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第八五話 百足大行進大作戦 その一

紀伊国攻略開始です!

▽一五七一年八月、澄隆(十六歳)鳥羽城 



 紀伊国を攻める前に、まず、九鬼家と周辺国との状況確認だ。



 南伊勢と接している北伊勢。

 北伊勢は敵対している織田家が支配しているため、防波堤として南伊勢の大河内城で守りを固めている。

 大河内城主は渡辺勘兵衛だ。



 次に伊賀国。

 伊賀忍者は、相変わらず、味方か敵かよく分からない。

 百地正永は、織田家とも繋がっているし、注意が必要だ。



 続いて、大和国。 

 北側は興福寺が支配している。

 まだ、表立って敵対関係にはなっていないが、筒井順慶は信用できない。



 最後に、今回、俺が攻めようとしている紀伊国だ。

 九鬼家が大和国の南側を支配したことで、紀伊国と広範囲に接することになった。



 その紀伊国を事前に光俊に指示して調べさせたところ、大きく分けて四つの勢力が割拠しており、大名家は存在していなかった。



 まず、宗教的な勢力として、高野山が約十万石、根来寺が約二十万石。

 惣国的な勢力として、雑賀衆が約五万石、熊野海賊がいる熊野衆が約十万石。



 今回、九鬼家の船を襲った熊野衆は、紀伊国では南の位置にある。

 そこには、水運の要衝、新宮湊があって熊野衆の拠点となっている。



 その新宮湊から約半里ほど離れた所に堀内新宮城という城があるが、その城を支配している堀内氏虎に、熊野衆は従っているらしい。



 今後、鳥羽港と堺を定期船で安全につなぐためには、この堀内氏虎率いる熊野衆を叩くしかない。



 ただ、そうすると、気になるのが、高野山と根来寺、そして雑賀衆の存在だ。 

 高野山は、今のところ、どことも繋がっていない中立勢力だから、こちらから仕掛けなければ、戦うことはないだろう。



 問題は、根来寺と雑賀衆。

 俺が紀伊国に攻め込むと、敵に回る可能性がある。

 この二つの勢力は、なんと、いち早く火縄銃を南蛮から仕入れ、量産化に成功しており、火縄銃が主力兵器になっている。



 まず、根来寺だが、根来衆と呼ばれる僧兵集団がいる。

 僧兵といっても剃髪ではなくザンバラ髪が主流で、旗頭の津田算正が僧兵たちの長として権勢を振るっているらしい。

 この僧兵たち、火縄銃を常備し、その数は千をこえると噂されている。



 もう一つの雑賀衆、こちらは五つの組に分かれていて、主に傭兵を生業としている。

 宮郷、中郷、南郷のいわゆる雑賀三組が反本願寺派で根来寺と繋がっており、残りの雑賀荘、十ヶ郷の二組が本願寺派に属する。

 確か、織田信長は、根来衆と、宮郷、中郷、南郷を味方につけ、雑賀荘、十ヶ郷を攻めたはずだ。

 この雑賀衆も火縄銃で武装しており、今はまだ有名になっていないが、近い将来、最強の鉄砲傭兵集団として『雑賀を制すものは全国を制す』とさえ言われるようになる。

 


 うん……。

 各勢力を見比べると、九鬼家は織田家の敵扱いだから、根来寺と雑賀三組は敵、雑賀荘と十ヶ郷は味方にできる位置付けか……。



 やはり、熊野衆を攻める際、根来寺と雑賀三組は敵になる可能性があるな。

 それなら……。



「宗政! 宗政はいるか!?」

 俺は、宗政を呼び、外交をお願いする。

「は、はい? 何でしょうか?」

「今度は、紀伊国だ。雑賀荘と十ヶ郷に行って、雑賀衆に九鬼家の味方になるよう、交渉してきてほしい」



「は、話が見えませんが?」

「紀伊国を攻める際、俺は、味方にできそうなのが、雑賀衆のうちの雑賀荘と十ヶ郷だと考えている。金子は十分に渡す。内々に、九鬼家の味方になるよう交渉してきてほしい」

「は、はい」

 俺は、宗政に笑顔で頷く。

「宗政でなくては、できない仕事だ。よろしく頼む」

 宗政、いつも無茶振りばかりで悪いな。

 




