第七一話 鬼神様降臨
▽一五七〇年十月、澄隆(一五歳)大和国
大和国の北西、度重なる戦により屋敷が燃え、田畑が荒れ果て、死体がそのまま捨て置かれている地域があった。
その場所は、盗みや殺しが日常茶飯事。
最悪な治安。
そこには野盗が蔓延り、身寄りのなくした子供たちが隠れるように住んでいた。
俺は、火縄銃で撃たれて療養していたが、数日後、痛みはあるが動けるようになったため、近郷と小太郎率いる風魔一族と一緒に、その地域に向かって歩いている。
俺は、胸に一円玉ぐらいの穴の空いた青い鎧を着て鬼の鉄仮面をつけ、風魔一族も能みたいな面で統一されている。
どこからどう見ても、不気味で怪しい集団だ。
この辺りには、顔に傷がある危なそうな人もたくさん見かけたが、俺たちが怪しすぎて、サア~と道が開けていく。
治安が悪い場所として有名らしいが、ここまで俺たちが怪しいと誰も近づいてこない。
俺たちは、悪漢に絡まれる事もなく、ゴミが散乱し腐臭が漂う道をそのまま歩き続け、打ち捨てられた屋敷の前で立ち止まった。
ここも変な臭いがするが、ゴミがないだけ他よりマシだ。
そして、俺たちは稗や粟で作った大量の握り飯を風呂敷から出して、丁寧に並べた。
そして、俺は『ほら、子供たち、ご飯だ!』と言ったが、だれも、怖がって近くに来ない……。
子供たちは、どうして良いか分からないみたいだ。
仕方ない。
鬼の鉄仮面を外して、再度、『子供たち、ご飯だぞー』と叫んだ。
隣で近郷が『子供たちのご飯を持ってきたから怖がらずに食べなさい』と大声で言うと、ボロボロの服を着た子供たちが、お互いに顔を見合わせながら、恐る恐る集まってきた。
どの子供たちを見ても、頬がこけて、酷く痩せ細っており、その瞳には怯えの色が浮かんでいた。
俺は、鬼の鉄仮面をつけ直すと、『握り飯だ。遠慮なく食べていいぞ!』と言って、並んでいる子供一人一人に握り飯を渡していく。
大人も並ぼうとしたので、『まずは子供たちに渡すのが先だ、残ったら隣の屋敷の前で渡すぞ』と言っておいた。
結局、握り飯はたくさん用意してあったので、子供たちに渡しても残り、隣の屋敷に移動した大人たちにも渡すことはできた。
握り飯を食べている子供たちは、数えたら五百から六百人ほど。
「「「おいしい……」」」
美味い美味いと感動しながら、夢中になって食べている。
食べている子供たちは、ビクビクとしながらも笑顔だ。
俺もその笑顔を見て嬉しくなる。
子供の笑顔は、なんと愛らしいことか。
皆が腹を満たし、喧噪もようやく落ち着いてきた頃。
俺は子供たちを見渡しながら、『俺たちは志摩国の九鬼家だ! 子供たちには九鬼家で働いてもらいたいと思っている。希望する子供は全員、連れていくからここに残ってくれ。ご飯も出すぞ!』と大声で伝えた。
痛てて、胸がズキズキする。
俺の言葉を聞いて、ほとんどの子供は、この場に残っている。
皆、ご飯が食べられるなら、どこでもついて行くと言っている。
俺は、この場に残っている子供たちを呼び、手を一人一人握って、ステータスを確認する。
念のため、風魔一族には、子供たちが危険な物を持っていないか、事前に身体検査をしてもらっている。
ステータスを見ると、政巧者が高い数値の子供が予想以上に多い!
