表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/124

第七話 影武者

▽一五六〇年十二月、澄隆(五歳)田城城領内



 俺は、光俊たちの村が新しくできてから、悪巧みである内政チートの達成のために、寒いのを我慢して、光俊たちがいる村に定期的に通っている。



 今日も宗政と一緒に村に向かって、歩いていると、不意に、後ろから声がかけられた。

「……澄隆さーまぁ」 

 振り返ると、ネズミ顔の男がいた。

 嘉隆の家臣の川面光清がこちらに近づいてきた。

「光清か……」

 光清は、何が面白いのか、へらへらと笑った顔が張り付いている。



 唇を歪め、俺に声をかけてきた。

「近郷はどうしましたぁ? ぷぷぷっ。もしかして、近郷にも愛想をつかされましたかぁ?」

 俺を見下したような口調。

 わざとらしく聞いてくる光清は、ここで俺を待ち伏せしていたらしい。



「……」

 俺は、絡んでくる光清に、言い返すか迷ったが、そのまま沈黙する。

 この光清は、嘉隆の腰巾着として、嘉隆に一番近い家臣の一人だ。

 このまま、口答えすると、嘉隆に確実に伝わってしまう。

 今は情けなくも、無力に従っている振りをしたほうが良い。

 


 光清は、俺の方に歩み寄ると、俺を見下ろしながら、口を開いた。

「ひひひっ。澄隆さまぁ。いいですかい?」

 光清は、意地の悪い笑みを浮かべる。

「新しく村を作ったようですが、嘉隆様のおかげで自由に生活できているのを、ゆめゆめ忘れないことですなぁ……」

 光清は楽しそうに俺を脅してきた。



「ひゃひゃひゃひゃ。何もできない澄隆さまぁは、嘉隆様にしっかり感謝をして、ちゃんと新しい村の分の年貢も上納するように……」

 光清は、俺に下卑た目を向け、心底馬鹿にしたような笑い声をあげながら去っていった。 

 


 前世から見下されるのには慣れている。

 情けなく悔しいが、今は、耐える時だ。

 馬鹿にされているうちに、力をつければいい。

 嘉隆は、光清を使って、俺の動向を探っているのだろう。

 今日は釘をさしにきたのか……。





 嘉隆に見張られていると言っても、俺は、歩みを止めるわけにはいかない。

 忍者を家臣にできた今、次は、影武者をつくることにしよう。



 影武者っていう響きが、歴史オタクの心を揺さぶる。

 早速、光俊の村で相談する。

「光俊、俺は影武者がほしい。用意できるか?」

 驚いた顔をしたが、そこは戦国。

 当主は、戦場で真っ先に狙われるし、平時でも暗殺も有りの時代だからか、光俊は承りましたといって、平伏した。



……………


 

 数日後。


 

 俺の前には、もの凄い美少女がいた。

「それがしの一人娘の奈々と申します」

 美少女の隣に座っている光俊が奈々を紹介する。



 近郷が笑顔で俺と美少女を見比べて、豪快に笑った。

「はっはっは。殿に一番似ているものを影武者にと探したら、おなごでしたな!」

 確かに面影は似ているが、こんなに可愛い子が影武者って良いの?

 日本人ならではの美人顔といえばいいのか……。

 某アイドル事務所の超売れっこの子役が時代劇に出ているようだ。



 黒髪は、まるで磨いた黒曜石のように艶があり、美しく長い。

 瞳は、長い睫毛で彩られ、宝石のように綺麗だ。

 処女雪のような白い肌をしていて、背丈は俺と同じくらい。

 百人いれば百人が振り返るほどの圧倒的な美しさ。



 俺は、見惚れながら、話しかける。

「奈々、よろしく頼む。髪の毛はどうするんだ?」

「は、はい! か、髪は切って、澄隆様と同じ髪型に致します」

 緊張しているようだが、鈴のような綺麗な声で、キッパリと言い切る。



 優しげな見た目と違って、芯は強そうだ。

 奈々との出会いに戸惑うばかりの俺は、たどたどしく頷いた。



………………



 また、数日後。



 奈々が、影武者になってやってきた。

 髪の毛を切って、俺と同じ服を着ている。

 なんだろ。 

 雰囲気がキラキラしていて、格好が良い。

 ちょっと華奢な感じがするが、俺も悲しいけど筋肉がつかないし、俺に確かに似ているな。



 ボーと見惚れる。



 女の子が影武者なんて、予想外だったけど、念願の影武者だ。

 まずは、能力を確認しよ。

「これから、よろしく頼む。握手」

 奈々は、きょとんとした顔で手を出した。

 うん、その顔も可愛いね。



【ステータス機能】

[名前:多羅尾奈々]