 鳥羽城の近隣の開けた場所。

 ここで、今日は紀伊国攻略のための準備を始める。



「みんな、準備できたな! よーいドン!」

 大和国の南側を支配してからずっと、俺は常備兵を増やすために、努力してきた。

 最近、大和国で採用した兵も含め、だいたい八千人くらい集まった。



 滝川一益に鳥羽城を攻められた時が約千人。

 あの頃に比べて、兵数は約八倍に増えた。

 将来、織田家と戦うにしては、まだまだ心許ない人数だが、少しずつ、態勢が整ってきた。



 そして、最近の九鬼家の財政だが、急拡大した領地からの年貢収入も増えたし、売れ行きが好調の澄み酒などの特産物販売の他、九鬼問屋の儲けも相当ある。

 九鬼問屋の経営を順調に進めるためにも、熊野衆を討たないとな。

 


 俺は、天気の良い日に、合同訓練と称して、常備兵たちを集められるだけ集めて、半里の距離を走らせている。

 ドドドと大勢の兵が走り出したため、ホコリがすごい。



 ゴホゴホと咳き込む俺と近郷。

 近郷の俺を見る目が冷たい。

 また、変なことを始めたと、目が訴えている。


 

 まず、上位千名に入れば、澄み酒一升瓶の褒美を出すことにしたところ、皆、死に物狂いで走っている。

 皆、お酒が好きなんだな。

 


 今日のために、山の中に設置した折り返し地点を回って、次々に戻ってくる兵たち。

 上位の千名を残し、それ以外は、解散させた。

 残った兵は拳を上げて喜び、千名に入れなかった兵は肩を落として各々の陣所に帰っていく。



 俺は、残った千名の兵に、指示を出す。

「よし、皆、褒美の澄み酒だ! 俺から直接渡すから受け取りに来てくれ。澄み酒をもらったら、俺の指示通り並んでくれ」

「ははっ!」

 俺は、澄み酒を渡す際、一人ひとりに握手して、ステータスを確認していく。



 俺は、兵を採用するときは、できる限り、その場で握手してステータスを確認している。

 その際、戦巧者が高い人材は近習などに、そして、政巧者の高い人材は奉行を補佐する職などに抜擢しているため、ここにいる者たちの中には、戦巧者と政巧者の数値が突出した人材はいなかった。



 今回、握手した狙いは、武適正の確認だ。

 体力のある千名の兵の武適正を確認すると、歩士術の数値が高い者が多い。

 足の速さや持久力と、歩士術の数値とは関連性があるのかもしれないな。

 


 まずは、歩士術以外の騎士術や弓士術などの数値が突出している者を選んでいくか……。

「お前はこっちに並べ。お前はこっちだ」

 選んだ人数は、百名ほど。

 この者たちは、各々適性のある兵種に就いてもらおう。

「お前たちは、これから俺の指示通りの場所に行くこと。先導を用意しているから、その者に付いて行ってくれ」

「は、はぁ」

 百名の兵は、先導に連れられて、騎士術が高い者は乗馬の訓練場に、弓士術が高い者は弓の訓練場に、それ以外の者も各自、その適正を伸ばすために相応しい場所に向かって歩いていく。



