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第3話 誘拐

「シャル、そろそろお昼だし、帰ろう」

「うん、たのしかったね」


 そうジークくんに、こたえる。今日は、ジークくんといっしょに、ひみつのぼうけん。

 ジークくんが見つけた、おにわのかべの、ヒミツのスキマから、おそとに出たの。

 キティスのマチをふたりでタンケン。キグミのおうちのあいだをはしったり、キョウカイを見たりしたよ。

 でも、マーサおばさんがシンパイしていないか、すこしシンパイ。

 そんなことを、かんがえていたら、ジークくんが、まえにバシャとたおれた。ミズがバッとひろがった。


「ジークくん、だいじょーぶ?」

「いってて....この、ボクが子爵になったら、石だたみにしてやる」


 そういって、ミズタマリから立ち上がるジークくん。キノウ、アメがふったから、ドロだらけ。


「いしだたみ、にしたらケガするよ?」

「石だたみにしたら、コケないから、大丈夫さ」


 でも、ジークくん。キョウ、コケるの3かいめだよね。わたしはこけていないけど。

 そう言おうとおもったけど、やめておいた。


「ジークくん、カミがほどけちゃったね」

「あ、ほんとだ。ヒモはどこ?」


 そういって、水たまりをのぞきこむジークくん。おかっぱになって、女の子みたい。

 

「今日はツいてないなぁ」


 水たまりをパシャパシャするジークくん。あきらめたみたい。


「そういえば、シャルはなんで、石だたみを知ってるの?」

「このあいだ、イゼオでみたの」


 わたしはちょっとじまんげに言う。このあいだ、おねえさまが、わたしをオウトにつれていってくれたんだ。


「ああ、あの時。あの時はたいへんだったんだよ?。ジュリアさまとシャルが、朝起きたら屋敷にいないし。“(あか)獅子(しし)”さんが、すごい心配してたし」

「まてぃ....のこと?」

「マティアスさま」

「それ。シャル、マティーきらい」

「シャルにきらいな人なんているんだね。でも、どうして?。すごい強い人って聞いたけど」

「おねえさまをシャルから、とろーとするから」

「マティアスさまが?」

「そう!きょーのアサも、おねえさまとあってた」

「ああ、だからあんなに怒ってたんだ」

「ほんとにモー、ユダンもスキもないわ!」

「マティアスさまは、ジュリアさまの騎士だから仕方ないよ」

「おねえさまのキシ?」

「うん。ジュリアさまの故郷では、自分の騎士を一人だけ持てるんだって」

「キシはたくさんいるよ?」

「普通の騎士じゃなくて、特別なんだよ」


 トクベツって、どういうイミかな。でも、いっしょにいるってことは。


「スキってこと?」

「うーん、そのあたりは分かんない」

「そう....」


 おねえさまのキシってことは、おねえさまもマティ、スキ?

 わたしが、なやんでると、ジークくんが右ヒザを地面について言いました。


「シャル、よければボクを、シャルの騎士にしてください」

「ジークくん?」

 

 むらさき色のカミをした、ドロだらけのジークくんは、わたしを見あげていいました。


「ボクにシャルを守らせて」


 ジークくん。がんばり屋でものしりで、わたしのマエでは、ちょっとカッコをつける男の子。いつもわたしに、やさしくしてくれます。ジークくんなら


「うん、いいよ」

「ホントに?」

「うん」

「なら」


 そういうとジークくんは、右手をフクでゴシゴシして、ヨゴレをとると、わたしに手をさし出した。


「右手を、ボクの手にのせて」


 言われるとおりに、右手をのせると、ジークくんは、わたしのお手々にキスをした。


「きたないよ?」

「シャルの手なら、汚くないよ」


 わたしのキシは、そう言いました。


 ――――パカパカパカパカ、ガラガラガラガラ


 オトがするほうを見ると、くろいバシャがやってくるのが見えた。



----



「ようやく着いたか」


 髪をかきあげて、外を見る。田舎の長閑な街といった風情が広がっている。魔導国の王都ホニスからイゼオ伯爵領まで船で1日、そして朝早くから馬車でとばして、ようやく着いた。なんて田舎だ。