[年齢:5]

[戦巧者:4(38迄)] 

[政巧者:8(69迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:捌]

 

~武適正~

 歩士術:肆

 騎士術:弐

 弓士術:漆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:参

 策士術:陸

 忍士術:肆



 おおー、能力値が高い!

 俺と同い年か。

 政巧者の数値なんて、父親の光俊より高いなんて驚いたな。

 奈々と話をしていると、年齢以上に気遣いができるところや、物事に対して鋭いところもある。

 政巧者の高さを感じるね。



 それに、武適正の弓士術の数値も漆か!

 奈々には、弓をメイン武器として使うように提案してみよう。

 


 奈々、俺の影武者を頼んで悪いが、これからよろしく頼む!



◇◇◇◇◇


 

 私、多羅尾奈々は、澄隆様の影武者になった。

 父上から、影武者になるよう、仰せつかった時は驚いた。



 どうも、澄隆様から影武者を用意するように、直々に頼まれたみたい。 

 澄隆様がおなごにしか見えないそうで、適任がおらず、困り果てて、私に話が来た。



 澄隆様にお会いすると、本当に私に似ていて、驚いた。

 澄隆様とお話をすると、私の想像より、ずっとお優しいし、私と同い年とは思えない知識を持っていて、人として深みがある。

 心配していたけれど、澄隆様のもとでなら、なんとか影武者のお役目を果たせそう。

 


 ……私には、年の離れた兄が二人、年の近い兄が一人いた。

 その中で、年の離れた二人の兄は、雇われた大名の命令で忍者働きをして、一ヶ月半ほど前に既に死んでいる。



 兄様たちが死ぬ前に、話した時のことを思い出す。



『ねぇねぇ、兄様兄様』

『奈々、なんだ?』

『兄様たちは、毎回傷だらけになって辛くはないの?』

『ん? そうだな……』



 一番上の兄様が、私の頭を優しく撫でながら微笑みを向ける。

『一族の笑顔のためなら辛くないよ。父上のため、そして、奈々のためなら何でもできる』

 いつも優しかった兄様たち。


 

 ウッウッウッ……。

 私は、死んでしまった兄様たちの顔を思い出す度に、堰を切ったように声を上げて泣いてしまう。



 私も父上の力になりたい。 

 私もいつか、澄隆様の代わりに死ぬことになるのだろう。

 それで良い。



 ……私は、右手をじっと見る。

「握手なんて、初めてされたな……」

 右手には、澄隆様と握手した時の感触が残っている。

 澄隆様と手をつなぐと、なぜだか、心が温かくなった。



 うん……。がんばろ。 

 澄隆様を殺させない。

 私が守ろう。

 今日から澄隆様の影武者だ。



 私は、一族のため、父上のために、そして、私が仕えることになった澄隆様のために、影武者として死ぬお役目を全うしようと思う。

 


―――――――status―――――――


[名前:多羅尾奈々(たらお なな)]

[年齢:5]

[戦巧者:4(38迄)] 

[政巧者:8(69迄)]

[稀代者:陸]

[風雲氣:弐] 

[天運氣:捌]


~武適正~

 歩士術:肆

 騎士術:弐

 弓士術:漆

 銃士術:壱

 船士術:壱

 築士術:参

 策士術:陸

 忍士術:肆


 アイドル並の容姿を持つ透明感抜群の女のコ。

 大好きだった兄たちの突然の死に衝撃を受け、心に深い傷として残っている。

 性格は、おおらかで真っ直ぐだが、だいぶ不器用。

 他人のために自分を犠牲にしてしまうところがある。

 煮魚が大好き。


―――――――――――――――――

拙作をお読みいただき、ありがとうございます。

次回は、内政チートを進めます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 影武者が女性なのが面白い
[一言] 奈々ちゃんが毒殺されないことを祈っています……
[良い点] ありがとー 続きも楽しみにしてます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