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第10話 イゼオの戦い(下)

 ――――ドゴォ


「グハッ!」


 音のした方を見ると、居館の西側の屋根に叩きつけられた影が見えた。暗闇に目が慣れて来て、だんだんと風貌がはっきり見え始める。マクシミリアン王子殿下だった。


「えぇ....」


 自分で喰らうの?。

 あ、私の膝蹴りで防壁の展開が遅れたのか。

 さっきのあれは、ルビーの宝石を魔力源にした爆弾でしょうね。4カラットはあったと思うけど、いったい、いくらかけているのかしら....?

 ....まぁ、いいわ。マクシミリアンの実力は健在のようだし、名家の子爵子息誘拐を(おおやけ)にして廃嫡に追い込んでも、実力で王位を簒奪(さんだつ)するかもしれない。マクシミリアンが魔導王になれば、妹やジークくんに(とど)まらず、魔導国や近隣諸国の幼気(いたいけ)な子供達が犠牲になる。ここで始末しておくべきね。


「≪騎士の誓い・緑≫」


 左右逆に持っていた剣をもとに戻し、跳躍する。屋根に降り立ち、魔導剣を杖代わりに起き上がったマクシミリアンと退治する。

 雲に隠れていた満月が顔を出そうとしていた。


「賊のくせに、強い、じゃないか?」


 途切れ途切れにそう言うマクシミリアン。白いマントはぼろぼろで、服も(すす)だらけだ。


「あなたはボロボロね」

「ふん....。だが、ここなら先程のようにはいかんぞッ!」

「させないわッ!」


 屋根瓦を蹴って駆ける。

 先ほどの戦いで、魔導剣士との戦い方も分かった。魔術を使われる前に倒す。剣の技は、私の方が上だ。一気に接近戦に持ち込み、圧倒する。これが一番だ。

 そう思い加護を発動させようとした時だった。


「逆巻け、炎よ」


 マクシミリアンから放射状に巻き起こる炎。魔素を強引に術式に突っ込み、炎に変換していた。なんて粗雑な術式!変換効率も悪すぎるでしょう。でも、早かった。


「クッ」


 屋根瓦を蹴りバク宙して炎の波をかわす。宙を舞う私とマクシミリアンの目が合う。マクシミリアンは、ニヤリと微笑んだ。まるで着地したら再攻を(うかが)おうとしていた私の考えを、読んでいるようだった。


「来たれ、流転の(あるじ)

「は?」


 あの粗雑な術式の炎は、まだマクシミリアンから放射状に放出されている。その密度の薄い炎は、見た目以上にマクシミリアンの魔力を消費しているというのに。


「燃え盛り、集束し」


 着地してマクシミリアンを見る。まだ炎を放射状に放っていた。

 魔術を行使しながら、別の魔術を行使するなんて聞いたことがなかった。サーカスで玉乗りしながらお手玉をして、綱渡りをするようなものだ。なんて魔術運用能力ッ!


(ことわり)に反する者を、誅滅せよ」


 マクシミリアンの上部に浮かび上がる巨大な魔術陣。そして、その魔術陣の中に浮かぶ、無数の小さな魔術陣。魔術陣を作る魔術陣って、なによ。


「オレにこれを使わせたことを誇りに思って死ね。≪炎天≫!」


 ――――ドドドドォン


 無数の魔術陣から轟音とともに赤熱した槍状の鉄が発射される。まるで、炎の槍ね。


「≪騎士の誓い・緑≫」


 ここまではこまめに魔力を節約していたけど、私も出せる範囲で(・・・・・・)本気出さないと死ぬわね。

 足に緑の魔力を(まと)ったまま後方に跳んだ。


 ――――ドドドドドドドッ


 私のいたあたりに、赤熱した鉄―――炎の槍が突き刺さる。

 これがジリオルの戦いでカンデルノワ煌国軍(こうこくぐん)を苦しめたマクシミリアンの局地殲滅魔術ね。


「騎士の魔法、か。どおりで手応えがありすぎるはずだ」


 私の脚の緑を見て、そう言うマクシミリアン。隠しているつもりはなかったんだけどね、節約よ節約。


「加護よ。不信心な人ね」


 会話にのる。その間に魔術を読み解く。さすがにあの超高度魔術と並行して、別の魔術は使えないみたいね。


「フンッ。神など信じぬ」


 炎の槍は消滅して魔素に戻っている。伯爵の城だから、鉄の形を維持して、火をつけて二次被害を発生させる必要もない。魔術陣の方は、さっきまでたくさんあった、ちっちゃい魔術陣が半分以上消えていた―――あのちっちゃいのは使い捨てね。


「ルドルフ2世は、国教会の首長を兼ねているじゃない?」


 あの大きな陣は、使い捨てのちっちゃい陣を作るためのものね。ちっちゃい陣の数がどんどん増えているし。轟音がしたから、爆発してる?。可燃ガス?炸薬(さくやく)?それで陣が消えたのかしら?