俺は、鬼の面の下で、にぱーと笑う。
急に領地が増えたから、やることがてんこ盛りだ。
近郷は、氏素性が分からない人材を九鬼家に入れるのを嫌がったが、人を増やさないことには、やることが全然回らない。
身寄りのない子供なら、しがらみもないし、他国の忍の可能性も限りなく低いだろうし、スカウトしても良いだろと近郷を押しきってここまで来た。
まあ、何かあったら大変なので、風魔一族に見張らせるが。
それと、俺がこの治安の悪い場所に行くのも近郷は嫌がったが、青い鎧を着れば火縄銃だって防ぐのだから良いだろと近郷を強引に納得させた。
子供のうち、戦巧者が高い人材は、その半分を小太郎に預けて、男は忍者に、女はくノ一に育ててもらう。
戦巧者が高い残りの半分と、政巧者の高い人材は帰ったら左近と宗政に預けよう。
それ以外の子供は男も女も全員、人手が足りない光俊に預けて多羅尾一族の澄み酒や干しシイタケ作りを手伝ってもらう。
俺が、一人一人手を握っていると、十歳ぐらいの兄弟が『なぜ、オイラたちを助けてくれるのですか?』と顔を引きつらせながら聞くので、人手が足りないというのも恥ずかしいから、『戦の世が続く中で、俺ができることをしているだけだ』と言っておいた。
兄弟は、俺の話を聞いた途端、潤んだ瞳から滝のように涙を流した。
別に高尚な気持ちが全くないとは言わないが、本音は人集めだ。
泣く必要はないぞ。
俺は宥めるように、滂沱の涙を流すこの兄弟にゆっくり頷いた。
▽▽▽▽▽
十歳ぐらいの兄弟。
その兄弟は、親を最近の戦で亡くし、身寄りも殺され既になく、空腹のまま、この場所で死ぬのを待っていた。
神様はいない……。
兄弟は、この世に絶望していた。
そこに、現れた集団。
物々しい鬼の面を付けた完全武装の武士が先頭を歩き、その後ろに気味の悪い面を付け、茶渋色の服で統一された者たちがゾロゾロと歩いている。
その禍々しい雰囲気は、見ているだけで背筋が凍る。
この辺りを仕切っている荒くれ者たちも道をあけていく。
「に、兄ちゃん。逃げる?」
「に、逃げたって行くところなんかないだろ!?」
兄弟が動けずにいるなか、その異様な集団が止まり、持っていた風呂敷を開けた。
まるで、奇跡のようなことが起こった。
……え!?
……そこには、握り飯が入っていた。
そして、鬼の面をした武士が、握り飯を食べて良いという驚きの言葉を発した。
そんな信じられない言葉を聞いても、怖くて近付けない。
すると、その武士が鬼の面を外す。
幻想的なその武士の顔。
見惚れるほどの美しさ。
日に照らされて、眩しいほど輝いて見えた。
まるで、神様が現れたようだった。
オイラたちに握り飯を渡してくれた、その美しい武士は、再度、信じられない言葉を発する。
なんと、この地獄のような場所から連れ出してくれるようだ。
本当に神様みたいだ。
感動して、なぜ助けてくれるのかと思わず尋ねてしまった。
失敗した……。
武士へのこんな無礼な発言、殺されても仕方がないと覚悟した。
動悸が激しく、息が詰まる。
ただ、その武士は、失言を咎めることなく、オイラたちを助けたいんだと真摯に答えてくれた。
生きる事を諦めていたオイラたち。
そんなオイラたちのことを真摯に考えてくれる神様のような人が目の前にいる。
オイラは心が熱くなって泣くことしかできなかった。
あとで思い返すと、お礼も言えなかった自分が恥ずかしい。
このご恩は一生をかけて返していかないと……。
オイラは、強くなろうと、己に誓った。
そしてこの日、食べた握り飯は、信じられないほど美味しかった。
一生忘れられない味だった。
▽
俺に質問してきた兄弟が、一番、ステータスが高かった。
日本人には珍しいほどの落ち窪んだ目が特徴の兄弟だ。
その兄弟は、なぜだか泣き続けて宥めるのに苦労したが、二人とも痩せているが背が高く、武適性の歩士術の数値も漆で、将来、戦担当として有望そうだ。
この二人は、左近に預けて、まずは小姓として育てていこう。
【ステータス機能】
[名前:沢満兼]
[年齢:10]
[戦巧者:9(68迄)]
[政巧者:8(28迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:参]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:壱
【ステータス機能】
[名前:沢満清]
[年齢:8]
[戦巧者:6(64迄)]
[政巧者:4(33迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:弐]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:弐
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:弐
築士術:参
策士術:参
忍士術:壱
うん…………左近の地獄のしごきにも参加させよう。
変態訓練、頑張ってね!
―――――――status―――――――
[名前:沢満兼]
[年齢:10]
[戦巧者:9(68迄)]
[政巧者:8(28迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:参]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:壱
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:壱
[名前:沢満清]
[年齢:8]
[戦巧者:6(64迄)]
[政巧者:4(33迄)]
[稀代者:伍]
[風雲氣:弐]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:漆
騎士術:弐
弓士術:弐
銃士術:壱
船士術:弐
築士術:参
策士術:参
忍士術:壱
松永久秀の軍勢に家族を殺され、浮浪児となっていた兄弟。
この歳にしては、ゴッツイ体型。
落ち窪んだ目が特徴的。
兄弟ともに、ガサツな性格だが、地獄のような環境から救ってくれた澄隆を神様として崇め、恩返ししたいと考えている。
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次回は、大和国内で大々的にスカウトを行います。
誰をスカウトするか、皆様の予想を頂けると、とても嬉しいです。
感想、お待ちしております!