第七話 影武者
▽一五六〇年十二月、澄隆(五歳)田城城領内
俺は、光俊たちの村が新しくできてから、悪巧みである内政チートの達成のために、寒いのを我慢して、光俊たちがいる村に定期的に通っている。
今日も宗政と一緒に村に向かって、歩いていると、不意に、後ろから声がかけられた。
「……澄隆さーまぁ」
振り返ると、ネズミ顔の男がいた。
嘉隆の家臣の川面光清がこちらに近づいてきた。
「光清か……」
光清は、何が面白いのか、へらへらと笑った顔が張り付いている。
唇を歪め、俺に声をかけてきた。
「近郷はどうしましたぁ? ぷぷぷっ。もしかして、近郷にも愛想をつかされましたかぁ?」
俺を見下したような口調。
わざとらしく聞いてくる光清は、ここで俺を待ち伏せしていたらしい。
「……」
俺は、絡んでくる光清に、言い返すか迷ったが、そのまま沈黙する。
この光清は、嘉隆の腰巾着として、嘉隆に一番近い家臣の一人だ。
このまま、口答えすると、嘉隆に確実に伝わってしまう。
今は情けなくも、無力に従っている振りをしたほうが良い。
光清は、俺の方に歩み寄ると、俺を見下ろしながら、口を開いた。
「ひひひっ。澄隆さまぁ。いいですかい?」
光清は、意地の悪い笑みを浮かべる。
「新しく村を作ったようですが、嘉隆様のおかげで自由に生活できているのを、ゆめゆめ忘れないことですなぁ……」
光清は楽しそうに俺を脅してきた。
「ひゃひゃひゃひゃ。何もできない澄隆さまぁは、嘉隆様にしっかり感謝をして、ちゃんと新しい村の分の年貢も上納するように……」
光清は、俺に下卑た目を向け、心底馬鹿にしたような笑い声をあげながら去っていった。
前世から見下されるのには慣れている。
情けなく悔しいが、今は、耐える時だ。
馬鹿にされているうちに、力をつければいい。
嘉隆は、光清を使って、俺の動向を探っているのだろう。
今日は釘をさしにきたのか……。
▽
嘉隆に見張られていると言っても、俺は、歩みを止めるわけにはいかない。
忍者を家臣にできた今、次は、影武者をつくることにしよう。
影武者っていう響きが、歴史オタクの心を揺さぶる。
早速、光俊の村で相談する。
「光俊、俺は影武者がほしい。用意できるか?」
驚いた顔をしたが、そこは戦国。
当主は、戦場で真っ先に狙われるし、平時でも暗殺も有りの時代だからか、光俊は承りましたといって、平伏した。
……………
数日後。
俺の前には、もの凄い美少女がいた。
「それがしの一人娘の奈々と申します」
美少女の隣に座っている光俊が奈々を紹介する。
近郷が笑顔で俺と美少女を見比べて、豪快に笑った。
「はっはっは。殿に一番似ているものを影武者にと探したら、おなごでしたな!」
確かに面影は似ているが、こんなに可愛い子が影武者って良いの?
日本人ならではの美人顔といえばいいのか……。
某アイドル事務所の超売れっこの子役が時代劇に出ているようだ。
黒髪は、まるで磨いた黒曜石のように艶があり、美しく長い。
瞳は、長い睫毛で彩られ、宝石のように綺麗だ。
処女雪のような白い肌をしていて、背丈は俺と同じくらい。
百人いれば百人が振り返るほどの圧倒的な美しさ。
俺は、見惚れながら、話しかける。
「奈々、よろしく頼む。髪の毛はどうするんだ?」
「は、はい! か、髪は切って、澄隆様と同じ髪型に致します」
緊張しているようだが、鈴のような綺麗な声で、キッパリと言い切る。
優しげな見た目と違って、芯は強そうだ。
奈々との出会いに戸惑うばかりの俺は、たどたどしく頷いた。
………………
また、数日後。
奈々が、影武者になってやってきた。
髪の毛を切って、俺と同じ服を着ている。
なんだろ。
雰囲気がキラキラしていて、格好が良い。
ちょっと華奢な感じがするが、俺も悲しいけど筋肉がつかないし、俺に確かに似ているな。
ボーと見惚れる。
女の子が影武者なんて、予想外だったけど、念願の影武者だ。
まずは、能力を確認しよ。
「これから、よろしく頼む。握手」
奈々は、きょとんとした顔で手を出した。
うん、その顔も可愛いね。
【ステータス機能】
[名前:多羅尾奈々]
[年齢:5]
[戦巧者:4(38迄)]
[政巧者:8(69迄)]
[稀代者:陸]
[風雲氣:弐]
[天運氣:捌]
~武適正~
歩士術:肆
騎士術:弐
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:参
策士術:陸
忍士術:肆
おおー、能力値が高い!
