表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/3

第2話 ジュリア農場

初めて、オリ創作で評価ポイント・ブックマーク頂きました!!

自分のオリ創作が評価して貰える、

こんなに嬉しいことはありません( ;ᵕ; )♡


 アーチをくぐると、道幅が広くなった。キティス子爵領領主のリンデンベルク(きょう)が、この地の開墾を許可する条件のひとつとして、それまで森で採取していた木材や(まき)を、“農場”の方で調達して運んで欲しい、と提示してきたからだ。

 道幅は8メートルはあり、木材という大重力のものを運ぶのに充分な道幅はある。農場の外の方は、道幅が整っていないため、馬車が離合する時は大変らしい。万一、荷が(ほど)けでもしたら大惨事だ。農場の外の道の整備は、リンデンベルク卿の負担のはずだったけど、この調子なら負担を求められそうだった。

 私が将来のイザコザについて、頭の端っこで考えていると、風景は打って変わった。舌を噛まないよう気をつけながら、隣を走るマティアスに話かける。


「稲の生育は順調そうね」

「はい。ヤシマ家の顧問の方も太鼓判を押されてました」

「それは重畳」


 眼前には、青々とした田園風景が広がる。出穂(しゅっすい)を控えたそれは、大地から吸い上げた養分を蓄え、実を結ぼうとしていた。

 ヤシマ家は、ミーシャ法国の神官長の家柄で、4年前、王都から帰って来た私に、“麦より十倍は収量のある作物がある”とのフレコミで、謁見を求めて来たのだ。その作物が“お米”だった。

 ミーシャ法国は、北の山脈の盆地にあるとされる国で、虹神教会から“邪神を奉ずる国”と認定されている。会うか否か悩んだが、タシュル騎馬国の脅威がある以上、やむを得なかった。

 会って見ると、教会が言うほどの邪さは感じなかった。単なる異教徒という感じだ。なんでも、太古の昔、モンス大陸が生まれるより、はるか前、まだ島国だった頃から、今の土地に住んでいる人達で、元は温暖な地域で作られていた“お米”を、絶え間ない品種改良で、冷涼で雨の少ない気候に適応させたらしい。

 灌漑設備を整える必要があるなど、一長一短あるけれど、その収量のおかげで、私達は飢え死にせずにすんだ。

 道を馬に乗って進んでいると、農作業をしている、“ジュリア農場の従業員”という名目になっている私の領民が、私を見ると手を振ってきた。


「ヨッヘン!腰の調子はもう良いの?」

「すっかり元通りです!」

「ボト!お酒はほどほどにね!」

「気をつけます!」


 近場の人には声をかけて、遠くの人には手を振って応える。そのぶん、足並みはゆっくりになるけど、仕方ない。

 やがて、(ほり)土塁(どるい)に囲われた町が見えてきた。故郷ヘリエスタの名前を(もじ)って、リスティアと名付けた、私達のホームタウンだった。


--


 町に入り、中心部にある仮のお屋敷、(けん)集会場、(けん)礼拝所に到着する。この町で一番始めに建てた建物で、木造の簡素な作り。門と庭と厩舎(きゅうしゃ)付きの大きな()っ立て小屋、という感じだ。

 厩舎(きゅうしゃ)に馬を繋ぐ。騎士達の馬もあるから、みんなすでに到着しているみたいね。裏口から入り、踏み固められた地面を歩いて、会議室兼執務室に入ると、先に来ていた騎士達が起立して、私を待っていた。

 騎士、といっても身分としての騎士で、みんなが着ているのは、チュニックに長ズボンなど庶民とさほど変わらない。私の騎士で、軍事専任のマティアスでさえ革の鎧だし。彼らが騎士の誇りとしていた全身鎧は、山越えの時に放棄させていた。タシュルの騎兵の矢も碌に防げなかったし、仕方ないと思う。

 私の座る木椅子には、以前は故郷の織り物が敷かれていたけど、今は領民が作ってくれた稲藁(いなわら)のクッションを使っている。そっちの方が、好きだった。

 私が着座すると、皆も座る。私の隣にはマティアスが座った。


「じゃ、始めましょうか」


 各セクションを担当する騎士達から、報告が始まった。


--


 円卓を囲んで議事が進行する。

 麦の販売と子爵家への納税は完了。リピッツ馬の売り上げは好調、事前に子馬を移動しといて良かったわ。架橋は順調ね。新規開拓村の資材も確保、冬までに終わらせないと。見張り村への補給物資は準備完了。林業部門で怪我人発生、医療費は公金より支出っと。あとは。


「アーノルド、溜め池の貯水率はどれくらいかしら?」

「4割ほどです」

「ギリギリね」


 溜め池は、キティス川から取水している。農場の農業用水、生活用水の水源で、農業用水を使わない冬に貯水している。ここの溜め池が干上がると、農場全体が干上がってしまう。まさに、生命線だった。

 トントン、と円卓を指先で叩く。溜め池を作ることは、避難生活一年目の重要事項で、開墾と、越冬のための避難民収容施設の建設と並行して、溜め池と水路を掘った。時間がないので、水路は素掘りだ。

 現在、貯水率4割なら、今年は大丈夫ね。けど、もし来年、日照りで渇水になると私達はアウト。思い返して見れば、ヘリエスタの水路は、レンガのようなもので作られていた気がする。あれは、水が大地に沁みこむのを、防ぐためなのかもしれない。新しく作る貯水槽で検証してみましょう。


