第六話 内政チート
▽一五六〇年十二月、澄隆(五歳)田城城
身震いするような寒さに、俺は白い息を吐く。
真冬になり、寒さが厳しい。
ビルなどがない今世では、海風を遮るものがなく、外に出ると、冷たい空気が肺に入って苦しくなる。
正直、この季節、外出は控えたいが、今日は、近郷と宗政と一緒に、新たに領内に引っ越してきた多羅尾一族の視察に行くことにした。
ブルブルと震えながら歩いていると、近郷が前方に見える多羅尾一族の村を指差して言った。
「着きましたぞ! だいぶ村として、できておりますな!」
うん、宗政に命じて、まずは住む場所を作らせたけど、だいぶ形になっている。
ここから見える人数としては、四百人ぐらいかな。
多羅尾一族が、一族総出で、移転してきてくれた。
ここは、第二回、握手会を始めないと!
俺は、くるっと振り向き、近郷にニヤリと笑うと、近郷は何か感づいたのか、呆れたように深い溜め息をついた。
最近、溜め息多いよ。
集まった多羅尾一族に向かって、俺は大声を上げる。
「第二回、握手会を開催する!」
俺の言葉に、すかさず、近郷が大声で前回と同様、俺が感謝を込めて、お手を触れたいのだと言って、フォローに回る。
おお、近郷、声はでかいけど、こういう時、頼りになる。
さあ、今回は良い人材はいるかな?
………………
「これで、全員?」
「まだ、拙者の家族など、数十人は間に合わず、近江から来ておりませんが、今のところ、これで、全員です」
多羅尾光俊が、俺が一族の皆の手を握って感謝を伝えたからか、心から嬉しそうな顔をしながら答える。
その光俊の心に触発されたのか、光俊の配下達も興奮しているようだった。
それで、多羅尾一族に握手すると、忍者働きを生業にしている一族だからか、村人より全体的に戦巧者の数値が高かった。
その中でも、近郷並の人材が三人もいた!
伴正林、伴長信、伴友安という三兄弟だ。
三人とも、武適正のうち、忍士術の数値が肆だったが、歩士術の数値がそれよりも高い陸だった。
つまり、歩兵として戦うことのほうが能力を発揮できるはずだ。
多羅尾一族では、複数の忍者を従える組頭をしていたそうだが、光俊にお願いして、俺の直臣になってもらった。
ちなみに、三人のステータスは、こうなっていた。
【ステータス機能】
[名前:伴正林]
[年齢:22]
[戦巧者:31(47迄)]
[政巧者:9(18迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:壱
弓士術:伍
銃士術:壱
船士術:参
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:肆
【ステータス機能】
[名前:伴長信]
[年齢:20]
[戦巧者:29(51迄)]
[政巧者:14(28迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:弐]
[天運氣:弐]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:参
船士術:伍
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:肆
【ステータス機能】
[名前:伴友安]
[年齢:18]
[戦巧者:24(55迄)]
[政巧者:5(15迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:参]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:肆
築士術:壱
策士術:参
忍士術:肆
この三人以外にも、政巧者の才能で、30を超える者が十人ほどいた。
前世の知識によると、甲賀忍者は薬を扱うことに長け、その名残が現代にも残っており、甲賀市には製薬会社が複数あったと記憶している。
多羅尾一族も薬作りを得意にしているようだし、これは計画していた通り、忍者を活用して、頭の悩ませどころだった内政を進められそうだ。
今日の視察は、建前は移転の進捗確認だが、本音は多羅尾一族が本当に、俺の家臣になる気があるのか、それとも騙しているのかの確認がしたかった。
一族総出で、来てくれたし、握手会でこれだけ喜んでくれたし、まだ不安な面はあるが、ある程度は信用して、内政などをお願いしてみよう。
………………
光俊にお願いして、新しく作った家の部屋を借りた。
「澄隆様、本日はわざわざご足労頂き、ありがとうございました」
光俊が、俺に感謝を述べる。
俺はいやいやと言いながら、早速、今日の目的を伝える。
楽しい楽しい内政チートの時間だ。
「早速、お願いがある。俺がやりたいことを手伝ってほしい。まずは、周辺の情報収集をお願いしたい。特に、波切城の動向は逐次教えてくれ。あとは、内政チートだ! チートとは、『智以登』の当て字で、智を以って困難な壁をよじ登って越えるという意味だ。手伝う際に報酬を出すし、手伝う内容は奇妙なことばかりかもしれないが、九鬼家を豊かにするために必要なことだ」
そう言うと、光俊は、フフっと笑って答えた。
「我々は、もう、澄隆様の家臣です。遠慮なく、なんでも仰ってくださいませ」
光俊は言うことも渋い。
なぜ、ここまで、光俊は俺に無条件に従ってくれるのだろう?
