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第八話 お酒 ~内政結果~

▽一五六五年四月、澄隆(十歳)田城城



 月日が経つのは早い。

 俺が憑依に気付いてから、五年目の春だ。



 城から見える山々が、桜の花で、桃色に色づいている。

 暖かい風が身を包み、春の息吹を感じられる、俺が一番好きな季節だ。



 俺は、波切城にいる嘉隆に素直に従う振りをしながら、この五年の間に、光俊と宗政を巻き込んで、前世の知識を総動員して、色んなことをした。



 ……正直、失敗続きの辛い五年間だった。

 


 といっても、ほとんど全部、宗政を抜擢して丸投げして進めたので、一番辛かったのは宗政だけど。

 宗政はお腹をさするのが癖になっている。



 俺が提案した内政チートを基に、試行錯誤したこの五年間の取組の成果について、俺の憑依がいつ解けても良いように紙にまとめておこうと思う。

 


 今回はお酒作りだ。



◇思い出澄隆(五歳の頃……)



 この時代、濁ったどぶろくというお酒があった。

 俺は、このどぶろくを活用して、九鬼家の特産品を作ることにした。



 まずは、近江国にどぶろく作りで有名な老人がいると聞いたので、宗政にスカウトに行かせ、九鬼家でどぶろく頭という役職に付いてもらった。

 そして、光俊率いる多羅尾一族に、このどぶろく頭の指示の下で、どぶろく作りに励んでもらったところ、半年も経たずに、軌道に乗った。



 ここで、歴史オタクの知識の出番だ!

 竈の灰をどぶろくに入れると、澄んだ美味しいお酒ができると記憶していたので、やってみた。



「宗政! どぶろくに灰を入れてみて!」

「ゑ!? え~と灰ですか。あの偏屈などぶろく頭が許さないと思いますが……」

 宗政が戸惑い気味の声を上げる。

「宗政なら説得できる! 頑張って!」

「し、承知しました……」



 宗政は、どぶろく頭に頭を下げ、何とかどぶろくに灰を入れることは許してもらったが、結果は失敗。

 灰を入れると、多少は濁りが消えるが、灰の雑味が増えて、お酒が不味くなるだけだった。 



 ……宗政はどぶろく頭に、頭を叩かれて涙目になったらしいけど、許してくれ。



 じゃあ、灰だけじゃなく、現代の浄水で使う木炭を併用することにしたらどうだろう? 

 これも、半分失敗。

 何回も濾過したら、澄んだお酒はできたけど、味も匂いも消えちゃった。



 澄んだお酒という特色があっても、美味しくなければ売れないよね。

 澄んだお酒が作れることは分かったので、宗政にまた、どぶろく頭を説得させて、味の追求を進めることにした。



 どぶろく作りは、年に二回仕込むので、何十種類も作って試行錯誤すること二年。



「澄隆様、出来ましたぞ!」

 宗政が、こけし顔を綻ばせながら、報告にきた。

 どぶろくを作る前の精米歩合を上げて、味を濃く旨くすることに成功。

 味や風味を残したすっきりとした美味しい清酒が出来上がった。



「宗政、よくやった! 宗政にもどぶろく頭にも褒美を出すぞ!」

 俺が褒めると、宗政はこけし顔を崩して、嬉しそうに笑った。

 


 俺はさすがに今は未成年で飲めないけど、試飲させた家臣達には大好評。

「これは美味いですな!」

「こんな澄んだ酒は見たことがないですぞ」

 近郷や家臣の反応は激賞だった。

 これは将来、飲むのが楽しみだな。



 ただ、清酒の新たな問題点が発覚。

 清酒にしたら、どぶろくに比べて、日光や温度変化に弱かった。 

 前世の様に低温で高速輸送できればいいけど、常温で低速輸送するこの時代では、時間が経つと味に大きく差が出る。



 そこで、目を付けたのが火入れ。

 例えば牛乳なんかを前世では低温殺菌加工しているよね。

 それと同じ考え方で、清酒を殺菌することにより、長期保存が可能か試すことにした。



 清酒のもろみを濾過してから、一月ほど経って酒質が落ち着いてきた頃、沸騰させないように加熱する。

 火入れによって、清酒の中の微生物を殺菌でき、残存している酵素の活性を止められるはずだ。



 俺が持っている知識は伝えたが、やり方はもちろん、宗政に丸投げ。

 また、どぶろく頭に怒鳴られながら進めて、またまた大変な目にあったようだが、なんとか殺菌することにも成功。



 九鬼産の清酒として売り出すと、透明で美しいお酒と、評判になった。



 ブランド名は、『澄み酒』になった。

 俺の名前の澄隆から一字取った形になったけど、苦労したのは宗政だ。

 ご褒美に、給金を倍にしてあげた。



 今では、九鬼産のブランド酒として、この時代の最も大きな商いの街である堺でも大好評。

 美味しくて、保存もきくお酒。



 最近は、堺の商人達が、我も我もと、こぞって高値で買ってくれる。

 精米歩合を上げたので、お米の消費は増えたが、作れば作るほど売れるので、笑いが止まらない。

 もっと作るぞ!



◇今の十歳澄隆……



「澄隆様、今年、仕込んでいる澄み酒を高値で買い取りますので、ぜひ、我が小西屋に多く融通をお願いできないでしょうか?」

 堺の商人で懇意にしている小西隆佐という男が澄み酒が沢山欲しいと、直談判に来た。



 ちょび髭を生やしたギラギラした悪人面の男で、胡散臭い雰囲気満載だ。

 ……時代劇で、いつも成敗される悪代官みたいだ。



 俺は、内心、隆佐の悪人面にビクビクしながらも、小西屋とは懇意にしたいある理由があるため、二つ返事で了解した。

 宗政と調整してね。



 今では、澄み酒一升当たり、百文を超える金額で買ってくれることになっている。

 戦国時代の主な通貨は、銅貨である永楽銭。

 永楽銭一文当たり、現代のお金で考えると変動があるけど、百円ぐらいかな。

 百文だと一万円以上だ!

 お酒って、こんなに儲かるんだね。



 田城城内で、澄み酒作りは秘匿情報として、多羅尾一族の忍者達に守らせながら作らせている。  

 城内には、澄み酒を入れる酒蔵が今では三つ建っている。

 


 そして、今。

 ワイン作りにも挑戦中だ。

 これも、宗政が、どぶろく頭にお願いして作っている。

 ワインの基本的な製法は、山ブドウを潰して水を入れて発酵させたら出来ると、宗政に伝えた。



 ただ、これも最初は失敗続き。

 山ブドウは糖度が低く、発酵が十分に進まなかった。

 砂糖は高いし、甘い食べものを入れさせてみるか……。

 宗政に、甘い食べものを集めさせて試すと、小豆で発酵が進むことを発見。

 ワイン作りのために、山ブドウ畑作りもこれから大規模に進めて、将来、ワインを南蛮貿易で輸出する特産の一つにしようと考えている。


 

 宗政、頑張ってね!

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

次回も内政チートを進めます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 火入れまで考えるのが新鮮ですね
[一言] 戦国時代だと、甘葛という、蔦の樹液を集めて煮詰めた甘味もありますよ
[良い点] 一気に時が進みましたね。 ちかさとーが聞けないのは悲しい [一言] こけし頭がハゲる!
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