「ベルナー、棚田の陽水に使う魔力は足りているの?」

「あと2割ほどです」

「後で補充しておくわ。次からは4割を切ったら報告して」


 耕作面積が限られるから、木を伐採した山の斜面を棚田にしたけど、水路の水を魔力で揚水しないといけないから、一苦労ね。食糧も足りてきたし、今度からライ麦かリンゴの木を植えようかしら。


「ジュリアさま、よろしいでしょうか?」

「何かしら、ハンス?」

「収穫量も安定してきましたし、そろそろ屋敷を持たれては、いかがでしょう?」


 そういう話題も出てくると思っていたわ。ハンスは特権意識強いからね。私が庶民も通える学校を作っているのが、気に食わないのでしょう。煙に巻くのが一番だわ。


「時期尚早よ。レンガをキティスや他領から買えば高くつく、内製化が最適。建築技術も高級建築となると私達の手に余るから、お金が他領に流れるだけ。他の建築で経験を積ませてからの方がいいわ。学校の校舎とかね」

「....騎士学校ならばともかく。庶民の教育などは、神殿が行うことでは?」

「剣の神殿も、もはや地上にはありません。この地において、虹神さまと剣の天使コルリウスさまの教えを広めるのは、ひとえに私の責務です」

「.....」

「それに私は、亡き陛下と亡き父の赤子(せきし)を預かっています。一人として、無駄にするわけにはいかないのです」


 威厳を持ってそう言う。感銘を受けた様子のアーノルドが、うんうんと頷くのが見える。あなたは本当にお人好しねぇ。


「もちろん、私とて騎士学校を卒業した者。騎士国における騎士学校の重要性は承知しております」


 というより、騎士国には学校が“騎士学校”しかなかったのよね。各領にある学校も、王立の学校も、全部“騎士学校”だったしね。


「庶民も通う学校は木組みですが、いずれ作る騎士学校は、屋敷と同じくレンガ作りにしましょう」


 騎士学校がレンガ作りなのは、普通に教育施設兼軍事施設だからだけど、譲歩したように言う。これで納得しなかったら....さて、どうしてくれよう。


「わ、分かりました!。お許しください、どうか、命だけは....」


 なぜか顔を真っ青にしたハンスは、すぐさま同意した。いったい、どうしたのかしらね?


--


 会議が終わったので、執務室(兼会議室)で紅茶を飲んでると、外が騒がしい。見張り村に補給に行くマティアスとピウスが、最終確認をしているようだった。

 去年までは、仕事で寝られない日もあったけど、最近はようやく時間に余裕ができるようになった。領の経営の実務をやってた人が、ほとんどいなくなっちゃったからね。教養はあっても軍事一辺倒だった騎士しかいなかったから、みんな手探りだったし。

 我ながら、よくここまで頑張れたと思う。心が折れそうになることが何度もあった。これもシャルのおかげね....外が静かになったわね。そろそろ行こうかしら。

 玄関から外に出ると、補給に行く兵士たちが整列していた。


「ジュリアさま」


 そう言いながら、こちらに歩いて来るマティアス。


「お見送り、ありがたく存じます」

「悪いわね、私が作った村なのに」

「いえ、新兵には良い訓練です。それに、民を思ってのことでしょう」


 これから彼らは、峻険なクルス山脈に作られた見張り村―――イルセン村とコフェル村に物資の補給に行く。水や食糧を満載して行くので、イルセン村まで1日、コフェル村まで3日はかかるだろう。

 そしてそれは、表向きの任務で、マティアスはそのままクルス山脈を超えて、ヘリエスタに偵察に出る。かなり危険な任務だ。本当なら私が行きたいところだけど、全力で止められてしまった。

 ふと、マティアスは思い詰めたような顔をする。しばらく逡巡し、切り出した。


「お心遣いはありがたいのですが、そろそろ侍女を迎えられてはいかがでしょう?」


 そういうマティアスの顔に、アニカの面影を見る。

 アニカ。赤の入った金髪はふわふわで、ぱっちりしたお目々の女の子。活動的な私と違って、守ってあげたくなるような、可愛らしい子だった。小さい頃から一緒にいて、よく私と見間違われて(・・・・・・・・・・)。騎士学校でも同じクラスで、王都行きが決まると侍女として、私についてきてくれた。私の親友で、マティアスの妹。


「....ごめんなさい。まだ、整理がつかないの」

「出過ぎたことを申しました。お許しを」


 私の顔は曇っているのだろう。マティアスは謝罪の言葉を口にした。私は、マティアスに聞いておきたいことがあった。


「....マティアス。あなたは、私を責める権利があるのよ」

「そのようなこと、考えたこともありません。あなたは、ジュリアさまは、私達の希望です!」


 希望、希望か。ディミトリィも、そう言っていたわね。みんな、私に勝手に希望を見出(みいだ)して、私を(かば)って死んでいく。


「マティアス、あなたは生き残ってね」


 私を罰する人がいなくなるから。アニカを死なせた罪を、あなたは思い出させてくれる。

 マティアスは突拍子のない私の言葉も受け止めて、なにかを言おうとしたけれど、私の顔を見ると黙って地面に右膝をついた。

 私の右手をとると、手の甲にキスをする。


挿絵(By みてみん)


「必ず、生きて帰ってきます。私のお姫さま(マイ・プリンセス)


 瞳を閉じる。目を開けて、マティアスを見つめて言う。


「あなたに、剣の天使コルリウスのご加護がありますよう」


(続く)



例によって、挿絵は生成AIを使用しておりますので、参考程度にお願いします。マティアスはイメージに近いですけど、ジュリアは服装が違うんですよね(でも可愛いので採用

続きが気になる方は、高評価・ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