さんだったかな。
現在足を捻挫してるテニス部のボーイッシュと仁義なき戦いを繰り広げている。
ひいき目かもしれないが我がクラスの女子のレベルは高く学年上位を狙える。
だからクラスで三番手につける有野さんも実はすごいのだ。
でもちょっとだけ性格が残念…… そこが惜しいところでもある。
クラスでは猫を被ってるから分かり辛い部分も。変な噂もあるしな。
それとなぜか俺には厳しい。いつも睨みつけている。
多重人格は本当だったようでこのままだと他の噂の真偽も怪しい。
ただの願望だとは思うが気にする必要はあるのかな。
授業を終え急いで高木さんのところへ。
「ありがとう。癖で転がすんだよね。ははは…… 」
「机の上を片付けた方がいいよ。物で溢れてるから」
的確なアドバイス。俺の不注意だとようやく理解してくれる人が現れた。
きれいな上に世話好きらしくつい甘えてしまいたくなる。
「どうしたらきれいに…… 」
「そんなの簡単。物の上の奴をすべて捨てればいいんだよ」
どうやら机の上にある余計なものを一旦捨てろとそうおっしゃる。
でもさすがに教科書もノートもだからな。
「冗談。冗談。とにかく二度と落とさないこと」
世話焼きなので余念がない。
「はーい」
うん。良い人もいるもんだ。このクラスも満更捨てたものじゃないな。
あれ…… 視線が突き刺さる。まさか目立ち過ぎたか?
クラスでほぼナンバーワンの彼女と話してると嫉妬の嵐に。
女子もそうだがモテない男子が腹いせに。
でもお礼とアドバイスだからな。これくらい普通のこと。
授業中も休み時間も睨まれてじっと監視されている。いい気分はしない。
俺は別に何もしてないのに。本当に何を考えてるんだ?
異常だよ。異常。
放課後逃げるように教室を去り学校を後にする。
続く




