謝罪
生徒指導室。
「ホラ座れ! 」
鬼の形相で睨みつける社会科教師。
笑って許してくれそうにない。
「何か言いたいことは? 」
意外にも冷静。もっと暴力で訴えてもおかしくないのに。
「その…… 授業は自習ですか? 」
いきなりのことだからな大慌てのはずだ。
「そんなことは気にせんでいい! 奴らは子供じゃない。大人しく自習してるさ。
それよりもお前は自分の心配をしろ。当事者意識はないのか? 」
言葉もなくただ首を振る。
「それで言い訳は? しなくていいんだな? 停学は免れないぞ」
脅しを掛けるが俺にどうしろと言うんだ? 密室にしやがって。まさか脱げとか?
「いや待ってください…… 」
必死に言い訳を繰り返す。
「あれは転がった消しゴムを取りに行っただけで…… 」
そうやって余裕を見せて笑う。
「馬鹿者! ヘラヘラ笑ってるんじゃない! 授業中にムラムラしやがって!
いいか。普通は理性で抑えるものだ。いくら可愛くても興奮しちゃいかん! 」
先生は俺なんかのために叱ってくれる。嬉しいよ。でもそれでも勘違いだ。
先生はその気があるんだろうが俺にはない。ただ消しゴムに夢中になって。
ただそれだけなのに信じてもらえない。
これってこの社会科教師の方が危険なのでは?
大人だから我慢するとか教師だから大丈夫などと言うことはないはずだ。
五分ほど沈黙があってようやく口を開く。
こっちとしては指示があるまで大人しくしているしかない。
いつも大体一人だから静かにするのは何の苦もないし従うのに抵抗感はない。
俺はどちらかと言えばクラスの奴らより大人だからな。
「よし反省したな? だったら反省文だ」
言われた通りに書けと命じられる。
謝罪文はこうだ。
<授業中でありながらついムラムラしてクラスの女子の足を触れてしまいました。
もう二度としませんのでどうかお許しください>
「いや…… 全然違うんだけどな…… 」
「ああん? 何か言ったか? これでどうにか退学は免れるはずだ。
後は上の判断を仰ぐ。お前は処分が出るまで自宅で謹慎していろ!
少なくても一週間の停学だ。分かったな? 」
どうも先生は感情的になっている。だからか冷静さのかけらも感じられない。
どうしてここまでおかしな方向に行ってしまうのか?
ただ転がった消しゴムを取りに行っただけ。
勘違いさせるような行動を取ったのも反省はしている。
でもだからって処分が厳し過ぎる。ただの冤罪なのになぜこうなる?
せめて口頭注意で止めて欲しい。ただの間抜けなだけじゃないか。
「先生…… 俺はただ消しゴムを取りに行っただけで」
自分の主張を繰り返す。
「まだそんなつまらない嘘を吐くのか? 先生は悲しいよ」
泣き真似までする。何て器用な人だろうか。俺も真似してみるかな。
「ですから俺はただ消しゴムを取りに行った。ただそれだけです」
反論する。相手が認めない以上こっちだって自分の立場を主張し続ける。
それが戦いだ。俺一人で戦い続ける。たとえ誰にも信用されないとしても。
「馬鹿者! 」
そう言って机を叩く。熱血教師はドンドン熱くなっていく。
うっとうしい上に暑苦しいな。
「でも俺…… ううう…… 」
「これで三回目だろう? 前の学校でも同じことをしたそうだな?
反省もせず同じことを繰り返しやがって! 許されると思っているのか? 」
ダメだ。頭に血が上って話を聞いてくれない。決めつけはよくないのに。
俺の泣きの演技も不発ではどうにもならない。
「あの…… 」
「うるさい! 」
「でも先生俺悪くない! 」
「ははは…… 君ねえ。そんな言い訳通じないんだよう。
お前がムラムラしてついかぶりつきたくなった。そうだろう?
いいんだよ。気持ちは分かる。だが何度も言うが理性で抑えろってんだ! 」
先生は自分の立てた筋書きに固執するあまり何も聞こえないし見えてもいない。
どうしてこう話を聞いてくれないんだ? 俺に悪気がないのは分かり切っている。
それは自分自身を理解してるから。でも先生には他人には伝わりはしない。
決して俺の言うことなど聞きはしないのだ。
ああ残念だよ。どうしてこうなった?
トントン
トントン
「おっと…… 時間らしいな。それでお前は反省したんだな? 」
「はい。誤解を招くような行動を取ったのは悪いと。
有野さんにも怖い思いさせたなと思ってます」
「クソ! まだ懲りないようだな。よしでは入って来てくれ! 」
「失礼します」
何と目の前には有野さん。これはどうすればいいんだ?
「落ち着いたか? 今から彼に謝らせるからな」
どうやらこれから謝罪の言葉を述べなければいけないらしい。
何て言えばいい? メモがないと何も出て来ない。
「先生…… 謝ったらなかったことにしてくれますか? 」
「馬鹿野郎! 停学だ! 謝罪は当然すべきだろうが! それが教育! 」
まあまあ先生と有野さんに止められる始末。
「大変だったね。彼も反省してるから。聞いてあげてね」
そう言って促すが言葉もない。
「馬鹿野郎! 反省文を読むんだよ! 」
「申し訳ございませんでした! 」
自分で反省の言葉を述べる。これで心証はいいはずだ。示談が成立するはず。
「ほらきちんと頭を下げんか! もっと思いっきり! 反省の態度を示せ。
これは謝罪なんだからな! 」
先生はどうやら満足したらしい。よし次……
校内放送が流れ先生は呼び出されてしまった。
グッド&バッドタイミング。
先生はそこにいろと無責任に放置。
俺はいいけど有野さんはまずいんじゃないのか?
えへへへ…… おっとおかしな感情に支配される。
しかし被害者と加害者が二人っきりなんて何てデリカシーのない。
これだから間抜けだって言われるんだよ。主に俺が言ってるんだけどね。
続く