 特筆すべきことは、特にないように思える。強いて言えば、王都ホニスと同じく、丘の上に街があること。丘の横の低地を流れる、キティス川の氾濫を恐れてのことだろう。丘の下は、かつての川の氾濫で堆積(たいせき)した土砂が、肥沃な平野を形作っていた。ここがキティスの稼ぎ頭だろう。丘の上は居住地がメインと言った感じだった。


「いったいどうやって、税収2割増を成し遂げたんだか」


 持っていた洋紙の束を見る。王都に提出された今年の税収見込みだった。


「毒牙草が流行ってなければ良いんだがな」


 現在、国境沿いの領を中心に、毒牙草の粉が国内で流通し始めている。毒牙草は、一見すると美しいのだが、近づいてよくよく見ると、トゲがあちこちにある毒々しい花だ。鎮痛剤として処方され始めたが、少量でも酩酊・多幸感が得られるため、世に広まり出した。

 強力な依存性があり、飲むたびに耐性がつくため、どんどん高純度の毒牙草を求めるようになる。辞めようとしても薬が抜けたら、禁断症状が現れて、不安感やイライラの精神的苦痛、吐き気や震えなどの身体的苦痛に苛まれ、再び毒牙草に手を出し、最後には廃人になる。軽い気持ちで手を出して、廃人になるものが後を絶たない禁忌の植物だ。

 この毒牙草の粉は、犯罪組織が売買する以外にも、他国への不安定化工作としても使われる。現に、最盛期は軍事大国として、モンス大陸の覇権を握っていたサイヴァルド騎士国は、毒牙草に沈んだと言っていい有り様で、あっさりとタシュル騎馬国に併合されてしまった。

 特に、峻険なクルス山脈は監視の目が届きにくい。ヘリエスタの優れた指導者が、避難民のクルス山脈越えを成功させ、キティスに導いたと聞く。もしかしたら、その避難ルートが密輸ルートになっているかもしれない。

 騎士国では、毒牙草の流通に悪徳貴族が関わっている事例もあったという。キティス子爵領領主のリンデンベルク家も関与している可能性もある。このオレが王都ホニスから、わざわざ来たからには、その真偽を見極めてくれよう。

 まぁ、王都にいたら四方八方から早く結婚しろと言われるので、進んで地方(ちほう)行脚(あんぎゃ)に出ているのだが。

 皆の言うことも分かる。結婚すれば、相手の実家が味方になり、色々と都合が良い。だが同時にしがらみも増える。家格の釣り合いがとれて、なおかつ、このオレとの相性となると、なかなかいないものだ。

 エマが、誰か印象に残る人はいないのかと聞いてきたが、そんなもの....。

 いや、そういえば昔、一度だけいたような気がする。諸国の見聞を深めるついでに、隣国サイヴァルド騎士国のフランツ王子殿下の立太子の儀に、特使として出席したときだ。輝くような金の髪、透き通るような青い瞳が印象的な令嬢がいた。彼女はたしか....。


「はぁ....」


 ため息をつく。そうそう良い出会いはないものだな。そう思って、街の方に目をやったときだった。オニキスのように黒く輝く髪をもつ幼女が目に入った。

 息をするのも忘れてしまうような、可愛いらしさだった。同じ色の瞳も、あどけない顔立ちも、その存在すべてから目が離せない。なぜ、皆、あのような存在に気づかないのだ。なぜ、平然としていられるのだ。オレだけしか気づいていないのか?。....ならば!

 オレは、御者に馬車を止めるよう命じると、扉を開けたのだった。


(続く)


 中近世ヨーロッパ風の世界で、若紫をしようとする御仁、虎の尾を踏み抜く。果たして彼は、この先生きのこれるのか。

 なお、ジュリア農場はキティスの街を過ぎたところにあるので、まだ彼には見えていません。

 続きは、明日投稿します。


 ちなみにジュリアがシャルを旅行に連れて行く話は、本作のプロトタイプ版『狂い姫とその妹 -旅の始まり-』に書いております。良ければそちらもどうぞ。


『狂い姫とその妹 ‐旅のはじまり‐』

https://ncode.syosetu.com/n3347kn/


 なお、作品の雰囲気やジュリア農場の位置、ジュリアの紋章等、本編と違う点はいくつかあるので、ご注意下さい。

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