好きか?
バスケットボールはミスもなく目立つこともなくうまく行った。
でもなぜか後片付けに手間取って酷い目に。余計な者まで引き寄せる。
俺の周りに集まるのは頭は悪いが悪知恵の働く者ばかり。
それでも貴重なクラスメイトで仲間でもある。
「なあお前。有野が好きなんだろう? 」
「嘘? ただの変態じゃないの? 」
「いつもだからな。あれは相当だ。俺もその手は何度か使ったが嫌われたな」
「それはお前が不細工だからだろ? 」
「違うって! 顔が怖いって言われたんだ! 」
ボール拾いを手伝うこともなくただ面白おかしく笑っている。
悪い奴らじゃないが対応を誤ると痛い目を見る。
「おいどうなんだよ一ノ瀬? 」
もうボールはすべて拾い終わったのにまだ話してるよ。ホームルーム始まるぞ。
それは俺も同じだがな。暇なら手伝えばいいのに。
言っても聞きやしないのが奴らではあるが。
「その…… きれいでかわいいと思うよ。でも三番手だけどね」
思った通りに言ってみる。これは馬鹿正直過ぎたかな。
警戒すべきか? いくら馬鹿とは言え悪知恵は働くのだから。
「ひゃははは! そうだろそうだろ。俺は彼女のとっておきの秘密を知ってるぜ」
どう考えても胡散臭いが話だけでも。これで仲良くなれるなら悪くない。
つまらない情報は切ればいい。
「有野はビッチだ。だからどんな男とでも寝る。お前もチャンスあるかもな」
うわ…… 酷いな。そんな根も葉も無い噂が流れてるのか。
俺は一体どんな噂が? 聞くのも躊躇われる。
まあ噂ってのは大概大げさで嘘が入ってるだろうし聞き流すのがいい。
でもやっぱり自分の噂は気になる。
まさか消しゴムコロコロ野郎とか? 事実だからまあいいか。
それにしても有野さんについてあまりいい噂が流れてないな。
やっぱりそれなりに美人で頭もいいから? 嫉妬と憧れもあるんだろうな。
まあどうせこいつらじゃ相手にされないさ。
顔が不細工とか怖いは関係ない。頭が悪すぎるんだ。
俺は嫌いじゃないけど女子はそう言うの見てるからな。
ただ馬鹿でもルックスがよければ別だがそんな奴はお金持ちだろうし。
どのみちこの学校には存在しない稀な存在。
「待て待て! 嘘を教えるなよ。俺が聞いた話では多重人格だとか。
教室とそれ以外だとまったく性格が違うってよ。恐ろしいだろう? 」
確かめようがないこともないがそれでも…… そう言えば心当たりあるぞ。
納得する部分がある。まさか本当なのか?
「そうかな。俺はよいつも裸で歩いてるって聞いたぞ」
「馬鹿野郎! それはイカレタ奴の願望だろうが!
俺だって女子が集団でって想像しない日はないぜ」
うわ…… どんどんおかしな方向に。
聞いてる分には面白いが有野さんが馬鹿にされて不愉快。
どうしようもないなこいつら。
「そろそろ時間だ! 行こうぜお前ら! 」
勝手に絡んで勝手に行ってしまった頭の悪い連中。クラスの底辺。
俺もこいつらと仲良くするのがベストなのか? おっと俺も急がなければ。
体育館を出て教室に向かおうとしたところで呼び止められる。
「ちょっと! 」
何と噂の有野さんだ。俺に用があるのかな?
「急がなくちゃ。有野さんも遅れちゃうよ」
「いいから! 」
体育館に押し戻される。強引過ぎる有野さん。
まさか噂通り…… でも俺たちまだ高校生だから。
「信じた? 」
教室では決して見せない積極性。二面性を持つ有野さん。
これは噂通り多重人格なのか?
「何が? 」
「つまらない噂」
「ははは! 信じる訳ないだろう。男の噂だぜ。あれはただの妄想だよ。
ビッチだとかすぐやらせるとか性格が変わるだとかいつも裸だとか」
どうやら俺たちの会話を盗み聞きしていたらしい。
「それは…… 」
なぜか怒らず否定もせずに恥ずかしがる。
はあ? つまらない噂をなぜ完全否定しない?
まさか噂は本当なのか? そうすると今から実行する気か?
だったらここでは目立つから体育用具入れにでも……
またおかしなことを妄想してしまう。
「ねえまさか噂は…… 」
おいおい俺は何を聞こうとしてるんだ?
ただのセクハラ野郎じゃないか。前回のこともあるんだしここは慎重に。
そもそも彼女が答えてくれるはずがない。
当然俺の願望にも応えてくれるはずがない。
「分かった。もう戻ろう。それとまた三番手って言ったでしょう? 訂正して!」
どうやら本当は訂正して欲しくて待っていたのだろう。危険なことするなあ。
「はい。有野さんはとてもかわいくてきれいでクラス一の美少女です! 」
「そこまで言わなくても…… もう正直なんだから」
やはり照れる。照れられると困る。堂々としててもらわないと。
結局ホームルームを遅刻することになった。
「お前! 何をしていた? 」
「後片付けだ! 仕方ないだろう」
つい威張ってしまう。全員のボールをお世話をしていた訳で。
「こら一ノ瀬! お前は問題ばかり起こしやがって! 」
きちんと理由があって遅れたのになぜ叱られる?
「まあいい。それで有野さんはどうして遅れたのかな? 」
結局有野さんは俺より遅れて教室へ。
同時にはさすがにまずいもんな。
「体育館に忘れ物を取りに行ったら一ノ瀬君が一人でいたから怖くて…… 」
そう停学騒動を起こしたばかり。だから彼女の言い分も通りやすい。
だが実際は俺に話をしに来ただけ。さすがに誰も有野さんを信じはしないだろう。
「それは災難だったな。では着席するように」
うわ…… あからさま。対応が違い過ぎる。
「よし二人とも遅刻は厳禁だからな! 」
俺はほとんど何もしてない。ただ鈍かっただけ。
しかもあの馬鹿どもに絡まれていただけだから誤解でしかない。
それでも間に合わせろと言うのがあちらの要求でしょうね。
続く