 ぞろぞろと歩いて離れていく兵たちを眺めながら、残りの九百名の兵たちに声をかける。

「よーし、お前たちには、あちらの広場に行って砲丸投げだ。この石を力一杯、放り投げろ!」

「よーし次は、二町の距離を全力疾走だ! 早く走れ!」

「今度は、走幅跳だ! 遠くまで跳べ!」

「最後にやり投げだ! やりを出来るだけ遠くへ飛ばせ!」



 持久走、砲丸投げ、短距離走、走幅跳、やり投げの五種目を一日で行い、九百名のうち、成績の良い三百名を選出した。

「はぁ、はぁ、死ぬ……」

「げほ、げほ…………」

 ヘトヘトになった兵たちに、俺は、元気になる言葉をかける。



「よーし! 参加した全員に澄み酒を追加で渡そう! それと、これから声をかける三百名は成績上位者として、澄み酒をさらに渡す!」

「お、おぉぉぉ!」

「な、なんと気前の良い」

「よーし、澄み酒をもらったら、今日は解散だ。ただし、成績上位者になった三百名は明日も朝からここに集まってくれ。良いな」

「「「は、ははっ!」」」

 皆、二日酔いで寝過ごすなよ。





 次の日の朝。

 俺の隣には島左近、柳生宗厳の息子の柳生厳勝と柳生久斎、南伊勢でスカウトした吉田兼宗がいる。



 俺は、選抜した三百人を、ある作戦に抜擢したいと考えている。

 その作戦の隊長が柳生厳勝、副隊長が柳生久斎と吉田兼宗だ。

 三人とも戦巧者が高く、年も若く、足も早いので抜擢した。

 


 訓練は左近にお願いする。

 変態的に鍛えてもらおう。

 抜擢したのに罰ゲームみたいだけど、頑張ってほしい。



………………



 整列した三百人を前に、俺は、両手を腰に当てて、立っている。

 集まった三百人は、さすが、身体能力が高いからか、体格が良い者が多い。



「澄隆様、皆、集まりました」

 お、そうそう、挨拶しないとな。

「みんな、昨日はよく頑張った。ここに集まった三百人は、身体能力の優れた者たちだ……。そこで、その身体能力の高さを見込んで、お前たちにやってもらいたいことがある! 命の危険のある頼みだ。嫌だと思うなら今なら抜けても良い。どうだ?」



 だれも、動かない。

 ここに集まってくれたから、覚悟を決めているか。

「よし、全員、覚悟はあるようだな……。今日からお前たちには、この鎧を着てもらう」

 俺が頷くと、俺の近習たちが、赤い鎧を倉庫から持ってきた。



 これは、明珍宗介に作ってもらった量産型の当世具足だ。

 火縄銃対策のために、目の部分のみがV字型に細長く開いた、百足の顔みたいな赤を基調とした鉄仮面付きだ。

 見た目はテカテカと光り、魔性の鎧のような不気味さがある。



「お前たちも知っているだろう。これは、明珍が発明した新しい鎧だ」

 皆、ゴクリと、息を飲むのが分かる。

「この鎧は普通の鎧より重い。だが、お前たちの身体能力なら使いこなせるだろう。お前たちの力を見込んで、この鎧を三百人全員に渡す」



 俺の言葉を聞きながら、三百人全員がキラキラした少年のような目で鎧を見ている。

 新しい玩具をもらえる子供のような目だ。

 まあ、こんな高そうな鎧を貰えるなら、嬉しくて興奮もするか。 



 この三百人分の鎧を製作するのに、蝦夷地交易の儲けなど、これまで稼いだお金を惜しみ無くつぎ込んだ。



「お前たちは毎日、この鎧を着て、ここにいる左近の訓練を全員でしてもらう。戦場でもこの鎧を着て最前線で戦ってもらうことになる。そのための危険手当ても兼ねて、これからは今までの給金の倍を出そう」



 俺は、声を強めに張り上げる。

「お前たちが、これからの九鬼家の最精鋭部隊になる。まずは、紀伊国攻略で戦ってもらうぞ。これからの働きに期待している」



 三百人全員がやる気に満ち溢れた顔をしている。

 お前たち、左近の変態訓練、大変だぞ?

 俺は、絶対に参加しないからな。



 この三百人が、紀伊国攻略の肝になる。

 左近の訓練と並行して、出陣の準備をしよう。

拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも面白い投稿、ありがとうございます。 まるでデカスロンですね! 昔、読んだ漫画を思い出しました。
[良い点] いつも楽しみにしています。 ご無理なさらないように! 誤字報告、しました
[一言] いつも楽しく拝読しております。 体調等もあります。投稿時間は気にしておりません。 繰り返す事で時間は自然にまとまって来ると思います。 焦らず良い作品を投稿ください。
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