俺と同い年か。
政巧者の数値なんて、父親の光俊より高いなんて驚いたな。
奈々と話をしていると、年齢以上に気遣いができるところや、物事に対して鋭いところもある。
政巧者の高さを感じるね。
それに、武適正の弓士術の数値も漆か!
奈々には、弓をメイン武器として使うように提案してみよう。
奈々、俺の影武者を頼んで悪いが、これからよろしく頼む!
◇◇◇◇◇
私、多羅尾奈々は、澄隆様の影武者になった。
父上から、影武者になるよう、仰せつかった時は驚いた。
どうも、澄隆様から影武者を用意するように、直々に頼まれたみたい。
澄隆様がおなごにしか見えないそうで、適任がおらず、困り果てて、私に話が来た。
澄隆様にお会いすると、本当に私に似ていて、驚いた。
澄隆様とお話をすると、私の想像より、ずっとお優しいし、私と同い年とは思えない知識を持っていて、人として深みがある。
心配していたけれど、澄隆様のもとでなら、なんとか影武者のお役目を果たせそう。
……私には、年の離れた兄が二人、年の近い兄が一人いた。
その中で、年の離れた二人の兄は、雇われた大名の命令で忍者働きをして、一ヶ月半ほど前に既に死んでいる。
兄様たちが死ぬ前に、話した時のことを思い出す。
『ねぇねぇ、兄様兄様』
『奈々、なんだ?』
『兄様たちは、毎回傷だらけになって辛くはないの?』
『ん? そうだな……』
一番上の兄様が、私の頭を優しく撫でながら微笑みを向ける。
『一族の笑顔のためなら辛くないよ。父上のため、そして、奈々のためなら何でもできる』
いつも優しかった兄様たち。
ウッウッウッ……。
私は、死んでしまった兄様たちの顔を思い出す度に、堰を切ったように声を上げて泣いてしまう。
私も父上の力になりたい。
私もいつか、澄隆様の代わりに死ぬことになるのだろう。
それで良い。
……私は、右手をじっと見る。
「握手なんて、初めてされたな……」
右手には、澄隆様と握手した時の感触が残っている。
澄隆様と手をつなぐと、なぜだか、心が温かくなった。
うん……。がんばろ。
澄隆様を殺させない。
私が守ろう。
今日から澄隆様の影武者だ。
私は、一族のため、父上のために、そして、私が仕えることになった澄隆様のために、影武者として死ぬお役目を全うしようと思う。
―――――――status―――――――
[名前:多羅尾奈々]
[年齢:5]
[戦巧者:4(38迄)]
[政巧者:8(69迄)]
[稀代者:陸]
[風雲氣:弐]
[天運氣:捌]
~武適正~
歩士術:肆
騎士術:弐
弓士術:漆
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:参
策士術:陸
忍士術:肆
アイドル並の容姿を持つ透明感抜群の女のコ。
大好きだった兄たちの突然の死に衝撃を受け、心に深い傷として残っている。
性格は、おおらかで真っ直ぐだが、だいぶ不器用。
他人のために自分を犠牲にしてしまうところがある。
煮魚が大好き。
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拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
次回は、内政チートを進めます。