「オレの前で父の名を出すなッ!!」


 あのちっちゃい陣には、魔素を高速で回転させる術式が2つあるわね。あれで魔素同士をぶつけて、発熱させているのね。

 よく見たら、陣の中央が凹んでる....魔導砲の薬室から着想を得たようね。

 マクシミリアンが、ハッとして口を開いた。


「待て!!」


 待たない。


「貴様、オレの陣を読んでいるな!。騎士の魔法が使えて、魔術陣も読める、貴様、何者だ!」

「誘拐犯に名乗る名はない。あと加護ね」

「チッ!」


 無数の魔術陣に魔力が供給され、陣が赤熱し始める。


「いいの?。私相手にその程度の数で」

「貴様そこまで....もはや生かして帰さんぞ!」


 初めから殺すつもりじゃない。


 ――――ドドドドォ、ドォン


「≪騎士の誓い・白≫」


 連続する鈍い爆発音。発射される赤熱した鉄の槍。私は近距離戦に向けて、加護を重ねがけする。両方の剣が白い魔力を帯びる。


 ――――ドドドドド


 牽制弾を横に跳んで避ける。近づくのはまだ早い。

 足元を見ると、夜なのに影が濃ゆい。お月さまが完全に顔を出したわね。暗闇に隠れる選択肢はなし。


「顔と引き換えにオレの命を()らなかったこと、後悔するが良いッ!!」


「≪騎士の誓い・赤≫」


 腕に赤色の魔力をまとう。これで腕力強化も完了ね。私は、満月を背にマクシミリアンに突撃をかけた。


「粉微塵になれ!」


 ――――ドドドドドォン


 凄まじい轟音とともに発射される炎の槍。

 私の加護に対応するため、面で潰しに来た!


 ――――ガキィ


 初弾の炎の槍を、右手の細めの剣を一文字で切り捨てる。


 ――――ガキィン


 次弾の炎の槍を、左手のショートソードで、弾道を逸らす。


 ――――ガキィ、キィン、カァン


 次の槍は右手の剣で掬い上げるように切り上げて両断。くるりと横に一回転し、上段から振り下ろして、続く槍を斬り捨て、間断なく突っ込んできた槍を、左手のショートソードで薙いで穂先を斬り落とす。


 ――――キィン、ガキ、ガン、ギィイイン


 斬って、払って、あるいは柄頭(つかがしら)で弾道を変え、態勢を崩しながらも受け流す。倒れる前に屋根を蹴り、前に飛びながら態勢を整える。

 感覚が昔に戻っていく。

 敵を斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬った。あの頃。

 コイツも殺さなきゃ、またみんなが死ぬ。


「かかったな!」


 上に殺気(・・)。反射的に後ろに跳ぶ。


 ――――ドドドドッ


 上を見ると、コイツの魔術陣。2つ出せたのね。


「なぜ分かった?まぁ、良い。仕切り直しだ」


 そう言って、また小さい魔術陣を、たくさん作る。


「もういいや」

「....命乞いか?」


 日常とか、幸せとか、やっぱり私にはなかったんだ。

 私には、ここ(・・)だけ、ここ(・・)だけしかないんだよ!


「あは、あははは、はははははは」

「気が狂ったか?」

「そうよ!私は“狂い姫”だもの!」

「“狂い姫”....?」


 あなたが悪いんだ。日常の暖かさで、微睡(まどろ)んでいたのに!妹が寝かせてくれたのに!あなたが起こすから!


「チッ!」


 ――――ドドドドドォン


 私の狂気に耐えられなくなったマクシミリアンは、一斉に炎の槍を発射した。

 数えきれない程の轟音がして。

 数えきれない程の炎の槍が迫ってくる。

 魔導王子マクシミリアン、あなたはたしかに、この大陸において、最高峰の魔術師でしょう。

 でも、所詮は人の技。

 人には、届かない領域があることを知らない。

 神の領域。宇宙を開闢(かいびゃく)した7つの色。それらを操る魔法を。

 私の身体から、(もや)のように、白い魔力が(あふ)れ出す。

 剣に(まと)い、宙空に向かって、一閃する。


 ――――スパッ


「はっ?」


 無数の炎の槍と無数の魔術陣、その全てが真っ二つになった。

 一つのものを、必要なものと不要なものに分けて、不要なものを切り捨てる。

 それが、白色の魔法。

 対象は自由に選べるし、要・不要の基準を決めるのは私。天秤の針が傾かなかった方を切り捨てる。

 炎の槍と魔術陣も、私にとって必要なものと不要なものに切り分けた。そうしたら、マクシミリアンにとっては、使いものにならなくなった。

 でも、その基準は私が決めるの。残念ね。

 代償はたくさんの魔力と―――。


「貴様、何者だ」


 マクシミリアンがそう問う。

 さすがは魔導国の英雄。白の魔法を本能的に恐れる人間の(さが)に打ち勝って、私を見る。

 あなたで、4人目よ。


「白の魔法使い」


 私はそう答えた。

 

(続く)


続きは明日投稿します。

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