俺は、光俊の発言に嬉しくなって、また少し涙が出た。
「光俊、いろいろ大変だと思うが、俺が考えた内政チートは領内を豊かにする大事な一手だ。この実現のため、頑張ってほしい」
俺は、光俊に注意点を伝える。
「お願いする内政チートの内容は、多羅尾一族、そして近郷と宗政以外には門外不出とする。実現は難しいものもあると思うが、頑張ってくれ」
近郷が隣で、『内政チートという訳の分からない言葉をまた……』と言っているが、『智以登』だと説明しただろ?
慣れてくれ。
「光俊、よろしく頼む! そして、この内政チートだが、俺の発案だと言うことは内緒だ。開発も監督も宗政に全てを任せた!」
宗政が、驚愕し過ぎて、俺を見て『ゑ!』という顔をしたが、最初から宗政を大抜擢して、全て任せるつもりだったぞ。
アイデアを出すのは俺だが、俺は目立ちたくない。
対外的に開発者と認識されるのは宗政だし、現場監督も宗政の仕事だ。
いいね?
さあ、内政チートに取り組もう。
なんとか成果を出すぞ!
◇◇◇◇◇
澄隆様を見送った後、配下の者がボソっと呟く。
「光俊様、澄隆様が仰っていた内政チートというもの、本当に可能なのでしょうか……?」
儂は、配下の者たちを一人ひとり見てから、首を横に軽く振った。
確かに、これが可能なのか正直、分からん……。
「可能かどうかは分からんが、五歳でこんなことを思いつくのは、天才の一言で片づけて良い話じゃない」
儂の言葉に、配下の者たちが頷く。
澄隆様は、五歳にしては考え方があり得ないほど成熟している。
それに、経験の少ない五歳児が、なんでこんなことを思いつくんだ?
……神がかった天才なのだろう。
それに…………澄隆様には、我々には見えない何かが分かるような気がするのだ。
「お前達、澄隆様に手を握られた時、どう思った? 儂は、魂を鷲掴みにされたような不思議な感覚がした……」
儂は、己の右手を見ながら、澄隆様に手を握られた時のことを思い出す……。
澄隆様の小さな手。
その手が、多羅尾一族全員と触れた。
澄隆様は、興味深そうに儂たちの顔を一人ひとり、眺めていた。
儂たちを見下すような言動もなく、その瞳には慈愛が溢れていた。
それを眺めているうちに、儂は無意識に笑っていた。
忍者は外道畜生。
誰からも認められず、信用されず、雇い主にいくら尽くしても、冷遇され、簡単に裏切られてきた。
そんな儂たちにとって、澄隆様に差し出された小さな手がどれだけ嬉しかったか。
そして、澄隆様の『信じる』という一言が、どれだけ救いになったか。
澄隆様に出会ってから、驚きと感激を覚えることばかりだ。
……何か、根本的に器の大きさというか、人間性が、他の大名と全く異なっていると感じる。
内政チートという意味は分からないが、澄隆様のことは信じられる。
「澄隆様が儂達を信頼して任せてくれたのだ。我々はそれに全力で従うのみ。何とか実現するぞ」
その声は、抑揚の少ない静かなものだったが、そこには強い意志が感じられた。
儂は顔を引き締め、右手を力強く、音が出るほどギュウと握りながら、澄隆様の無垢で綺麗な目を思い浮かべ、必ず成果を出すことを心に誓った。
―――――――status―――――――
【ステータス機能】
[名前:伴正林]
[年齢:22]
[戦巧者:31(47迄)]
[政巧者:9(18迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:参]
[天運氣:参]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:壱
弓士術:伍
銃士術:壱
船士術:参
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:肆
【ステータス機能】
[名前:伴長信]
[年齢:20]
[戦巧者:29(51迄)]
[政巧者:14(28迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:弐]
[天運氣:弐]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:参
弓士術:弐
銃士術:参
船士術:伍
築士術:壱
策士術:弐
忍士術:肆
【ステータス機能】
[名前:伴友安]
[年齢:18]
[戦巧者:24(55迄)]
[政巧者:5(15迄)]
[稀代者:参]
[風雲氣:参]
[天運氣:肆]
~武適正~
歩士術:陸
騎士術:伍
弓士術:壱
銃士術:壱
船士術:肆
築士術:壱
策士術:参
忍士術:肆
三人とも多羅尾一族の組頭だった。
三位一体の突撃からの三連撃が得意。
全員、真っ黒に日焼けしていて、見た目は爽やかなスポーツインストラクター。
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拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
次回、澄隆は光俊に影武者を用意するように頼みます。