愛の告白
帰宅。
俺は現在恐らく帰宅部である。それはあまり人と関わりたくないから。
変なトラブルを起こし信頼されてた仲間やクラスメイトから失望されたくない。
だけどそんな俺も完全な帰宅部じゃない。
今入院してる友だちともう一人先輩で眼鏡を掛けた小太りの汗っかき。
彼らと三人で少々おかしなサークル活動をしている。
さすがに一人暮らしで部活にも入ってないと印象が悪い。
悪い方向に進むからと説得してくれた友の勧めで入部。
でも本気かこのサークル? どう考えても悪ふざけが過ぎる。
その名もスカート保存委員会。
もちろん冗談などではなくれっきとした非公認ながらのサークル。
一か月に一回か二回程度で調査を行いそれをまとめ上げる。
報告書も提出する。意外にもお堅い。
ただ今は誘った奴が入院して汗っかきの二人となり奴の復活まで活動休止中。
一週間に一回は集まることになっているがそれも守られていない。いい加減だ。
顧問もいて部屋だってきちんとあるから不思議だぜ。
どうも元々はジーパン保存委員会だったらしい。
しかしジーパンからパンツに名称を変更した時に待ったがかかった。
それで奴が提案したスカート保存委員会へと。そうして今に至る。
おかしなサークルにも苦難の歴史があったのだ。
なぜ委員会なのかははっきりしないが。
スカート保存委員会を全面的に出そうといろいろ仕掛けるがうまく行かない。
そうそう俺が誘われたのは単純に人手が欲しかったのと奴の友だちだから。
さすがに頼みは断れない。俺としても人間観察が趣味だからちょうどよかった。
「待ちなさいよ! 」
有野さんが追いかけて来た。
あれだけクラスでは嫌がってるのに外では積極的なんだよね。
「何ですか有野さん? 」
突き放す。大体俺なんかと歩いていたら誤解されるだろう?
おかしな噂が立つ前に離れた方がいい。俺に触れると火傷するぜ。
まずい。自分で言っていて恥ずかしくなってくる。ダメだ。顔が熱い。
これが共感性羞恥と言う奴か? 迫力あるな。
「一緒に帰ろう! 」
まだ戯言を抜かす有野さん。ふざけるのもいい加減にして欲しい。
からかわれてはいい気分はしない。ここは勇気を持って断る。
「ねえってば? 」
「嫌です! 」
「嘘…… こんなに誘ってるのに…… 酷い」
涙が流れないから下を向く。まったくどこまで本気なんだか。
「一緒にいると有野さんの価値が下がりますよ。奴隷ならクラスにいくらでも」
「もうひねくれなくてもいいでしょう? あのことは謝るから」
今度は態度を翻す。まったく訳が分からない有野さん。
ただきれいなのは見てよく分かる。うんこんなのが夢だった気もする。
でも有野さんはダメだ。秘密がありそうだし多重人格の気もあるし。
トラブル臭がする。危険だと俺の中の何かが警告を発している。
あのことって何だろう? まさか俺の知らないところで何かしてないか?
「大体有野さんってば教室とそれ以外ではあまりに違い過ぎます」
「だって…… 自分を出すと嫌われるから。その点一ノ瀬君は問題ないかなと。
そうだ。家でお友だちとパーティーやるんだけど来ない? 」
げげ…… 男の不良を連れてオーバードーズでもする気か?
絶対に関わってはいけない。殺される。少なくても危険な目に遭わされる。
「お断りします! 今日は忙しいので! 」
「そう。残念だな。せっかく招待しようと思ったのに」
「ちなみに男の方? 」
「ううん。女の子に決まってるでしょう! 」
決まってないが安全面はどうにかなりそうだ。
「残念だな。その子一ノ瀬君に会いたがってるんだけどな…… 」
へへへ…… その手には乗るものか。俺を奴隷のように扱ってこき使うんだろう?
まさかムチで打たれるのか? それはそれでいい。
気持ち良くしてね。優しく優しく。おっとまずいまずい。おかしな妄想。
これは悟られたか?
「ねえそれで一ノ瀬君は私のことが好きなんでしょう? 」
何て軽いんだ。好きな食い物でもあるまいし。もう少し言い方を考えたら?
そう言えば有野さんっていい体してるんだよね。
クラスでは三番手だけどスタイルは一番を争っている。
「そんなに体ばかり見ないで! 」
「すみません。教室の有野さんは好きです。でも今の有野さんは怖いです」
あれ? 俺は何を言ってるんだ? これって愛の告白?
あれだけ軽いとつい…… 真面目に答えたくもなる。
「うん私もだよ」
これはまさかの両想い? お付き合い確定?
まあそんな甘くないのが現実だぜ。
悟ってるのさ。でもちょっとだけ期待値が上がる。
「私は教室での一ノ瀬君は怖くて受けつけない。でもそれ以外は別に。
逃げるから追いかけたくなるの。嫌がるからしつこくしたくなるの」
要するに何とも思ってないと。とんでもない性格だと。
でも彼氏がいないならこれはチャンスありってことになる。
「あの…… つかぬことを伺いますがお付き合いしてる方は? 」
ダメだ。もう先に進もうとしている。危険だと分かってるのに止まらない。
「どうしたの? やっぱり気になる? でも今は誰とも」
ラッキー! ううん? 本当にラッキーなのか?
「そうだ。本屋さんに寄って行こうよ」
「ですが…… 一緒のところを見られでもしたら」
「お隣さんだから問題ない。それに学校の子はほとんどバスで電車に。
寮生活の子だってここまでは足を運ばないよ。私を信じて! 」
そう言って強引に手を引っ張っていく。
果たして有野さんの本当の狙いは何なのか?
恐ろしい陰謀が隠されているとはこの頃は思いもしなかった。
続く




